和解
朝、学院に着くなりマーガレットに廊下の端まで連れて行かれた。
「さら、放課後予定ないわよね?」
「特にないけど?」
「じゃあ空けといてね。予定入れちゃダメよ。」
「わかった。」
そう言うとマーガレットは何処かへ急いで行ってしまった。
内容は昨日私の代わりにジャック様と話をしてくれた事であろうが、放課後の事が気になり午前中の授業内容が頭に入ってこない。昼食時もお昼の鐘が鳴ると同時に教室を飛び出しまた何処かへマーガレットは行ってしまった。
「エレナ、クロエ。」
「なに?」
「マーガレット、お昼ちゃんと食べたかしら。」
「えっ、食べたんじゃないかなー。」
マーガレットの名前を出した途端、クロエの様子がおかしくなった。マーガレットが何をしているか知っているようだ。
「クーロエ。」
「なにかなー?」
「白状しなさい!マーガレットは何をコソコソしているの?」
「言えない。」
クロエは淑女としては落第点が付いてしまうほど顔に出やすいのである。私が何か気が付いていると思っても今回は絶対に教えてくれなかった。横で私たちの会話を聞いていたエレナが大きなため息を付きながら『放課後になれば分かるから。サラに悪いようにはならないから。』と答えてくれた。そう言われるともう何も聞くことができない。あと3時間近く悶々と過ごさなくてはならなくなった。
そして放課後。
「サラ、お待たせ。とりあえず食堂まで行こうか。」
「食堂?」
「そう、食堂。」
そう言った後マーガレットは何も言わず私の手を引き食堂へ向かった。扉を開け中に入るように促される。中に入り部屋を見渡すと一人でポツリと座る人がいた。ジャック様だ。
「マーガレット?」
確かにジャック様と一度話をしなければと思ってはいたが、こんな急に話をする期会が来るとは思ってもいなかった。心の準備が出来ていない。
「ごめんね、黙ってて。昨日グルーバー様の話を聞いて思ったの。二人でちゃんと話した方がいいって。」
「・・・。」
「グルーバー様の話全てを信じたわけじゃないけど、サラも思い違いしてるところがあるようだから。私たちはここに人が入らないように見張ってるね。」
私たち?と不思議に思い入口を見ると、エレナ、クロエそれにホバット様とペータース様までいた。放課後とはいえ誰も食堂にいないというのは普段ではありえない。このためにマーガレットは一日走り回っていたのであろう。
入口の扉が閉められ、前へしかなくなった私。ゆっくりとジャック様の方へと歩いて行く。
「サラ・・・」
「マーガレットにジャック様の話を聞くように言われました。」
「うん、ありがとう。・・・・・、何から話せばいいかな?」
嬉しそうにほほ笑んだ後、少し照れくさそうに笑うジャック様。
少し間を開け、今まで自分たちが遊んできたこと、そしてあの新入生歓迎会で私相手にゲームを始めてしまったこと全てを話してくれた。
「ごめん。謝って許してもらえるとは思ってないけど、でも、あの日アイツらと話をするまでホントにすっかり忘れてたんだ。パーティー以来サラとよく一緒にいるようになって、いつでも自然と接してくれるサラの事がいつの間にか好きになってた。」
「自然?」
「うん。今まで俺に近づこうとするような女性は、欲があって近づいてきた人がほとんどだった。何の欲もなく、ただのジャックとして接してくれるサラが嬉しかった。なんか上手く言えないけど。」
そこまで言われて気が付いた。さっき聞き流してしまっていたが、ジャック様が私の事を『好き』って言った?今頃になって恥ずかしさが込み上げてきた。顔が熱い。
「サラ、大丈夫?顔赤いよ。」
「だ、大丈夫。ちょっとビックリしただけだから。」
「そう?・・・・あの日サラが走り去ったのを見て焦った。週明けに話をすればいいと思ってたけど全然話せないし、休暇に入ったら直ぐに領地に帰っちゃうし。そんな時アンドレアがハーボット家へ婚約申し込みをしようとしてる家が数件あるって聞いて。」
「えっ、私に?ありえない。」
「サラが知らないだけだよ。サラは世間から見れば優良物件だから。」
また優良物件って言われた・・・。
「俺焦って父さんに聞いたんだ。俺の結婚について。そしたら『候補はいる』って言われて肩を落としてたんだけど、俺の希望を聞いてくれた。もうこのチャンスしか無いって思って話したんだ。まあホントに申し込みまでしてくれるとは思わなかったんだけど。」
そう言うとジャック様は席を立ち、私の前で片膝をつき手を取った。
「サラ、好きだよ。誰にも渡したくない。こんな気持ちになったの初めてなんだ。始まり方を間違えちゃったけど、この気持ちは本物です。俺の婚約者になって下さい。」
涙が自然と溢れだす。
ジャック様が本心で言ってくれているのなら、私の返事は決まっている。
「はい。」
「ありがとう、サラ。」
ジャック様は涙が止まらない私を『ごめんね、辛い思いをさせて。サラ、ありがとう。好きだよ。』そう何度も言いながら優しく抱きしめてくれた。