一歩
サラの友達三人が守りを固めているためサラに近づくことすらできない。最近では何とかチャンスを作ろうとチャーリーとアンドレアも協力してくれているのだが、『何なんだ、あの壁は。』『女が協力したらこえー。』と全く手も足も出ない様子だ。このままでは近いうちに婚約の申し込みを断ってくるだろう。そうすれば本当に繋がりもなくなりサラの事を手放さなくてはならなくなる。
時間がない・・・。
そんな八方塞で焦るだけの俺にサラの親友ハンセン嬢が向こうから声をかけて来た。
「グルーバー様、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
俺が友と共にゲームと称してサラ相手に遊んでいたと思っているであろう彼女と話をするのはやぶさかではあるが、サラと接触が出来ない今は一縷の望みである。
「いつでも大丈夫ですよ。」
「では今から。」
そう言われ俺はハンセン嬢と共に学院の食堂に向かった。食堂は放課後と言う事もあり人はまばら。それでも話を他人に聞かれたくないのであろう、ハンセン嬢は一番奥の席へ座った。
「ハンセン嬢は紅茶でいいかな?」
「はい。」
一言も発せられることが無い状況に耐え兼ね、とりあえず飲み物を買いに席を立った。実は普段から凛とした彼女が少し苦手なのである。しかし今はどんな苦手な相手でも縋りたいのである。売店で紅茶を受け取り席へと戻った。
「ありがとうございます。」
そう言って一口紅茶を飲んだ彼女が口を開いた。
「グルーバー様、私回りくどい事は嫌いなので単刀直入にお聞きします。」
背中にひとすじ汗が流れる。
「サラの事、どうお考えですか?」
「どうとは・・・。ハンセン嬢はあの教室での出来事を知っていますよね?」
「はい。その事については親友として、同じ女として腹立たしくあります。なのにサラに何故まだかまうのです。サラはあなたに何かしましたか?」
「待ってくれ、誤解なんだ。いや、誤解されてもおかしくないんだが・・・」
ワケが分からないという顔をして彼女が話を続ける。
「誤解?何が、どこが誤解なんですか?ゲーム?それとも婚約申し込み?」
「ハンセン嬢はサラに婚約を申し込んだ事まで知っているのですね。」
「はい。休暇明けからサラの様子が余りにおかしかったので聞き出しました。誤解なきよう。」
「分かっています。これでもちゃんとサラを見て来たつもりですから。・・・全部、最初から話をするので聞いてくれますか?そしてもう一度サラと話をするチャンスがほしい。」
「分かりました。ここから先はグルーバー様が話終えるまで口ははさみません。ただサラと話をすると言うのは、最後まで話を聞いてから決めさせていただきます。」
「それでいい、ありがとう。」
それから俺は、新入生歓迎会で友にゲームを持ちかけられサラに声をかけたこと、その後サラと時間を過ごすうちに惹かれていったこと、そしてあの日友たちに言われるまでゲームの事はすっかり忘れていたこと。夏季休暇に入りハーボット家へ婚約の申し込みを考えている家が数件あると知り、サラに距離を置かれた今の状況ではまずいと焦った俺は父親に頼みハーボット家へ婚約を申し込んだこと全てを話した。もちろん隣国の王女様との水面下での婚約話があった事は伏せてある。
「では、グルーバー様は本当にサラの事が好きであると?」
「もちろんだ。あの日走り去るサラを追いかけたが間に合わなかった。また週明けに誤解をとけばいいと、その時は簡単に考えていた。サラがあんなに傷つき俺を避けると思ってなかった。しかもあなた達までもが壁になり・・・、いやあなた達は関係ないな。全て俺が悪い。」
「サラと話が出来たとして、グルーバー様は何を伝えるつもりですか?」
「まずは謝罪、それから誤解を解くこと、俺の本当の気持ちを・・・。って、これでは自分の気持ちを押し付けるだけだな。・・・ただ気持ちを伝えたい、婚約は俺の希望だと。」
「分かりました。全面的にグルーバー様が悪いと思う事に変わりはありませんが、二人でちゃんと話をする必要はあると感じました。明日放課後、ここにサラを連れて参ります。今度は間違えないで下さいね、グルーバー様。」
「ありがとう、感謝する。」
やっと一歩が踏み出せた。