新学期
新学期が明日から始まる。気が重い。
「みんなー、元気だった?・・・って、サラ顔色悪くない?」
「大丈夫よ。エマが今日からまた相手してもらえないから張り付いてたの。だからちょっと疲れて。」
「「あー」」
エレナとクロエは納得と頷くがマーガレットだけは横眼でジロッと『ホントは違うでしょ?』と言うように目線を送ってくる。
マーガレット、さすが・・・。
「サラ、今日からも私たちがガードするからね!まだグルーバー様の事許してないんだから!」
エレナが握り拳を作りながら力説する。
ジャック様からの婚約申し込みがあった事は、まだ表沙汰にできないため友達にも話せない。『ごめんね、みんな。』と心で思いながら「よろしくね」と頷いた。
実際、マーガレット達のガードは相変わらず完璧だった。私が一人になる時間は本当にトイレの中くらいしか無かったのではないだろうか。そこまでガードが強化されたのも、ジャック様が私に何とか接触しようと試みるためであるが、新学期になってからホバット様とペータース様も私と接触しようとする事が多くなったためである。
「ホントしつこい!」
淑女らしからぬ声でこう叫んだのはクロエ。今日は休日、マーガレット邸でお茶会ならぬ女子会だ。
「確かに。もう休暇明けから1か月経つんだから諦めればいいのに。」
「ねえサラ?私たちに隠してることない?」
ジャック様たちの執拗さに違和感を感じていたのだろう、今までガードしながらも静観していたマーガレットが問うてきた。今のままでは前にも後ろにも進まない。
「ごめん、みんなに内緒にしている事があるの。」
「やっぱりね。」
「まだ表に出せない話だから黙ってたんだけど、休暇の終わるちょっと前にお父様が領地に帰って来られた時にね、私の婚約話を持って帰って来たの。」
「「えーっ!婚約!」」
「あなた達、落ち着きなさい。ノヴィック様がいなくなった今、サラは優良物件。いくら一度婚約解消してたとしても、大半の者がサラに非がない事を知っているの。申し込みが来たっておかしくないでしょう。」
驚き慌てふためく二人をよそに、冷静に話すマーガレット。何度も思うがさすがです!
しかしマーガレットさん、優良物件って私は不動産かい!
と心の中で一人突っ込みをしたところで
「でっ、相手は?」
「・・・・ジ・・・」
「ジ?」
「ジャック・グルーバー・・・」
「「「!!!」」」
さすがにマーガレットも固まっちゃった。
そりゃそうなるよね、だって私はゲームの駒。休み前に私にバレて気まずくなってるのに何故?ってなるよね。まあ貴族の結婚は親が勝手に相手を決める事が多いから、グルーバー公爵が知らずに話を持ってきたんだろうけど・・・。
いち早く回復し何か考え込んでいたマーガレットが聞いてきた。
「それってもう決定事項?」
普通は格上からの申し込みである、断る事はよほどの事が無い限りできないのが常識。しかし今回はグルーバー公爵からゆっくり考えてもらって構わないと言われている事、よく考えてもまだ婚約する気持ちを持てなければ断りを入れていいと言われた事を伝えた。
「では、断ってもいいって事?」
「そうみたい。リュカ様との事があって、まだ半年だからって。」
また黙り込み何かを考え出したマーガレット。
「サラ、私がこの話の意図をグルーバー様に直接聞いてみてもいい?もちろん他人に漏らす事はしないわ。」
マーガレットやエレナ、クロエの事は信用しているので話が漏れ出る心配はしていない。ただグルーバー様の返答が何と返って来るのかが不安で仕方ない。この話を断ろうとは思っているものの、彼から直接『父親が勝手に決めた。早く断ってほしいから話がしたいだけ。ゲームの事は言うなよ。』などと言われたら私は立ち直れるだろうか。
自分に話をさせてほしいと言った彼女には何か思い当たる事があるのかもしれない。この話を断るにしてもジャック様ともう一度話をした方がいいのだろう。しかしその勇気が持てずズルズルとしている今は、マーガレットに間に入ってもらう方が次に進む勇気が持てるかもしれない。
「お願いしてもいい?ちゃんと話をしないといけないんだろうけど、ジャック様の考えが全く分からないから勇気も出ないし・・・。いつも、ごめんね。ありがとう。」
「まかせて。」