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自室にて

「入って良いぞ」


 体を起こし、答える。扉が開かれ、同じく寝る用意を整えたエルザが入ってきた。手にはトレーを持っていて、二つのカップが乗っていた。


「やっぱり起きてたわね。邪魔するわよ」


 彼女が俺様の部屋に来るのは珍しい。城内用のスリッパを脱ぎ、机にトレーを置き、カップのひとつを手に取って尋ねてくる。


「ホットココアよ、あなたもいるかしら?」

「せっかくだが結構だ」

「そう?残念」


 そのままベッドの前の方に腰かける。ほのかに甘い香りがした。


「寝ながらでいいわよ。あなたこそほんとは疲れてるでしょう」


 黙って言葉に甘えることにする。彼女が座っている方とは反対を向いて横になった。


「お昼のこと、ちょっと気にしているんでしょう?」

「……さぁな」


 気のない返事を返す。少し布団を深めに被り直した。


「生贄の子が死んだのはあなたのせいではもちろんない。冒険者だもの、当然よ」

「狙われたのは孤児だ。彼らが生活に苦しむのは先の戦いの影響も大きい」

「あなた達英雄は十分働いた。それに孤児の貧困もほぼなくなっているわ。初等教育制度のおかげで就ける仕事は大幅に増えている」

「それでも冒険者を志す者は多い」

「それはあなたのせいではないわ。むしろあなたのお陰なのよ」


 冒険者という職業に就く者は多い。モンスターや犯罪者も限りがないからだ。

 彼女はカップに口をつける。ほぉ、と息を吐き出し、続ける。


「いい?冒険者は本来危険で、絶望的で、苦しい生活を強いられるものだった。その待遇を改善し、憧れを得られる職業にしたのはあなた達英雄よ」

「でも危険が絶えたわけじゃない」

「あなた達が戦闘術を発展させたおかげでモンスターとの戦闘は優位に立ちやすくなっているわ」

「それでも死ぬ人がいる」

「それが戦いよ。あなた達に頼りきりではいられない。民は自らを守る手段を持つべきよ」


 それはわかっている。かつての英雄がそうなったように、俺様達もいつ表舞台に大々的に絡めなくなるかはわからない。


「でも、あの老人は魔王を倒すと言っていた」


 彼の言葉が思い出される。


『ワシは魔王になる男じゃ!地下に引き篭っている腰抜けをぶち殺し、ワシがこの国を力で統べるのじゃ!』


 彼は魔王の強さを知らない。だから本気であの程度の戦力で魔王を滅ぼせると思っていた。


「魔王の力を知らしめるべきではあるのではないか」

「十分伝承に残っているわ。それに、力を見せすぎて頼られすぎるようになったら元も子もないじゃない。あなただって本当になんでもできる訳では無いのだから」


 彼女の言うことはもっともなのだろう。


「いつの世も分不相応な野望を持つ者はいる。私たちが考えるべきことは、私たちがそうならないようにすることよ」

「……そうかもしれないな」


 少し気が和らいだ。切り替えたつもりだったが、やはり切り替えきれていないらしい。


「尊大な口調の割に優しいところが我らが魔王様なんだから」

「それは余計な言葉だな」


 エルザはくすくすと笑う。普段とは違う優しい笑みだ。


「……やっぱり一杯頂こうか」


 起き上がり、机に向けて歩く。カップを手に取り、彼女と並んで座る。少しだけ冷めたココアは、ちょうどよく体を温めてくれる。

 黙ってココアを飲み切った。トレーにカップを戻す。


「片付けはやっとくわ」

「助かる」


 気が利く。あんなだが、いい女ではあるだろう。

 再びベッドに戻り、今度はまた布団を被る。


「もう遅くなる。今度こそ寝ることにする」

「そうね。おやすみなさい、いい夢を」


 そう言って彼女は去る。去り際に、寝ている俺様の頭を軽く撫でて行った。足音が遠ざかり、扉が開かれ、また閉じられた。

 なんだか気恥ずかしくて、布団を頭から被り直す。小さくなって寝たい気分だ。高揚した気持ちを抑えようと試みる。

 そこで再びノックが聞こえた。そのまま外から声がする。


「……ねぇ、トレーを忘れたからもう一回入るわよ」

「……あぁ」


 恥ずかしそうな俺様の部屋に、恥ずかしそうなエルザが入ってきて、またすぐに帰って行った。

これで1話に当たる部分は終了です。慣れていないので色々とアレですが、何かあったら書いてくれると嬉しいです。

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