野望の果て
「ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
先に技を放ったのは邪龍の方だった。一際大きく開いた口が一気に閉じる。その勢いのまま強大な光球が放たれ、エルザに迫る。
「甘い!」
彼女は目を閉じたままそれを察知し、姿勢を低くして前へ飛ぶ。
直後、着弾した光球が大爆発を起こす。余波がここまで伝わってくる。向こうの男など腰を抜かしている。当然、近くにいたエルザは大きく吹き飛ばされることとなった…邪龍のいる方へ。
「これが私の…怒りの焔だ!!!」
彼女は吹き飛ばされながら目を開き、構えた腕を頭上に上げる。邪龍の頭に物凄い速度で近づいているが、攻撃した後の奴では反応が遅れる。
「ラース・オブ・ドラゴン!」
龍の頭に球を叩きつける。先程を凌ぐ大爆発がエルザと邪龍を包む。視界が真っ白に染まり、爆風がここまで伝わってくる。足を踏ん張り耐えた。
やがて光が収まる。大きく吹っ飛ばされながらも手をついて着地を決めているエルザと、頭を失い、体を構成する魔力と瘴気のほとんどが離散しつつある邪龍が目に入った。
「あぁ…あぁ……そんな!ワシの計画は完璧じゃったのに!!」
男が頭を抱えて蹲る。俺様はそれに近づく。
「えぇい!貴様ァ!せめてもの!せめてもの貴様は道連れにしてくれるわ!!」
そう言って俺様に向かって何かの魔術を発動しようとした男。しかし次の瞬間、その表情は絶望に変わる。
「貴様には無理だ。俺様を倒すなど不可能だ。魔王という存在の恐怖を貴様には教えてやろう」
「あぁ……あぁ…!!!」
俺様は全力で内気を解放する。その力に魔力が呼応し、俺様の周りを紫色のオーラが生まれる。その大きさに、その圧力に、その質量に、男は絶望する。目に涙を貯め、老いた顔がクシャクシャに歪む。
「貴様…まさか…まお――」
「貴様がそれを口にすることは許されない」
そう言いつつ最大の力を放つ。男は人として漏らしてはいけないものを漏らしながら意識を失った。
「腐れ外道めが」
奴が魔王という単語を二度と口にすることは出来ないであろう。そのレベルのトラウマを植え付けておいた。
エルザと二人で奥に置かれていた棺桶に手を合わせる。中に子供が入っているのがわかるが、生体反応はない。悔やまれる限りだ。
男を縛り上げ、目覚めても動くことすら出来ないようにしておく。発動している魔法陣がないか確かめた。
「……帰るか」
「…えぇ」
後始末を済ませ、直接ギルドマスターの部屋へ飛ぶ。驚いた彼に今回の顛末を説明した。
聞けば、最近孤児院の子供たちの中で冒険者を志望していた者が行方不明になる事件が多発していた。棺桶の数が八つで行方不明者が八人なのでそれが被害者で間違いないだろう。
冒険者に危険は付き物である。それを無くしてしまっては、忘れてしまってはならない。しかし、未来ある若者が亡くなってしまうことはとても悲しい。それもまた事実であった。彼らの冥福を祈り、ギルドマスターの部屋を出る。残党狩りと奴の捕縛は組合が依頼を出してくれるらしい。
「事件の解決は事実だ。冒険者の死を悲しむのはいいが、嘆いてはいけない」
「そうね」
ギルドマスターの部屋を出て、二人で悲しみを振り切る。廊下から直接城へ飛ぶ。流石にまたホールに降りる気分にはならなかった。
魔王城について、補佐官に帰還を報告したあと、真っ先に風呂に入る。体を洗い、湯船に浸かれば、汚れとともに疲れも抜けていく心地がした。
風呂から上がったら夕食の時間だった。優秀なコックの作った料理を黙々と食べる。エルザも黙って食べていた。
その後、本などを読みつつ時間を潰していたが、あまり身につかない。今日は早くに眠ることにする。
「今日はもう寝る。お前も今日は疲れたろう。早く眠るといい」
「あら?そうしましょうかしら。おやすみなさい」
エルザと別れ、自室へと戻る。自室では靴を脱いでいる。寝巻きに着替えて布団を被った。王としては小さいが、一人分には些か大きいベッドが今日は物寂しく感じられた。
しばらくそうしていた時、ノックの音が響く。控えめな強さでゆっくりと叩かれているため、急を要するものではないらしい。