邪龍召喚
「今度は私に任せなさい!」
エルザは手を体の横に構えた。手のひらの間に稲妻が走る。やがて黒い球が出来上がり、それは稲妻をまとい大きくなる。
「ドラゴンフレア!」
手を前に突き出す。放たれた暴力は門番ごと洞窟の入口を覆い内部を蹂躙する。断末魔の声すら爆音にかき消された。
「えっげつねぇ…」
「ふふん」
プスプスと音を立てる大地に引き攣った笑いをしつつ、洞窟内部を駆け抜ける。半ばひしゃげた鉄扉を蹴り壊す。
「だ、誰だ!?」
石室は意外と広い。中央に大きな魔法陣が輝いている。その周りにもたくさんの魔法陣があったが、機能は停止している。その奥に老いた魔族がいる。
「洞窟内部に居た奴らは!」
「さっきの爆発でまとめて吹き飛んだぞ」
爆音とひしゃげた扉で気付いているだろうに、どうやら現実を受け入れられていないようだ。
「な、なんだと!?このワシが長年かけて用意した兵士達が!?」
「街に迷惑をかけたツケ、払ってもらうぞ」
「えぇい、うるさい!ワシは魔王になる男じゃ!地下に引き篭っている腰抜けをぶち殺し、ワシがこの国を力で統べるのじゃ!」
「は?お前には無理だぞ。今なら官憲に突き出す程度で済ませてやる」
言いつつ剣を構える。この爺さんが何をしようと俺様に勝てるとは思えない。
「ふはははははは、そう言っていられるのもこれまでじゃ!これを見よ!」
言われてみると、中央の魔法陣が励起している。とてつもない魔力を大量の霊力で制御している。これはまさか…
「見たか!これが街から攫った生贄で成し遂げたワシの大魔法陣じゃ!全てを喰らう者よ、地獄の底から今いでよ!!」
「なっ!?貴様、外道を究めていたか!」
「許せないわ!」
生贄魔術など官憲に突き出すどころでは済まない。禁呪な上人殺し、外道も外道である。
「これを前にして何が出来る!邪龍召喚!!!」
中央の魔法陣が一際輝く。そこから這い出てきたのは瘴気を纏う龍。魔術によって生み出された、生命ではなくただの兵器。長い首と一対の翼を持った大きな胴体から四足の足が出ていて、太く長い尻尾が台地を叩く。虚ろで真っ黒な双眸がこちらを見据える。
「これでワシは魔王じゃ!」
「ガァァァァァァァァァ!!!!」
龍が首をもたげて叫ぶ。空間がビリビリと震え、大地が揺れる。この龍にはとてつもない力があるだろう。
「許せない…この龍は私が殺る」
「わかった。俺様は奥の男に身の程を教えてやろう」
そうは言ってもこの龍は上位龍であるエルザの敵ではない。同胞を模した邪悪な存在に激怒しているようなので任せることにする。
「我が怒り…我らが竜種の怒り…思い知るが良い!」
「ガァァァァァァァァァ!!!」
龍が特大の炎を吐く。俺様とエルザはそれぞれ右と左に跳ぶ。そのままエルザは龍に殴りかかる。
「せいっ!」
「ガルルァ!」
龍は頭を上げて横からの攻撃を避ける。そのまま口から光線を吐く。
「ふっ!」
それを体を捻って躱し、壁を蹴って再び殴り掛かる。
「らぁ!」
「ガァァ!」
龍の横っ面に鉄拳が刺さり、龍はよろめく。しかし再び血を踏み締め、先ほどよりもさらに怒りを露わにして叫んだ。
「グルルァァァァァァァ!!!!!!」
「きゃっ!?」
エルザはその圧により地面に落とされる。受け身を取って立ち上がるが、先程与えたダメージは大したことがないようだ。
「邪龍にその程度の攻撃は効かぬわ!」
実際には少し効いているようだが、あの男にはわからないようだ。邪龍の強さに酔いしれ、自ら戦うことも忘れている。ここを叩いてもいいが、彼女に任せるべきだろう。
「これは一撃で決めるしかなさそうね」
そう言って彼女は目を閉じ、手を胸の前に構える。同じように両手のひらの間を稲妻が走り、球を形作っている。
「グルルルルル……」
相手の龍も同じ結論に達したらしい。唸りながら頭を上げ、魔力を口元に溜めている。光る球に稲妻が走る。