東の街
切るところがアレですね
東にあるこの街は冒険者の街だ。魔物の襲撃に備え外周を壁で囲い、街の行政区がある北側以外の三方に門がある。
転移魔術持ちは関税をスルーできてしまうので国庫に大金を納めることが義務付けられている。当然魔王として相当の額を納めている俺様は自由に転移を使える。
転移先は直接ここの冒険者組合の長―ギルドマスターの部屋の前だ。胸元の冒険者証は最高ランクを表す白金、その上に紫の糸で転移持ちの刺繍がされている。
エルザは街に来たので尻尾は隠している。角持ちは魔族にもいるが、龍の尻尾は龍族の証であり目立つからだ。彼女の冒険者証は上から四番目の銅である。
扉をノックし、名乗る。
「ダンとエリーだ、気になることがあってきた」
「おう、入ってくれ」
白金冒険者はギルドマスターを直接訪ねることができる。ギルド職員としての権限も持っているため、データベースの閲覧等もできる。そのためなるのが非常に難しいが、魔王の俺様には容易い。
「東の迷宮とこの街の間の洞窟で魔物の大発生を確認した。調査に行かせて欲しい」
「なんだと?どれくらいの規模なんだ?」
「白金が直接出向こうと思う規模だ」
別に暇なだけではなく、確かに限度のない異常な発生である。なので決して嘘は言っていない。
「わかった。しばらく新人の東側への派遣は止めさせる」
「ありがとう」
もう行った分はしょうがないので、明日から止まるだけでも十分である。
「じゃあこのまま行くぜ」
「あぁ、武運を」
ギルドマスターの部屋を出て階段を降りる。ギルドマスターの部屋は三階にあり、一階と二階が酒場を兼ねた依頼受付、奥にギルド職員用のエリアがある。
俺様はギルド職員用の扉を通ってホールへと出る。胸元の冒険者証に視線が集まる。
「あの歳で白金!?」
「しかも転移持ち…ダンって奴か。こんなに若いんだな」
「隣の美少女も銀級だぞ」
「すげぇ」
ここは周りの森や山と東のダンジョンを仕事場にしている冒険者で賑わっている。こうして視線が集まるのは割と快感なので好きだ。そこでエルザに服の裾を引っ張られる。
「こういう視線は苦手なんだ…早く行ってくれ」
「えー。しゃーねぇなぁ」
こいつ、これでいて内弁慶である。照れきって赤くした顔を俯かせ、縮こまって身を寄せてくる。魔王たる俺様に大口を叩いている割に情けない奴だ。
足早にホールを抜け、お昼時で賑わう街を歩き、東側のうち人が少ないエリアに来た。
「なんで転移で直接行ってくれないのよ……」
「ふはははは、あの視線が気持ちいいからだ」
「信じられない、このばか…」
まだ恥ずかしさが抜けていないのか言葉に力がない。こうしている分には可愛げもあるってもんだ。もう少しからかってもいい気がしたが、このまま街を出ることにする。
「まぁ、真面目な話転移すると道中で冒険者を助けられないからな。空を飛んで行く分にはいいんだが、それは街を出てからにしないと不審者だ。門までは我慢しろ」
「うぅ…それならそのまま歩くわよ」
唸る彼女を連れて再び街を歩く。門番に身分証を見せ、街の東側の草原に出る。ここから少ししたら林に入り、洞窟までしばらくその林を歩くことになる。