少年クロム
明くる日、朝からスイを連れて街に出ていた。服や靴を見せたのだが、今のゴスロリ服が気に入っているらしく、「これがいいの」と言っている。まぁ、彼女の体の一部を好きでその形にしているのだ、困ることもないのだろう。
その後、明日以降の旅に必要そうな物を買い込む。寝袋やテントも必要だし、この機会に大きめのものを買っておこう。馬車に積み込むので軽量化と内部空間の拡張の魔術がかかった魔道具のバッグも買う。馬車も含め出費は大きいが、英雄時代の蓄えはそれを余裕で賄える。
そうして準備をした後、お昼時になったので人気のレストランに入った。いい香りがする。獣人の娘が笑顔であちらこちらと働き回っているのが見えた。大繁盛だ。
「いらっしゃいませー!何名様でしょうか!」
「三人だ」
「かしこまりましたー、奥のテーブルにどうぞ!」
広い店内を何人もの店員が行き来する。会計は魔道具で楽々のようだ。ここから見える厨房のスタッフも多い。
「凄い人ね。仕切りのある席で助かったわ」
「混んでるねー」
「あぁ、人気のお店だからな。メニューはこれらしい、美味しそうなのを選んでくれ」
そうして俺様はシチュー、エルザはパスタ、スイはハンバーグを食べた。人気に違わない良い味だった。
「パパ、ママ、あげるー」
「おぉ、ありがとう。シチューも食べてみるか?ここにある肉が旨みたっぷりで美味しいぞ」
「食べるー!」
「パスタも食べてみて」
三人でおかずの交換をする。実の親子のようである。ちゃっかりエルザのパスタも少し貰った。トマトが入ったソースが麺に良く絡む。次はこれもいいな、と思った。スイも三つとも気に入ったようで、嬉しそうに頬を押さえていた。
和気あいあいと食事をとる。厨房にいた店長がデザートをおまけしてくれた。蜂蜜のかかったホットケーキで、特にエルザがその甘みに喜んでいた。俺様も甘いものは好きだが、娘を差し置いて恍惚とした表情を浮かべているのはちょっとどうかと思う。
そうして時間を潰し、約束の時間が近づいた。待たせても悪いので早めに組合に向かう。
「おぉ、昨日の子だ!」
「両親も一緒だな」
「川の字で寝てるんだろうか」
「寝てないわよ!」
相変わらず俺様の陰に隠れるエルザだが、しっかり言い返している。人見知りが和らぎつつあるのかもしれない。他の冒険者も俺様達に遠慮がなくなってきた。
「娘にかっこ悪いところは見せられないからな」
「いちいちうるさいわね!」
照れ隠しにポカポカ背中を叩いてくるエルザにまたほっこりする冒険者一同であった。
カウンターに向けて歩きだそうとした時、俺様達の前に若草色の髪の少年が走ってくる。
「あの!貴方がダンさんですか!」
「あぁ。君がクロムくんか?」
「はい!よろしくお願いします!」
「おう、こちらこそよろしく頼む」
腰に剣を佩いた少年は、スイと同じくらいの大きさだ。まだ九歳らしいが、しっかりしている。
「えっと、初めまして。私はエリーよ」
「スイはスイっていうの!」
「はい、お世話になります。よろしくお願いします」
エルザとスイも自己紹介を済ませている。スイは時々見た目以上に幼い言動をするが、それもまた愛くるしい。
優しそうな見た目をした少年だが、立ち振る舞いに武術を修めるもの独特の動きがある。まず姿勢がいいし、走り方も無駄がなく滑らかだった。しなやかそうないい体をしている。
「よく鍛えているみたいだな、偉いぞ」
「わかりますかね?父に稽古をつけてもらっているんです」
「あぁ、良い教えを受けているのだろう」
「えへへ」
クロムははにかんで笑う。年相応の笑みであった。