スイの実力
そこで、スイの方の受付も終わったようだ。こちらに手招きをしている。付き添いについていくことにしているので、一緒に地下へ行く。
受付嬢の一人に連れられ、地下へと向かう。身体を動かしながら試験官の到着を待つのだが、観覧が自由となっているため仲間探しをしたい新人を初めとして暇つぶしの上級冒険者までいろいろと着いてくる。
「まずはいちばんいい攻撃を的に当てればいいんだよね?」
「ダンの記憶にある最強クラスの魔術なんか使っちゃったら大変じゃないの」
「障壁もあるしそれは大丈夫だろう。しかし、内気を使い切ってしまうと次の討伐試験が苦しくなるから、少し抑えめでいいぞ」
「わかったー」
そこで試験官が登場する。召喚魔術が使える引退した冒険者だ。引退した冒険者は辺境で過ごしたり、組合の職員になったり、稼いだお金を元手に商売を始めたりと色々である。
「よし、君がスイちゃんだね。まずは的に攻撃してもらい、その威力を調べる。準備はいいか?」
「ばっちりだよ!」
「よし、それではいつでもいいぞ」
「なんだかお人形さんみたいな子ね」
「あの服、動きにくくないのだろうか」
多くの観客の中でスイは手を振り上げ、下ろす。
無詠唱で繰り出された水球の魔術は、的の中央に当たる。下級の魔術ではあるが魔力がよく練られている。螺旋を描く水玉を高速で飛ばし、的に穴を開けた。
「すげぇ…」
「真っ直ぐ飛んで行ったな」
「無詠唱か…とんでもない子だな」
ざわめく観衆。当然である。流石はスイだ。
「ふふん」
「なんでアンタが自慢げなのよ…」
スイに視線が向いて元気を取り戻したエルザに脇腹をつつかれる。
「そりゃあ自慢の娘だからだ」
「子離れできなさそうな親ね…」
と、そこでスイがこちらを向いて手を振ってくる。
「パパ、ママー!見てた!?凄いでしょ!」
「おう、流石はスイだ」
「あっ、待って!待って!!」
その瞬間、場のざわめきの種類が変わる。
「あの歳で子供!?」
「おい、あれってダンとエリーじゃないか?」
「素性不明の上級冒険者じゃないか」
「親がアレならその娘もとんでもないんだな…」
完全にエルザは萎縮してしまっている。ちょっと可哀想なので前に立って隠してやると、控えめに服の裾を握ってきた。
「え、何あれ。可愛い」
「あれが…経産婦?」
「それは誤解よ!実の娘ではないわ!」
顔を真っ赤にしながらも叫ぶエルザであった。
「えーっと、あー。続けていいか?次は討伐試験だ。継戦能力を測る目的もあるから簡単に倒せるだろうが第十からいくぞ。倒したらすぐ次のが出てくるから注意してくれ」
「わかったよ!」
スイはものすごくやる気である。ふんす、と鼻息を荒くしている。なにあれ可愛い。
「なんて愛くるしい子なんだ…」
「おい、父親がお前のこと凄い目で見てるぞ」
「流石に白金を相手する勇気はねぇよ」
「娘はやらんぞ!」
野次に父親としての威光を示しつつ、娘の試験を見守る。
初めに出てきたのは魔犬だ。水球で軽く撃退する。観衆が盛り上がる。
「頑張れスイちゃん!」
「一撃!すげぇなぁ」
「この前のクロムも凄かったがスイちゃんもすげぇなぁ」
なるほど、クロムは別に他の冒険者からやっかまれたりしているわけではないらしい。少し心配していたが大丈夫みたいだ。娘の姿に集中できる。
順調に蝙蝠、猪、狼、怪鳥のモンスターを倒していく。まだまだ余裕そうだが、第七階級までしか初めはなれないのでこれで終わりのはずだ。
「この前の少年もだが君もすごいな。まだ余裕はあるか?まだ昇格は出来ないが特別にもう一体モンスターを出せる。これで俺の内気が切れる」
「ぜひ!おねがいするよ!」
スイが楽しそうなので見守ることにする。最後に出てきたのは巨人の姿をしたモンスターだ。タフさに定評がある。
「こいつでどうだ!」
「グォォォォォ!」
「いっくよー!」
叫ぶ巨人。それに全く怯むことなく、スイは高らかに謳う。
『原初の水。祖たる水。我らが力の源よ、我らが恵みの源よ、我らが命の源よ!その者に試練を!ネクタール・オブ・ザ・ランド!』
手を頭上に掲げた彼女の周りに水の嵐が巻き起こる。俺様の使える水魔術の中ではかなり高位に位置する。
「流石は俺様の娘だ」
「ちょっと!まずいわよ、障壁が軋んでる!」
「なに!?うわ、やばい!」
慌てて障壁に魔力を加えて守る。それを見たスイは慌てて嵐を霧散させる。
巨人は跡形もなく吹き飛んでいた。そこに残ったのは腰を抜かした試験官と唖然とする観衆、そしてほっと息をつく父と母と子。
「す、すげぇ」
「なんだあの魔術」
「水属性の上級魔術ね…」
「巨人倒した新人、ここ最近で二人目だな…」
クロムも倒したらしい。彼も大概規格外だな。
「す、凄まじかったな…。えっと、とりあえず試験は終了だ。第七階級の冒険者証を渡すが、実力は十分すぎる。すぐに上級冒険者に手が届くはずだが、何があるかわからないのが冒険者だ。気は抜かないでくれよ」
「わかった!ありがとね、おじさん!楽しかった!」
「お、おう…おじさんはもう疲れちゃったよ」
受付嬢と彼は去っていった。明日、顔合わせのついでに冒険者証を渡してくれるらしい。
興奮冷め止まぬ観衆が盛り上がりきる前に地下を後にする。そのまま外に出て、転移で帰った。
玉座の間。スイが胸を張って俺様達二人を見上げる。
「パパ、ママ、見てくれた?凄いでしょ!」
「流石スイだ」
「えぇ、ほんとに凄かったわ」
二人して彼女を誉め、順番に頭を撫でる。スイは撫でる手を取ってにへら、と笑う。愛らしい。
「でももうちょっと疲れちゃった。ご飯食べてお風呂したらはやくねる」
「おう、お疲れ様。ゆっくり休めよ」
もう夕方である。俺様の眷属でスライムとはいえ、スイは子供らしい。その日はラインに報告を済ませ、三人とも早く寝た。