スイ
「『ミミクル』!」
スライムが擬態の魔法を唱える。すると、体がみるみる形を変えていく。半透明だった体は透明感を無くし、人の形になった。
「おにーさんとおねーさん、がったい!」
俺たちより少し小柄だが、紫の長髪に紅の瞳、ゴスロリ服を着た肌の白い少女がそこにいた。
「喋れるようになった!?」
「いっぱい聞いたし見てた!凄いでしょ!」
「これは嬉しいのぽーずー!」と言いながら満面の笑顔とピースサインを向けてくる。エルザがピースを返していた。
「すごい進化ね…」
「まぁ、俺様の眷属だしな」
「父親面が早いわよ」
そうは言われてもなんだか嬉しい。頭を撫でてやる。
「そういえば、名前とかないのか?」
「なまえ!!!スライムとしか呼ばれてない!僕たち、いっぱいだから」
「そっか、群体なのか」
一回で一群と契約できているようだ。
「おにーさんおねーさん、つけてー!」
「どうしよっか」
「うむ…」
本気で考える。何しろこの子の名前だ、ちゃんとしてやらねば。
「エルザとダルクでエルクとかどうだ?」
「ホントに私とアンタの娘みたいじゃない」
「うーん、じゃあ二人とも関係ない名前を…」
二人でヒソヒソと話し合う。スライムはニコニコしながらくるくる回っている。自分の姿が面白いみたいだ。
「決めたわ、スイにしましょう。水色でスライムだし」
「安直だが、呼びやすいしそれにしようか」
他に良い名前も思いつかない。それにしよう。
「貴女の名前はスイよ!」
「気に入ってくれるか?」
「スイ、スイ、スイ!!いいね!!ありがとう、パパ、ママ!」
「パパ!?」
「ママ!?」
「?名前つける人、パパ、ママ!」
「それはちょっと…」
「……?ちがうの?ずっとながいこと寂しかったの」
「これは悲しいのぽーず」と言いながら泣いている。本当にしょんぼりしていて、なんだか罪悪感が湧いてくる。
「…わかったわ、ママでいいわよ!」
「ちょっと、お前なぁ!」
「!!いいの!?パパ、ママ、だいすき!」
「うっ……くぅ……」
ぱぁっと明るくなった表情に負けた。これを悲しませてはならないと思ってしまった。
ひとしきりスイに喜んでもらったあと、そろそろ帰らなくてはと思いたつ。
「結構時間もたってるよな」
「そうね、そろそろ帰りましょうか」
「スイ、俺様に捕まっててくれないか?」
「!てんいってやつ!わかった!」
スイは俺の手を握ってくる。にへらっと笑い、「えらいひと、むすめさんとてをつないでた」と言っている。可愛いが過ぎるぞ、我が娘よ。
スイの反対の手をエルザが握る。なんだその対抗心は。
「よし、いくぞ。『転移』」
帰ってきたのは魔王城、玉座の間。スイを連れ立ってラインの元へ報告へ向かう。
ラインは俺様達と部屋に入ってきたスイを見て驚愕した後、
「……もしかして、御二方の隠し――」
「事情を説明しようか!」
そして、説明を聞いて一言。
「やはり、お二人の娘さ――」
「いや、スイは俺様の娘であってエルザの娘ではない」
「そうよ、私の娘であってダルクの娘ではないわ!」
「パパ、ママ、けんかしないのー!」
終始こんな感じで城内を説明に回り、「おめでとうございます」してくるメイドやコックを宥めながら、なんとか玉座の間に戻ってきた。
「大変だったわね…」
「あぁ…」
「えへへ、えへへ」
スイが楽しそうなので良いことにする。
「眠くなってきちゃった…ふぁぁ。」
スイがウトウトとした時、擬態の効果が切れる。元の水色の半透明の、小さいサイズに戻った。
「お疲れ様みたいね」
「そうだな」
俺様は迷宮の力でスイの部屋を作る。そのベッドの上にスライムを寝かせた。
「初めからこの姿で説明に回れば良かったかもな」
「まぁ、いいんじゃない?」
そう言ってスイの部屋をあとにする。
こうして、俺様達の城に可愛い娘がきた。
寂しかったスイから見れば人間は寂しくないように見えたみたいです。色々と変えてみましたがどうでしょうか。