従魔術
目の前のスライムと魔力を介して繋がった感覚があった。
「こんにちは!」
「おう、こんにちは」
男の子とも女の子ともつかない小さな子供の声が聞こえてくる。元気に挨拶ができるいい子のようだ。
「ボクたち、工場ではたらいてたの」
「なるほど、いい人達だったんだな」
「うん!よくかわいがってくれた!」
人に慣れたスライムだ。優しく育てられたのだろう。
「それでね、えらいひとがね、『俺たちの会社はもう厳しいんだ。その後君たちを引き取ることはできないから、お別れが来る』って。とってもさびしかったの」
「そうか、悲しかったな」
「うん、でもね、そのひといったの。『ここは魔力が多いから、モンスターがたくさん出てくるだろう。ここなら隠れられるから、このパイプの中で過ごしなさい』って」
スライムはあまり襲われたりしないが、隠れている方が安全なのには違いないだろう。
「でもね、もんすたー?ぜんぜん怖くなかったよ!ボクたちじゅわってするやつ使えるもん!」
なるほど、先程の蝙蝠は強酸で溶かしつつ取り込んでいたようだ。一瞬の早業だったので気づかなかった。
「もんすたーあぶないらしいから、せめてここだけでも安全にって!強くなれたきもするし、いいことだらけだなって」
「えらいな」
「でしょ!えへへ」
ぷるぷると震えるスライムを撫でる。嬉しそうにぽよんぽよんと手に体を押し付けてくる。
「なんて言ってるの?」
「あぁ、実は―――」
エルザに事情を説明する。
「なるほどねぇ」
「凄いだろ」
「えぇ、ほんとに」
このスライムは驚くほど賢い。言われた以上のことをし、積極的に人を助けてくれていた。彼女もスライムを撫でる。
「おねーさん、おともだち?」
「あぁ、そんなもんだ」
「およめさん?」
「いや、違うぞ」
「よくわかんない!」
無邪気なヤツめ、ははは。
「ねーね、おにいさんについていってもいい?さっきのえらいひとが『いつかいい人が来たら引き取ってもらうといい』っていってたの」
「おぉ、それはいいかもしれないな。ちょっと待ってくれ」
スライムの主食は霊力と魔力。さすがに場所は取るし床も湿ってしまうので部屋暮らしだと厳しいが、うちは迷宮だ。余裕である。
「こいつ、魔王城に連れてこようかと思うんだがどうだ?」
「いいんじゃないかしら?困ることもないし、その子がいいって言ってるならいいでしょ。可愛いし!」
エルザはメロメロである。頬が顔が緩んでいる。服装と顔のバランスが素晴らしい。
「よし、せっかくだから契約しよう」
「けーやく?」
「俺様の家族にするってことだ」
「家族!?およめさん?やったぁ!」
「いや、およめさんじゃないぞ」
「えぇ~?えらいひと、およめさん、だいじってずっとずっといってた」
偉い人は愛妻家だったらしい。人格者だな。
「よぉし、今から唱えるから待っててくれ」
「どんとこい!」
「人魔様々、姿違えど心は同じ。同じ地に落ち同じ空に生き。なれば、同じ魂に絆を刻まん!『キン』!」
二文字の魔術だが、効果が大きい分ガッツリと体力や霊力を使う。相手が強いのもあり、魔力が盛大に渦巻いた。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
「きゃー、あはは」
魔力が風を産むが、すぐに収まる。しかし、スライムの様子が少し違う。なんというか、前よりテカテカしている。凄く嬉しそうにぷるぷると震えていた。
「おにーさん、すごい!ちからもらえた!」
「眷属化の力か。スキルや魔術など力の一部を使えるとあったが」
「おもしろそうなのみつけた!!これ!!これしてみるよ!!!」