ダンジョン探検
ここにはモンスターは出現しない。何故だかわからないが一番魔力を感じるはずの場所なのに、一匹たりともモンスターが出ないのだ。
「特に変わったようには思えないが」
「聞いていた通りの場所ね」
配管が剥き出しのこの場所は、かつてボイラー室やスライムの育成を行う場所があったはずだ。
周りの配管を見つつ、奥に向かって歩く。やはりおかしなところはない。
「幻聴じゃないかしら?」
「そのよう―――いや待て、何か聞こえるぞ」
小さいが、何か湿った音が聞こえてきた。何かが這っているような、蠢いているような、そんな音だ。エルザも気が付いたようで、耳を澄ませて警戒している。
すると、地下二階へ向かう階段から蝙蝠のモンスターが降りてきた。普通の蝙蝠より大きなバサバサという音を立てながら、こちらに向かって飛んでくる。
「モンスターはいないはずじゃ?」
「おかしいわね」
そう言って剣を構え、斬ろうとした時――
「なんだ!?」
蝙蝠の傍の配管の繋ぎ目から何かが飛んできて、蝙蝠が消える。飛んできた何かは別の繋ぎ目から配管に入る。
しばらくして、湿った音も聞こえなくなった。何かが飛んでくる気配もない。
「なんだったのかしら…?」
「うむ……」
もしかして、このフロアにモンスターがいないのはあの何者かが原因なのかもしれない。
「とりあえず、この管の奥になにかあるのは確定だな…」
「そのようね」
「調べておくか」
配管は入り組み過ぎているので探査魔術は使えない。
「うーん、どう調べようか」
「配管の奥なら、ここは水道だから水場に繋がっているんじゃない?」
「地下の水場…うーん?」
おそらく地下水路か何かがあるのだろう。少し考える。
「身体強化で聴覚を強化したら水の流れる音とか聞けないかしら?」
「なるほど、やってみる価値はあるな」
霊術と魔術で聴覚を強化する。そうして地面に耳をつけ、水の音を探す。すると、確かに小さな音が聞こえる。部屋の奥の方に行くほどわずかに大きくなっていく。
「部屋の奥側にあるようだな」
「どうにかして入れないかしら」
「どの辺かわかれば掘っていけば……ん?」
部屋の右の奥の方のあるポイントで、音が急に大きくなる。どうやら床が薄いらしい。
「ここ、音が大きく聞こえる。床が薄いらしい。もしかしたらどこかから通れるかもしれない」
「うーん…ほかの場所よりタイルの幅が広いわね…もしかして、取っ手があって開けるようになってたんじゃない?」
「……なるほど?」
言われてみれば、街の下水のように通用口のようなものがあるのかもしれない。
魔術で床の一部に手をかけられる場所を作る。身体強化を全力で乗せて、思いっきり引っ張ってみた。
古くなっていたが、どうやら当たりのようだ。床のその部分がはずれ、埃をかぶった梯子が出てきた。さらに暗い地下へと続いている。
「でかしたぞ。ハシゴがあった」