廃工場の音
その日の夜、夕食と風呂と着替えを済ませた後、いつもの通り玉座の間でエルザと話をしていた。
「そういえば、買い出しに行ってくれたメイドさんが面白い話を聞いたらしいの」
「ほう?どんな話だ?」
「それがねぇ…あっ、怖い話よ!アンタみたいなお子ちゃまは夜眠れなくなるかも」
「不死王の本性とか怖いじゃすまない見た目してたぞ。今更俺様が何にビビる」
「はいはい。じゃあ続けるわよ。それはね――」
なんでも王都郊外にある廃工場で、おぞましい音がするそうだ。
工場は水辺で魔力が豊富にある場所に作られることが多い。その工場はスライムを使った衣服の工場だったらしいが、収益があまりよくなく放棄されたらしい。
魔力溜まりにあるためよくモンスターが発生し、管理者なきダンジョンと化している。また工場からモンスターが出てくることがほぼないため新人の狩場として残されている。そのダンジョンの奥の部屋で、モンスターはいないはずなのに何かの音がしたらしい。
「どう?不気味じゃない?」
「確かに不気味ではあるが、ちょっと面白そうだな。明日あたり行ってみないか?」
「えぇ!?行くの?正直幻聴とかだと思ってるけど」
「暇つぶしにいいだろう。まさか怖いのか?」
「いやいや、そんなことないけど…廃工場ダンジョンよ?散々調査は済ましてあるじゃない」
「まぁ、新人の不安が減るに越したことはないさ」
明日の暇はこれで潰そう。
次の日の朝、ご飯を食べて直ぐに支度を済ませる。ラインにまた出かける旨を伝え、玉座の間で転移の準備をする。
「…本当にその服で行くのか?汚れるし冒険には向かないだろう」
「えぇ!気に入ったのよ!それに言ったでしょ、いい素材なのよ」
彼女は昨日のゴスロリ服を着ていた。化粧は少し抑え目になり、カチューシャではなくリボンで髪の毛を二つ結んでいるが、やはり動きにくそうである。虚空から畳んだ日傘を取り出している。
「うーん…まぁメイドの仕事は確かだろうしな。このまま行くとしよう、捕まれ」
「了解よ」
廃工場前に転移する。今回はギルドを通さず直接調査ができるダンジョンだからだ。
この時期は渡り鳥のモンスターが活発なため、王都近辺の冒険者はそちらに行っていることが多い。ダンジョンは新人も今日はいないようだ。
このダンジョンは地上五階に地下三階のビルの形をしている。特殊な構造をしていて、ダンジョンの機能で地上の入口からは入れないので外階段を伝って屋上から入る。
階段を登っていると時々カラスのモンスターが襲ってくる。外階段は頑丈な格子が高くまであるので落ちることはないが、上からの攻撃は受ける。姿勢を低くしたら十分回避可能だが、俺様たちには大したことないのでただ追い払いながら行った。カァカァという声がうるさい。
「登り切ったな」
「ここから入るのね」
屋上の入口は鉄扉があるが、開きっぱなしになっている。そこから中に入る。
機材等はほとんど持っていかれているので広い部屋がたくさんあるだけだが、窓はあるので中は明るい。
「最高の採光だな、さぁ行こうか」
「……やっぱりわざとじゃない」
「……………サイボーーーグ!!!」
「勢いで誤魔化しても無駄よ」
クスリともせずジト目を向けてくる。サイボーグとは改造された人体のことだそうな。
ダンジョンの地上部分では時々モンスターが出てくるが、ほとんどはネズミなどの小動物が主で、王都でもたまに見かけるようなものばかりである。二箇所ある階段が階ごとに交互にどちらかが通れなくなっていて、毎回フロアを通ることになるがそれだけだ。
地下は暗いが、魔術で暗視を手に入れる。エルザは龍種なので夜目も効く。危なげなく階段を降り続け、ついに地下三階に辿り着く。
あぁ^~廃工場の音ォ^~