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七日目

「あ、おかえ……り?」

「……ああ」

おや、今日は機嫌が悪いっぽいぞ。これはそっとしておくべきかな。

普段から不機嫌そうな顔と言われているが、3年付き合ってきたからわかる。あれは単に目つきが悪いだけだ。

今日はほら、いつもはそうでもない眉間のしわが深くなってる。雰囲気も心なしか刺々しい。

家を出る前は普通だったから出先で何かあったんだろうなー……また僻みが凄い奴らから面倒なこと言われたんだろうか。

どうしようかな、と思っていたら荷物を置いてきた彼女がぼくに寄りかかってきた。あれ珍しいな。甘えた期かな?

甘えた期はぼくが勝手にそう呼んでいるだけであって本当にあるかどうかはわからないけど、彼女はたまにこうして機嫌のいい猫よろしくごろごろにゃんにゃんと甘える時期がある。

ごろごろにゃんにゃんはさすがに語弊があると思うけど、その時は彼女からくっついてきたりキスをねだったりしてくれるのだ。

はーほんとぼくの恋人可愛い……絶対に他の奴には見られたくない。

でもぼくは知ってるんだ。こういう時は調子に乗ってべたべたせずに好きなようにさせておく方がいいんだって。

なのでぼくはいつもの彼女のような平静を装って彼女にされるがままになっていたのだが、向かい合って座る形で耳元でぼそっと「またあいつに言い寄られた」とこぼした。

あいつって……あいつか。ぼくの数少ない友人の内の一人である彼は、どういうわけか彼女にとてつもなく執着しており、ぼくと恋人であるにもかかわらず隙あらば寝取ろうとして来るらしい。

最近では手加減をする慈悲もないと判断し、一切の容赦なくぶちのめすようになったらしいが、まだ懲りてないんだな……

「貴様は俺と結ばれるべきだ。あんなやつのことは諦めて俺の物となれ、だとよ。あいつがどう逆立ちしたって俺が靡くわけねーのにな」

「……毎度のことながら、少々痛々しいね、彼は」

あ、ちなみに前しつこく電話かけてきた友人とは別です。ぼくに一人しか友人がいないと思ったら間違いだよ!

彼女を口説いてる友人は高校時代の友人で、少々中二びょ……痛い発言のせいで浮いてた彼と、表面上の付き合いではあるものの大体の人と接せるぼくが出会い、いつの間にか友人になってたって感じ?

ぼくは他人には良い子ちゃんに見られたいのでそういう演技を欠かしたことはないが、彼はまんまと騙されてくれているというわけだ。当の僕には友情なんて微塵も感じてない。

可哀想?ならあいつの性根を叩き直してくれ。あいつのボンボン発言と我儘にはほとほと呆れてるんだ。

義理のお兄さんは真性のいい人なのになー。浄化はできなかったみたい。むしろ悪化したらしい。人間って難しいね!

ともあれ、そいつのおかげと言うには少々アレだが、彼女の数少ない甘えた期だから、存分に堪能させてほしい。

そう、優しく、あくまで紳士的に彼女を慰められればいい。そうしてできるだけ長くこれが続けばいいんだ……

抱き着かれているのでどんな表情をしているかはわからないが、声音から察するにちょっとむくれた顔にはなってるかな?

そっと、髪を梳くように撫でる。ゆっくりと繰り返せば、こてんとぼくに完全に身を委ねる。

正直この瞬間はいつも寒気のような何かが背筋を走る。なんだろうねこれ。私にもわからん。

安心させるように背中を軽くさする。そうしていると彼女が徐に顔を上げた。

「お前……こういう時だけ紳士的になるなよ」

「え?なんのこと?」

「とぼけんじゃあねー」

「やだな。いくらぼくが馬鹿とは言え、恋人が凹んでるのに気付かずに精神的に疲れさせるほどぼくは我儘じゃないよ」

「……」

あれ?ぼく結構いいこと言ったはずなんだけど、なんで君はちょっと怒った顔なの?

「……誰もそこまで言ってねェだろ」

そう言ったきり、彼女はぼくの胸に顔を埋めて黙り込んでしまった。心なしか抱きしめる力も強くなった気がする痛い痛い折れる。

しかし胸元にかすかにかかる吐息がまた……いかん、煩悩よ去れ!

でも彼女が平常に戻ったらまた存分に甘えさせてもらうつもりではある。

ぼくが何の考えもなしにセクハラしてると思った?残念!ぼくにだって多少の紳士の心はあるのだよ、引き際を弁えてるに決まってるじゃあないか!

それこそやりすぎて彼女の機嫌を損ねてしまえばぼくの人生終わりだからね!

だってぼく、本当に幸せなんだ。

もしも彼女がぼくより好きな人を見つけて離れていってしまったら、ぼく、死んじゃうかもしれないもの。

そうなったらやだなぁ。別れるにしても、ぼくが記憶喪失なりなんなりになって彼女のことが分からなくなってからがいい。

そうしたら少なくとも、自殺する事はないと思うよ。今のところは。

……今はそんな気配を感じられないとは言え、ぼくが外に出れない以上、あいつがいつか強硬手段に出るかもしれない。

それのせいで彼女が深く傷つくことがなければいいと、願うばかりだよ。

…………あー、何も考えたくない。ウシかひよこにでもなりたい。もーもーぴよぴよ。

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