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十三日目

「ふぁー……」

土曜日はのんびりしようかと言うぼくの提案通り、彼女もだらだらしてる。

それでもちゃっかりぼくの足なり腕なりを掴んで離さないんだから本当に君は可愛い。

はぁはぁ食べちゃいたいくらい可愛いよぉ……とはいっぺん思ったけど、さすがにそれは人としてまずいと思ったのでやめた。

今は腰に抱き着いて離れない彼女の頬をむにむにいじる。うーと唸るだけで抵抗しないのがまた愛しい。

決して丸すぎない輪郭を指でなぞりながら頬の弾力を楽しむ。ぱちぱちと眠そうに瞬く睫毛はびっくりするほど長い。

指でゆっくり撫でると猫みたいにぼくの腕にすりすり甘えてくる。ついつい顔がにやけてしまう。

鼻の頭にちゅっ、とキスすると擽ったそうに笑う。駄目。可愛すぎる。

「んだよ。それされると弱いんだよ」

「何、案外くすぐりとか苦手なんだったっけ?」

「そうじゃねーけどよ、なんかよ、お前にそういう風に触られると、むず痒くなんだよ」

「やーだもう!かわいいっ」

今度はぼくが彼女に抱き着いてすりすりする。彼女もくすくす笑いながら抱きしめ返してくれる。

それからしばらくけらけら笑っていると、不意に彼女が起き上がってゆっくりぼくの上に覆いかぶさる。

ぼくは何を言うでもなく黙ってそれを見ていた。

彼女の顔が音もなく近づいて、唇が重なる。離れる時にすぅ、と息を吸い込む音が聞こえた。

ぼくの上に跨った彼女の顔は、夕焼けに照らされてぼんやりと赤い。

時刻は夕方、黄昏時。またの名を、逢魔が時。その名の通り、悪いものに出会いやすい時間。

彼女はいつもと変わらぬ仏頂面だったが、状況のせいもあいまってか、ぼくには全く別の表情をしているように見えた。

何も言わずに何度かキスを交わして目が合う。彼女の瞳は今はターコイズグリーンに見える。

彼女曰く、時たま感情が高ぶったりすると目の色が変わる事があるらしい。なら今はどうだろうか。

大きく深呼吸した彼女は緩慢な動きでぼくの、適当に留めてちぐはぐなシャツのボタンに手をかける。

ぼくはそれを止めることもなくぼんやり眺めている。

やがて上半分のボタンが外れてシャツが肌蹴る形になった。

春ももうすぐそこ、という今の季節でも外気に晒された素肌では肌寒くて少し震える。

彼女は身じろぐぼくを押さえつけるように倒れこんでぼくの鎖骨に口を寄せる。

ちゅ、と小さなリップノイズと同時にちくりとした痛み。ああ、痕つけたな。

細長くてしなやかな指が肌の上を滑る。くすぐったい様な、もどかしいような、表現しがたい感覚が広がる。

しばらく好きにさせていたが、彼女の動きはどんどん大胆になって行っている。そろそろ止めないとまずいか。

「ねえ」

「っん、ちゅ……ふ、」

「ねえってば」

諌めるように彼女の頭を撫でれば、少し不満げな顔でぼくを見やる。

「その辺にしておいてほしいんだけど」

「なんでだよ」

「なんでもだよ」

「嫌だ」

「でもだーめ」

腕を回してうなじに手を這わせればびくりと肩を震わせてはぁ、と息をつく。

「それ、ぞわぞわする……」

「君が止まってくれないからだよ」

「ん……」

ぼくの胸に顔を押し付けるようにしなだれかかった彼女がまたぼくの口に吸いついてくる。

角度を変えながら、肉の弾力を楽しむみたいに。

今度は離れ際に唇を舐められた。ぞく、と背中の辺りが痺れたみたいに反応する。

「なぁ、俺……ずっと待ってたんだぜ」

「……何を?」

「お前が……来てくれるの」

「…………うーん?」

「お前のそういうとこ、俺は好きだが嫌いでもあるぜ」

「えーと、ごめん?」

「無自覚なのに謝られてもな」

彼女は小さくため息をついて、ぼくのズボンに手を……ズボンに!?

「ま、まっ待っ」

「もう待てねぇ。こちとら覚悟は完了してんだ。男見せな」

「いやいやいやいや話聞いて話聞いて!」

「酒で酔わせる計画は物の見事に失敗したからな。真っ向から行くしかねーだろ」

「待て待て待て!!」

ズボンまで引っぺがそうとする彼女の手を必死で押し留めようとする。が。悲しいかな、割と本気で危機感を感じるほどに筋力の衰えたぼくでは話にならないわけで。

このままでは喰われる。いろんな意味で。いろんなものが。そう思ったぼくはもうこれしか考えてなかった。

「御免ッ!」

胸を、両手で掴む。

「ひゃ、ァんッ!?」

それなりの強さでわし掴んだ胸はマシュマロみたいに指の間からわずかにこぼれる。

ぼくのこの反撃が予想外だったのか、普段の彼女とは想像もつかないほど可愛らしい声が出た。

度重なる彼女とのそういうなんかアレで学習したぼくは思った。このまま押し切るしかない。

思わずズボンから手を離したのを横目に見てから、勢いに任せて胸を揉み続けた。

「ぁ、やっやめ、ひ、んぅ!」

「あれ、君ってこんなに胸感じたっけ?」

「うる、せ……きゃっ!誰のせ、んひ!だと……ぁん!」

「あーそうだねぼくのせいだねということで大人しくしなさいっ!」

「や、やだっ、あ、あぁあ」

びくびく身を震わせながら腕を振り払おうと身をよじっているが、力が抜けているのか抵抗らしい抵抗もできていないようだ。

その間に足を絡ませるようにして次は彼女をソファに沈めた。

それから押さえつけるようにキスした。歯はぶつからなかったが結構勢いよく行ったのでなんか変な感じになった。

彼女は足をばたつかせるも、やがておとなしくなった。

くた、と力なく横たわる彼女から口を離して言ってやる。

「まだ、駄目」

逃げてると言われればそれまでだが、まだぼくにはあと一歩と言うところで踏ん切りがつかなかった。

「……ずりぃ」

涙目で荒く呼吸をする彼女はとても扇情的だが、今のぼくには毒だ。

ボロボロの理性に鞭打って「ぼくはあくまで君に対しては紳士でありたいから」と追撃。

途端に拗ねた顔になった彼女は背もたれに向かい合うようにしてそっぽを向いてしまった。

うーん、こうなると長いな。仕方ない。

「いいかい。確かにそういう行為は愛を確かめるにはいいんだろうとは思うよ。でもね、それだけが全てじゃあないだろう」

長い髪を後ろに撫でつけながら子供に言い聞かせるみたいに言う。

「ぼくは、なるべく君と末永くお付き合いしたい。ね?大事にしたいんだ」

「……」

うーん、足りないかな?でもこれ以上は思いつかないなぁ。

「……いっつも、俺のことばっかり……」

「え?」

「んでもねぇよ…………腹減った」

「……仰せのままに、お姫様?」

「るせー」

顔を真っ赤にした彼女の眼尻にキスをしてからぼくは夕飯の支度をすることにした。

やっぱり彼女は彼女で、ぼくはぼく。

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