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十日目 彼女の場合

十日目の彼女視点です。

おはよう、こんにちは、こんばんは。俺だ。

あのクソ鈍感童貞の恋人を持っている。毎日(風呂に入れるのに)苦労するぜ。

どうやらあいつは最近妙な夢を見るとかで満足に眠れていないらしい。

夢のことを聞くと適当にはぐらかされる。俺に言えないことなのか?

そんなあいつが映画を見たいと言ってきたので俺名義で借りさせた。こんなとこでくだらんヘマをしたくはない。

せっかくだし、俺も見ると言ったら心底驚いた顔をされた。てめー、俺を血も涙もない奴だと思ってねーか?

そんなこんなで映画を見始めた。ゼミの奴らが騒いでた割には、大したことねーな。

そう思いながらあいつの方を見たら、泣いてやがる。俺よりあいつのほうがよっぽど冷たい奴だと思ってたが、違ったか……

……いや。この映画の主人公……なんか妙にあいつに似てる気がする。まさか、重ねてんのか?

ぐずぐず鼻を啜りながらも画面から目を離そうとしないあいつの横顔に、言いようのない何かを感じた。

涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃなのに、俺はそれをみっともないとは思えなかった。

ずっと一緒に居よう、と主人公がヒロインを抱きしめる。あーあ。あいつにもこれくらいの気概を持ってほしいぜ。

さりげなく投げ出されていたあいつの手に自分の手を重ねてみた。そしたら存外強い力で握ってきた。おいおい、らしくもないじゃあねーか。

映画が終わってもまだ泣いていてイラッと来たからちょっと乱暴に顔を拭いた。しまった、これ安物のティッシュじゃあねーか。顔が赤くなっちまった。

「お前がここまで泣くとはな。珍しいこともあるもんだ」

「それ地味にぼくのことディスってない?……まぁ、自分でも驚きなんだけどさ」

「あれぐらい泣いたのは幼稚園にいた時くらいだろうな。俺が知ってる限りでは」

「そうそう、あの時は…………ん?」

「あ?」

「え?なんで君がぼくの幼稚園時代を知ってるの?」

「は?」

「んん?」

ちょっと待て。取り繕うつもりで言ったんだが、こいつさりげなくとんでもないこと言わなかったか。

「てめー……まさか」

「えっ……え??」

こいつ……さては俺と出会った時の事覚えてねーな?

何を隠そう、俺だって幼稚園の頃は年相応のガキだった。しかしまぁ、少なからず家族の影響は受けてたんだろうな。

「女の子らしくない」って理由だけでいじめを受けた。大人なら笑い飛ばせるレベルだったが。

それでもその年のガキにはちと堪える。メソメソ泣いてたらあいつが来て言ったんだ。

「女の子は女の子らしくみたいにさ、さいしょっからきめつけるのって、ぼくかっこわるいとおもうんだ。ぼくはそのままの君がいいなぁ」

いつもの腑抜けた顔でふにゃふにゃ笑うこいつに、俺もいじめっこたちもすっかり脱力してしまって、なあなあのまま終わった。

こいつは昔っからふにゃふにゃ笑うのが癖だった。その顔を見ているとなぜか怒る気も失せちまう。

そのせいかあまりいじめの標的にされることはなかった。しかし、だ。

中学の時には既に暗い性格に成り果てていた。それでもふにゃふにゃ笑う癖は消えなかったが、笑うことがそもそもなくなった。

そのために標的にされかけたりもしたが、俺が陰でぶちのめしていたので問題ない。おかげで不良の仲間入りをしたが。

今はそんなことはいい。とりあえず一旦こいつをシメねぇと俺の気が収まらねェ。

全く思い出した様子のない彼氏に一発、右フックをかましてやった。このもやし男、悶絶してやがる。

「いったあ……これ腫れる奴だ……」

「チッ……思い出すかと思ったがそう上手くはいかねェな」

「えっなに?ぼくなんかした?めちゃくちゃ痛いよ?別の意味でまた泣いちゃうよ?」

「てめーがまるっきり俺のことを忘れてるからだろうが」

「えっ、えー……」

ショック療法を、と思ったが効果はなかったのでこの際一切を包み隠さず暴露してやる。どうせ二人しかいねーんだ、気にするこたねぇよ。

全部話したにもかかわらずまだ疑ってきやがったので昔の写真を突きつけたら途端に表情が緩んででへでへ言い始めた。ロリコンではないらしい。

どっちかってーとロリコン(俺限定)らしい。意味が分からん。

「えと……あの、ごめん……」

「ようやっと思い出したみてーだな……やれやれって感じだぜ」

「うん……いやだってこうも変わってると……気付きにくいって言うか……」

「あ?」

「あああなんでもないですぅうすみませんすみません」

必死に土下座して謝る姿が滑稽で見てられなかったので許した。俺はこいつに関しては寛容だ。

しかしまぁ、忘れてた仕返しとして好き勝手やらせてもらった。あひんあひん言ってたがこいつ本当に大丈夫か?

男をやめたいとか抜かしやがるからその度に殴ってでも止めてるが、マジに性転換なんてしやがったらただじゃおかねえ。

最近はここいらをポリ公が走り回ってやがる。鬱陶しいことこの上ない。

俺はこいつと幸せになるって決めてんだ。今更邪魔されてたまるかよ。

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