8話 新しい家族-シュタルム視点
私の名はシュタルム。ヤーデル子爵家の当主だ。私は今妻と、護衛と一緒にうちの領土内の東の森に向かっている。我が領土は北が峡谷、東と西に森、南に海がある。田舎だが結構いいところだ
その森に子供がいるというご神託を妻が受けた。これは、子供がいない私達夫婦に神が贈り物をして下さったと思った。ご神託自体が神の気まぐれで、100年くらいない時もあれば、5年に1度や、10年に1度の頻度である時もあるのだ。それが、私達夫婦に。何ということだ。ご神託の内容は本人と巫女しか知らない。巫女は国で1人だけ。まあ、この国の王や上層部の一部はその巫女から伝えられるから、内容を知っているのは本人と巫女と国の一部の上層部だな
さて、森に着いたのでアレンにでも見つけてきて貰おう
「アレン」
「はい」
「森に子供がいるはずだ。探せ」
「了解」
これで見つかるだろう。アレンは優秀だしな
30分ほど待った後、アレンが小脇に子供を抱えて戻って来た。まて、なんて持ち方をしているんだ。ああ、ほら、気分が悪そうじゃないか。
ドサッ
落すなよ!?「動くな」って、その子動けないと思うのだが
「アレン」
ああ、リーリャが怒っている
「すみません」
お前分かっててやったのか。とりあえず謝ったのかどっちだ。ほら、リーリャの説教受けてこい。そんな顔で見ても駄目だぞ
子供が落ち着いたところで、説教は止めさせた。さて、何から聞こうか
「初めまして。私はシュタルム・ヤーデル。そして、妻のリーリェルだ。君の名前は?」
子供とは男児だったのか。それにしても、綺麗な子だな。薄い空色の髪にハイライトのないグレーの目。彼の雰囲気もあり、氷のようだ。ふむ。クラウドか。この森に住んでいると。ご神託の子はこの子だな。それにしても、彼の表情や、声から感情が察しにくいな。私でこれなのだから、ほかの者にはその容姿も相まって動く人形にでも見えているかもしれんな
それから、彼の家に案内してもらう事になった。リーリャが私よりも強いと聞いて、少し驚いているな。感情が無いわけではなさそうだ
小声でリーリャに聞いてみる
「リーリャ。どう思う」
「お人形さん見たいね。綺麗な顔だし」
「そうだな」
「もう少し話を聞いてみましょう」
さて、話している間に随分と深くまで来たな
「結構深くまで来たな。あとどのくらいだ?」
すると、少年が足を止めた。行き止まり?
いや、どうやら土魔法で入口を塞いでいたようだ。素晴らしいな
そして、少年がボックス持ちだという事が分かった。まあ、これは特別珍しくはないが、何よりこの子は貴重な上位属性が使える。まさに神の贈り物だな
それから、少年に様々な質問をした。聞けば、親代わりだった祖父が死んで、村から追い出されたらしい
だが、村では余所者には厳しいが村人の子供なら、育てる筈だ。だから、村では孤児がいても、村全体で面倒を見る。孤児がいるのは基本的に町の中だけだと思っていたが、違うのか?祖父が余所者だった?いや、この子が孤児として捨てられていたのを拾って育てたのか?後で調べてみよう
何故森で暮らしているのかと聞けば、攫われるかららしい。だから、町へ行こうとしなかったのか。孤児は身分証が必要ない。孤児院へ連れていかれて、そこで始めて発行されるからな。だが、町へ行こうとしたところで人攫いに何度も襲われた訳か。だから、私達の事も警戒するし、言葉も少ないのか
その後、彼を引き取る事になった。もう少し抵抗するかと思ったが、意外とすんなり了承したな。いや、彼は全てを諦めたような目をしていた。元はキラキラと輝いていたであろう銀色の目が、今は濁ってしまっている。どれだけの体験をすれば、こうなるのか。村でもずっと虐げられていたのか。余所者だからと
リーリャと一緒に彼を、いや、私達の新しい家族である息子を、幸せにしようと決めた
いつか、彼の本物の笑顔が見たいと思いながら