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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第90話 自主製作映画はお好きですか? 2



「それでさ~、アイキッスの錬斗が超格好よくてさぁ~!」

「分かるぅ~、昨日の錬斗超格好よかったぁ~」


 教室で多くの生徒たちの雑談が響いていた。

 そんな雑談の中、赤石たちは気落ちした顔で椅子に座り込んでいた。


「やる気がなくなった」

「せやな、俺もなんかやる気なくなってもうたわ」

「そうでござるな、男だけのパートは全部撮り終わったでござるしな」


 赤石たちの覇気のない言葉が、多くの生徒たちの雑談にかき消される。


 赤石たちはヒロイン役の選出に困り果て、教室の中で疲労困憊していた。自主映画製作に属する生徒たちは赤石たちの要求を黙殺し、雑談に興じていた。


「ほら見てみぃ、アカ。あいつらもう俺らのこと全然見とらんぞ」

「誰もヒロイン役をやりたくないなら仕方がないな」


 生徒たちの集団にやるきなく視線を送る三矢に、赤石もまたやる気なく答える。


「もう俺らこのまま作れんのやわ……」

「かもな……」


 赤石たちは諦め、ふてくされていた。


「そ……そう言わずなんとかするでござるよ、二人とも。幸いまだ仕事が振られてない人も多いでござるから、今のうちにウィッグでも……」

「ヤマタケ、それは誤算やな。この中に女っぽい中性的な顔をした奴なんかおらんぞ」

「な……なんとかするでござるよ!」


 山本と三矢のやり取りを横目で見ながら、赤石は首をめぐらせた。

 赤石がめぐらせた視線の先には――


「うぇーーい!」

「…………」


 緑の顔をした須田が、立っていた。


「お、おい、悠! うぇーーーい!」

「どちら様ですか」

「いや俺だろ! 分かるだろ!」

「緑の顔をした知り合いに心当たりはないな」

「いや、ちょっと青汁のみすぎちゃってさぁ」

「面白くない。二点」

「低っ! じゃあエイリアンと交戦中で体液浴びちゃってさぁ」

「大喜利か。十五点」

「おぉ! 七倍強じゃん!」


 須田は喜び、いぇーい、と赤石とハイタッチをした。


「何しに来たんだよ統、っていうかその顔なんだよ」

「いや、俺らお化け屋敷やるじゃん? 予行演習的な感じで、メイクやっててさ。俺のメイク終わって暇してたから悠が今どんくらい出来てんのか視察しに来たわけ」

「なるほど、統はゾンビ役ってことか」

「いや、フランケンシュタイン」

「フランケンシュタインは怪物を作った博士の名前であってその怪物自身ではない、って聞いたことがあるぞ。だからフランケンシュタインだと何もメイクする必要はないな」

「マジかよ、さすが悠、無駄な知識はある。じゃあこうしよう」


 須田はポケットにしまっていたサングラスをかけた。


「いや、違う意味で怖いわ。暗闇からそんな奴飛び出して来たら失禁ものだぞ」

「この線もありだなぁ……」

「いや、世界観が違うだろ」


 須田は、あははと笑った。


「おう須田、息災やったか?」

「おうミツ、元気だったぞ。ヤマタケはどうよ?」

「拙者も特に何もなかったでござるよ」


 須田と赤石の雑談が一区切りついたところで、三矢と山本が寄って来た。


「実は今映画のヒロイン役がいなくて凄い困ってるんでござるよ。須田殿、何か案はないでござるか?」

「え、高梨じゃ駄目なのか?」

「高梨は演劇班だからいないな」


 赤石が情報を補足した。


「えぇ……なら困ったな」


 須田は、赤石たちから離れて集まる生徒たちに顔を向けながら、会話を続行した。


 須田たちがそうして喧々諤々議論を上下させている一方で、生徒たちの雑談は下火になっていた。


「ねぇ見て、あれもしかして須田君じゃない……?」

「え、絶対そうだよ。メイクしてるけど私何回も見たことあるもん……」

「え、須田君ヤバい、嘘でしょ、なんでこんなところに……? 文系クラスなのに」


 クラスの女子生徒たちが須田を見て、ざわつき始めた。


「おいあいつ須田だろ……。まじかよ、赤石と仲良かったのかよ」

「そういえば俺須田と赤石が二人で昼ご飯食べてるって噂聞いたことあったわ。絶対嘘だと思ってたわ」

「俺も嘘だと思ってた。てっきり便所飯してるんだとばかり……」

「嘘だろ、須田と赤石が仲いいって信じられねぇ……。赤石っておかしい奴じゃなかったのか?」

「いや、赤石が怒ったこともあったけど、実際あれは平田が悪かったし、赤石が悪い訳じゃなかったんじゃないのか、実は」

「そうかもしれない。間違ってたのは、俺たちだったのかも……」

「だよな、どう考えても平田の方が悪かったよな……」

「…………」

「…………」


 男子生徒たちは顔を見合わせた。

 女子生徒たちのボルテージは、刻一刻と高まっていく。


「え、あの水泳の須田君? 私ちょっと声かけてみようかな」

「止めなよ三葉、赤石いるじゃん」

「いや、赤石そんな悪い人じゃないって絶対。あの時はともが絶対的に悪かったでしょ。皆もともなんかに味方するの?」

「いや、それは……」

「だってあの須田君と仲がいいんだよ? 絶対おかしい人なんかじゃないし、赤石もいじめに決然と立ち向かってたのは格好良かったと私思うよ」

「それは……」

「え、赤石君ってもしかして頭おかしい人じゃないの?」

「正義感の強い人……みたいな?」

「そう……なのかな」

「私、ちょっと話しかけてくる」

「ちょ、三葉!」


 女子生徒の中でも一際赤石に対して嫌悪感を抱いていなかった女子生徒、暮石三葉くれいしみつはは赤石たちの下へと駆け寄った。


「すいません、須田君……ですか?」

「?」


 須田は暮石に視線を向けた。


「えーっと……ごめん、誰か忘れちゃったわ。一年の頃同じクラスとかだった……っけ?」

「え……えと、別にそんなことないんだけど、今何の話ししてるのかなぁって……」

「あぁ、なるほど。えっと、今背を伸ばすために一番有効な策は何か、って話をしてて」

「おい嘘をつくな、嘘を」


 赤石は須田を軽く小突いた。


「ごめんごめん、冗談冗談」


 須田はあはは、と笑いながら手を合わせた。

 赤石は苦い顔をしながら、説明を交代した。


「今、自主製作映画のヒロインが決まらな……」


 と、途中まで話したところで、口を噤んだ。

 もしこの話を女子生徒にしてしまえばヒロイン役がいないということを突きつけることになってしまうんじゃないのか。


 女子生徒たちが協力をしないからヒロイン役が決まらないんだ、と抗議をしているように聞こえてしまうんじゃないのか。ひいては、やりたくもないヒロイン役を押し付けることになってしまうんじゃないのか。そう考え、口を噤んだ。


 そして、その赤石の思考は暮石にも伝わっていた。


 あぁ、私のことを考えて途中で黙ってくれたのか。

 暮石はそう、理解した。


 やっぱり、悪い人でも頭がおかしい人でもない。正義感がちょっと強すぎるだけの、普通の男の子。

 そういう所感を、抱いた。


「あ、あのさ……」


 暮石は口を開いた。

 赤石たちは視線を向け、話を聞く。


「良かったら私がヒロイン役――」


 そこまで言いかけた時、


「赤石君、私が窮地を救いに来たわよ」


 教室のドアが勢いよく開けられ、暮石の言葉はかき消された。


「救世主の登場をあがめなさい」


 扉の前で、高梨が腰に手を当て赤石を見下ろしていた。


「なんで高梨がここに?」

「あれ、お前演劇班って聞いたけど?」


 赤石と須田が高梨に疑問をぶつける。


「あら統貴、あなたこそこんな所でなにしてるの。四組の人があなたを探してたわよ」

「え、マジかよ! メイク終わるの早ぇ! ごめん悠、また今度!」


 須田は短く別れの挨拶をし、教室を出た。


「さぁ、映画製作の話をしましょうか」

「はぁ」


 高梨は赤石たちの下へと、歩み寄った。



 

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