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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第89話 自主製作映画はお好きですか? 1



 休日が開け、平日がやって来る。

 五月の下旬、文化祭がいよいよ間近に迫ったことで、放課後の学内は大いに活況を呈していた。


「おはよ~、文化祭の準備出来た~?」

「あ~、こっちまだ結構かかりそう。そっちは~?」

「こっちもまだもうちょっとかかるかも~」


 そんな文化祭の進捗状況を確認する言葉が飛び交う中、赤石は焦っていた。


「ヒロイン役が見つからない……」

「ほんまやで……」

「かなりヤバいでござるな……」


 赤石、三矢、山本の三人が顔を突き合わせ、教室の中で苦悶していた。

 あれから何度もヒロイン役を募ったが、人望もない赤石に協力するような女子学生がいるはずもなく、自主映画製作という計画も頓挫しつつあった。


「これはほんまにヤバいで。やっぱり俺が女装して……」

「何をいってるでござる、誰も三矢殿の女装なんて見たくないでござるよ」

「何言っとんねんお前は! もうこの際仕方あらへんで!」

「困ったな……」


 三人は映画製作の班員を見るが、女子生徒は頑なに目を合わせなかった。

 望んでいない配役を無理やりに押し付けることも出来ず、赤石たちは酷く狼狽していた。


「ヤバいぞ……間に合わん……どうしたらええんや」


 解決策の見つからないまま、映画製作の脚本と格闘していた。






「あぁロミオ、あなたは本当にロミオなの?」


 中庭で、水城の玉音が響いた。


「あぁ、ジュリエット。君は僕の本当の名前を知ってくれたんだね。アカウント名から僕の本名を導き出すなんてジュリエット、君はなんて聡明なんだ」


 櫻井が、その声に返答する。


「カットカットカーーーーーット! 聡助ちょっと顔赤くしすぎ!」

「由紀、お前だからこんな公衆の面前で抱き着くなって!」


 文化祭を間近にしてようやく配役の決まった櫻井たちは、演劇の練習に励んでいた。

 多数決の結果に満足しなかった生徒たちが暴動を起こし、結果的にくじ引きでの配役の選出となったが、水城と櫻井がジュリエットとロミオの配役を引いた。


「あぁ~、本当水城たんのジュリエット良い……最高だわ」

「俺も俺も。水城ちゃんのジュリエット役を見られただけで、演劇班に立候補した価値あったわ……」

「水城ちゃん最高……衣装を着たらこれ以上に可愛さが増すのか……」

「「「あぁ……」」」

「「「あんな水城ちゃんと一緒に演劇をするなんて、櫻井死ね!」」」


 男たちは櫻井を睨みつけた。


「あぁ~。本当面倒臭いわ、このクソ寸劇。男共も馬鹿みたいに水城水城ってうっせぇしさ」

「本当、分かるぅ~~~~~。ぎゃあぎゃあうっさいよね、あの猿共」

「本当、超面白くないんですけどぉ~」


 平田とその取り巻き達は尚、隅で演劇の様子に毒を吐き、協力的な姿勢を示さなかった。


「あいつがジュリエットになってたら今頃俺らテーブル役とかやらされてた可能性あるよな」

「あぁ、あり得る」


 地面に座り込み、悪罵をしている平田を見ると、男たちは陰で恐れ慄いた。



 水城と櫻井の会話で演劇の練習が一区切りつき、水城は花壇の座面に腰を下ろした。


「お疲れ、水城ちゃん!」

「あ、ありがとう冬華ちゃん」


 葉月は水城に水を渡し、櫻井にも笑顔を振りまき、てこてこと歩み寄った。


「えっとね、えっとね……櫻井君、演技してるところ格好よかったの!」


 顔を赤らめながら、櫻井に両手で水を渡す。


「お、おう。サンキュ、冬華」

「う……うみゅう」


 葉月は顔から火が出るほどの赤さで恥じ入り、俯いて後退した。


「水城さん、中々名演技だったわね」

「……あ、その、高梨……さん」


 葉月が去った後、高梨が水城に近寄った。


「くじの結果だから仕方ないけれど、今回はあなたにジュリエット役を――」

「水城ちゃん、ちょっとあっち行こ?」

「え、あ、う、うん、ごめんね、高梨さん」

「…………」


 高梨が喋っている最中、葉月が二人の間に横入りし、水城の背中を押した。


「何か言いたいことがあるのかしら、葉月さん」

「えぇ~。別になんでもないよぉ~」


 葉月は振り返ることなく、返答した。


「…………」

 

 高梨は冷えた目線で葉月を射抜く。次に、近くにいた八谷の下に足を向けた。


「八谷さん」

「あ、恭子ちゃんもあっちで休憩しよっ?」

「え……あ、その……えっと、あの……」


 高梨が八谷に話しかけたことが分かると、葉月は八谷にも大声で話しかけた。


「あの……えっと……」


 八谷はしどろもどろになりながら、俯いてもじもじとする。


「いいわよ、行きなさい」

「…………」


 八谷は満面に慙愧を湛えながら、葉月の下に歩んだ。


「新井さん……」

「えー、ごめん、私今聡助と喋ってるから後にしてぇ~」

「……そう」

「……」

「……」

「……」


 高梨は立ち止まり、周囲を見た。


「高梨さんって実は――」

「なんか前、演劇の準備してたのに――」

「櫻井君に言い寄ったとか――」

「自分に自信があるからって私たちのこと馬鹿にしてたりしてたんだって」

「えぇ~、やっぱり。私なんか高梨さん怖かったのよね」

「なんか裸で校内歩いてたとか――」

「やっぱりお金持ちの人って考えることよく分からないよね」

「なんかちょっと高梨さんって怖いよね」

「やっぱり、なんかお金持ちじゃん、高梨さん。私たちのこと下に見てたんじゃない」

「そうだよね、なんかいいとこの子だよね。私たちとは生きてる世界が違うんだよ」

「ねぇ、怒らせたら怖いから黙ってよ?」

「駄目、見たら何されるか分からないよ」


 高梨を取り巻く環境は、休日を挟み、大きく変化していた。


「…………」


 高梨は客観的に、自身の陥った状況を整理した。


「困ったわね」


 少し眉根を寄せながら、高梨は顔をしかめた。


 多くの生徒たちが高梨を避けていた。

 それは、明確な非難や軽蔑をもってして生まれたものではなかった。高梨を畏怖し、恐れ慄くようなそれだった。


 前回の櫻井とのデートでさんざ場の雰囲気を悪くしたことが原因か。

 行動と煽動の主犯から、犯人は明確に葉月だと、信じて疑わなかった。


「どうしてなのかしら」


 高梨は、心底疑問に思っていた。

 どうして自分が葉月からこんな仕打ちを受けているのか。


「ねぇ」

「あ、ごめん、座るよね、うん、すぐどくから」

「……」


 女子生徒に話しかけてみるが、恐怖を感じているのか、すぐに逃げられる。

 それは自分が金持ちの令嬢であるが故なのか、あるいは性格が影響しているのか。


「はぁ……」


 高梨の居場所は、なくなった。


「ねぇ櫻井君」

「ん、どうしたんだ高梨?」

「私、映画製作の班に行ってもいいかしら?」

「え…………」


 絶句。


「まだ演劇も配役が決まったばかりよね、なら私が映画製作に行ってもいいわよね。それに、赤石君の所が行き詰ってるって噂があるのよ。私は赤石君の所に行ってくるわ」

「え、なんで、高梨、ちょっと!」


 高梨は櫻井の声を背中で聞きながら、教室に向かった。




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