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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第88話 取り巻きはお好きですか? 6




「あ、皆ここの近くに最近話題の可愛いアイスクリーム売ってるところあるんだけど、行ってみない?」

「おお、なんだそれ、面白そうだな」

「えぇ~。行ってみたい」


 昼食を食べ終えショッピングモール内を練り歩いていると、葉月が唐突に音頭を取った。


「じゃあ皆、行ってみよ?」


 葉月は櫻井たちの先頭を歩き、目的の店へと向かった。






「ここでーす!」


 櫻井たちはネットで話題になった『ラ・ファルク』という店舗に着いた。


「ここのアイスクリームが凄い可愛いんだってぇ~」

「へぇ~、可愛いアイスクリーム見てみたい!」


 水城は手を合わせ、目を輝かせた。


「私もちょっと見てみたいし~」

「俺もちょっと気になるなぁ」


 続いて、新井と櫻井が賛意を示す。


「じゃあ行ってみよ、皆?」

「冬華だけやけに張り切ってるなぁ」

「むぅ~、櫻井君のばかばかばか! そんなことないもん!」


 葉月は頬を膨らませ、ぽかぽかと櫻井の肩を叩く。


 櫻井たちは店の中に入り、一時間ほどの待ち時間の後、目的のアイスを手に入れることが出来た。





「わぁ~、可愛い~」

「でしょ~、水城ちゃん? 私も凄い嬉しい~」


 葉月は持っていたアイスクリームをしきりに撮影していた。自分の姿が入るように、アイスクリームだけが映るように。様々な画角を試しながら、撮影していた。


「恭子、これ可愛いな!」

「そ……そうね、確かに可愛いと思うわ」


 櫻井はアイスを食べていた八谷に近寄り、話しかけた。


「でも、あまり美味しくはないわね」

「いや、何言ってんだよ高梨! 失礼だろ!」

「千円の価値があるのかと言われれば甚だ疑問を感じずにはいられないわね。そう思わないかしら、八谷さん?」

「え……いや、こういうのは作るのに手間がかかってるから食べるだけのものじゃないと思うわ」

「だよな、恭子! さすが恭子はいいこと言うなぁ」


 近くのテーブルで喋喋喃喃と櫻井たちは話し合い、葉月たちは写真撮影に熱を入れる。

 櫻井は高梨の言葉を否定しておきながらも、アイスクリームを食べきるのに難儀していた。


 やがて高梨たちはアイスクリームを食べ終わり、雑談に興じた。


「そういえば櫻井君、赤石君の様子は最近どうかしら?」

「え、赤石? いや、何言ってんだよ、お前の方がよく知ってるだろ?」

「どうしてそう思うのかしら?」

「いやいや、お前最近赤石といつも昼飯食ってるだろ?」

「まあ、そうね」


 顔色一つ変えず、高梨は返答する。


 八谷は高梨を見た。

 高梨が以前、赤石に告白しようかと持ち掛けていたことを思い出した。結局の所、勘違いということで話は終わっていたが、告白するということが勘違いなのか、勘違いでないのかは定かではなかった。

 だが、今更になって高梨にその当否を確認すれば自分が赤石に対して並々ならない感情を持っていると思われる気がして、尋ねることが出来ていなかった。


 今、尋ねるべきか。


 八谷は口を開き、 


「あの、高梨さ……」

「皆―――、次の所行こぉ?」


 八谷よりも早く、葉月の声が櫻井たちに届いた。


「お……おぉ、そっちも終わったのか、じゃあ行くか」

「……そ、そうね!」

「分かったわ」


 今聞く事でもないか……。

 八谷はそこで会話を終了させ、櫻井たちと共に葉月の下へと向かった。


 ゴミ箱には、葉月の捨てた、手の付けられていないアイスクリームがあった。





「わ~、櫻井君見て見て~」

「お、どうしたんだよ冬華」


 櫻井たちはその後もショッピングモールを練り歩き、小さなペットショップの前にいた。


「わぁ~。すごい可愛いハリネズミ。ねぇ、櫻井君どう思う?」

「ああ、そうだな。可愛いハリネズミだな」


 葉月に呼ばれた櫻井はハリネズミのショーケースの前でしゃがみ、ハリネズミと目を合わせた。


「あ、すごい可愛いこの猫ちゃん。見てみて八宵っち、恭子っち」

「あら、確かに可愛いわね」

「そうね、可愛いわ」


 新井は櫻井たちを撮影し、高梨たちは猫を見ていた。


「わ~、可愛い子がいっぱい。どの子が一番SNS映えしそうかなぁ?」


 何の気も無しに、葉月が言った。ショーケースの前を回り、値踏みをするような目で睥睨する。


「……葉月さん」

「……何」


 葉月の発言を聞いた高梨が、歩み寄った。

 葉月は多少のイラつきを隠すことなく、太々しく対応する。


「ペットをそういう目で見るのは止めなさい」

「…………は?」


 ぴしゃり、と高梨は言い放った。


「え、可愛いと思って見ちゃダメってこと? 高梨さんは意味の分からないことを言うね~」


 ふぇぇ、櫻井君、高梨さんがよく分からない事言うよ~、と言いながら、葉月は櫻井に走り寄った。


「別に可愛いと思って見るなとは言ってないわよ」

「じゃあどういう意味なの?」


 つぶらな瞳をころころと動かしながら、葉月は小首をかしげた。


「ペットをSNS映えするかどうかで見るのは止めなさい、って言ってるのよ」

「…………なんで?」

「ペットは、モノじゃないからよ。あなたの所有物なんかじゃ、ないわ」

「……」


 あからさまに毒気のある発言に、再三、櫻井たちの雰囲気が悪くなる。針で一突きしてしまえば簡単に割れてしまいそうな、張り詰めた空気感。


「別にペットをモノとして見てるわけじゃないんだけど。ちょっと櫻井君助けて、高梨さんの言ってることがよく分からないよぉ~」

「聡助君を巻き込むのも止めなさい、って言ったはずよ」


 櫻井の下に逃げる葉月を、高梨は許さない。


「あなた、逆なのよ。飼っているペットが可愛いからSNSに載せるなら分かるわ。でもSNSに載せるためにペットを飼うのは違うでしょう。主客転倒、大いに間違えてると思うわよ」

「……意味分からない」


 葉月と高梨がにらみ合う。


「ペットも生き物よ。あなたの承認欲求を満たすためだけに生きてるわけじゃないわ。あなたの陳腐な矜持を満たすためだけに生きてるわけじゃないのよ。それは、命に対する冒涜よ」

「ちょっと意味分からないんだけど。別に命を冒涜してる気なんてさらさらないし、皆やってるじゃん!」


 二人を除いた取り巻き達は一斉に櫻井の周囲に集まり、帰趨を見守る。

 銘々が同様に憔悴し、今回のデートを楽しめていなかった。


「あなた、もう少し自分のことを考えてみた方が良いわよ。ペットをSNS映えする道具としか思ってないその傲慢な性格を」

「そんなの……人の勝手じゃん……」


 高梨の強気な態度に、葉月は押し負ける。


「それに、もう一つ言いたいことがあったのよ」

「……」

「あなた、自分で頼んだあのアイスクリーム、一口も手を付けずに捨てたわよね」

「…………」

「……」

「……」


 水城と新井が、互いに顔を見合わせた。


「水城さん、新井さん、あなたたちも見てたでしょう? 葉月さんがアイスクリームを捨てた所を」

「……見たよ」

「見たし……」


 水城と新井はおずおずと言葉を放つ。


「あなたたちも駄目よ、ちゃんと怒らないと。そして葉月さん、あなたはあれだけ私たちに一時間も並ばせておいて買ったものを食べずに捨てるってどういうことなのかしら? 不義理だと思わないの?」

「…………」


 葉月は答えない。


「じゃあ、ここで聡助君に訊こうかしら? 聡助君、どう思うかしら?」

「え……お、俺か?」


 突如水を向けられた櫻井は狼狽する。


「い……いや、俺は……」

「はっきり言いなさい、聡助君」


 どう答えても誰かの敵に回る。そんな逼迫した状況だった。


「お……俺は……」


 水城と新井、葉月を見回した。


「俺は……」


 櫻井は目を回し、


「そ、そうだな、良くないと思うな、そういうの」


 高梨に、迎合した。


「ま、まあでも冬華も悪気があったわけじゃないよな!」


 そしてすぐさま、フォローした。


「そ、そうだよね、本当はあまり良くないよね! 冬華ちゃん、次からは気を付けよ?」

「そ……そうだし、次から気を付けよ~」

「う…………うん」


 現場を目撃していた水城と新井は櫻井に迎合する形で、葉月を諭した。


 高梨は、逃げられない環境を作り上げた。葉月が責められるような環境を、作り上げた。


 何も言わなければ何も起こらなかった状況に、一石を投じた。

 水城と新井が葉月の行動を好ましく思っていないのか、好ましいと思っているのかの判断が付かず、結果、櫻井は葉月を責め立てる方向に、味方した。


 そちらの方が正義であるからと、櫻井は判断した。


「ま……まあ、それくらいでいいんじゃないか? 冬華も反省してるみたいだし、な、高梨?」

「……そうね、次から気を付けなさい」

「…………うん」

「ほら、皆どんどん次行こうぜ? こんなに重苦しくなっても良くないだろ? 行こうぜ、次!」

「そ、そうだよ皆! ほら、次行こ?」


 無理やりに場の雰囲気を明るくする櫻井に追従し、水城も明るく振舞った。


「別に何したって私の勝手じゃん……」


 ぼそ、と葉月は誰にも聞こえないような小声で、高梨を悪罵した。


 結局、その日は盛り上がらないまま、櫻井のデートはお開きとなった。




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