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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第84話 取り巻きはお好きですか? 2



「あ、ところで赤石、俺訊きたいことあったんだけど」

「……?」


 それが自分に近づいた本丸か、と赤石は胡乱げな視線を送る。


「なんか俺もよく知らねぇんだけどさ、高梨がお前に告白するとか風の噂で聞いたり聞かなかったり……」

「へえ」


 無感動な返答。手探りの質問をする櫻井の様子を伺い、櫻井の周囲で起きた大まかな出来事を、赤石は推測した。

 だが、高梨が何を思って行動しているのかは分からない。櫻井の気を引くためなのか、何なのか。


「おいおい、随分と余裕そうな態度だなぁ。もしかしてもう付き合ってるとか?」

「いや、全く」


 高梨を信用すると決めた。高梨を友達だとも思っている。だが、付き合ってはいない。そして高梨が自分に好意を寄せているとも、思えなかった。

 仮に高梨が櫻井に好意を寄せていたとしても、それは高梨を信頼しない理由にはならない。そう、思う。そう、思いたかった。


「いや、だけどさ、高梨がお前に身体許したとか許してないとかさ、聞いてさ」

「……」


 一体どういう勘違いがあったのか。


「いや、まず間違いなくないな。何かの勘違いだろう。もしくは、高梨のことだ、からかって言ったりしてるんじゃないのか」

「だ……」


 櫻井は赤石の言葉を聞くと、


「だよなあああぁぁぁぁぁぁ」


 ほっと、胸をなでおろした。

 だよな、とは自分に対して失礼じゃないのか。話しても無駄な言葉はぐっと飲みこむ。


「でも高梨も実はお前のこと好きだったりするかもしれねぇぞ?」


 うりうり、と櫻井は赤石に肘鉄砲を喰らわせる。

 赤石自身が高梨との恋愛関係を否定した途端に上っ調子になり、自分を揶揄してくる。単純な奴だ。

 赤石はそんなことはない、と返事をする。


「それに、高梨はいつもお前に対して正妻だ正妻だ、って言ってるだろ。もし好きな奴がいるんだとしたら、俺じゃなくてお前だろう。正妻じゃなくてまさか正義の制裁だったりするわけじゃないだろうしな」

「そうかなぁ」


 櫻井は一段と気を良くする。

 高梨は自分に好意を寄せている、その確信が欲しかった。その事実を、誰か他人に指摘して欲しかった。ただ、それだけの男。


「まあやっぱり高梨の遊びだよなあ。あいつ何考えてるか分かんねぇしなぁ」


 櫻井はそう呟くと自己完結した。ほっと胸をなでおろし、気が抜けた櫻井に、声がかけられる。


「あ、櫻井君、赤石君、何してるのそんなところで」

「み、水城!」


 櫻井は満面の笑みで、水城に振り返った。


「奇遇だなあ、何してんだよこんなところで」

「いや、奇遇じゃないよ! 学校なんだから会うよ! もうすぐ演劇の練習始まるから~って櫻井君を探してて……」


 水城はもじもじと髪をいじりながら、話す。


「今日は赤石君もいるんだね! 赤石君元気~?」

「そうだな」


 両手でパーを作り、水城は体を傾け、自身の顔の横に持って来る。

 校内で最も可愛いと言われている水城を直視せず、投げやりに答える。赤石は水城の美貌と愛嬌に相対したくなかった。


「あぁ~。ちょっと何してるし~」


 水城から目をそらしていたことで、赤石に死角が生まれた。新井が赤石の背中に圧し掛かり、櫻井たちを覗き見た。


「重い」

「はぁ~? 赤石本当ノリ悪い~、だよね、聡助?」

「ま、まあそうかもなあ」


 新井は櫻井の手を取り、笑いかける。


「あらあら、廊下で何をしてるのかしらあなたたちは、ふしだらね。あら、赤石君じゃない、一年ぶりね」

「一年ぶりなんだとしたらお前は誰だ」


 新井を皮切りに、高梨、八谷、葉月の三人がやって来た。取り巻き大集合だな、と赤石は一歩輪の外に出る。

 八谷は高梨と赤石とを交互に何度も見やった。


「さ、櫻井君お、遅っ……あっ」


 葉月は何もない廊下でよろけ、櫻井に抱き着いた。


「ふ、ふええええぇぇぇ……ご、ごめんにゃさい、櫻井君、ちょっとこけちゃって」

「おいおい、全く葉月はドジだなぁ」


 櫻井は葉月の頭を撫でる。


「はうぅ……ちょ、ちょっと櫻井君、駄目だよ!」

「あはは、ごめんごめん」


 一瞬にして、櫻井に都合のいいハーレム空間が出来上がる。


「あ、そうだ。俺、前から言おうと思ってたんだけどさ、今度俺らで演技の練習しないか? ほら、文化祭もそろそろ近いし」

「したいしたい! え~、凄い良いアイデアだよ!」


 水城は両手の指の腹をつけ、同意した。


「今度の土曜日、俺らでどこか行かねぇか? ほら、このメンバーで」

「面白いわね」

「赤石君もどう?」


 水城は輪の外にいた赤石に話しかける。


「いや、俺は映画製作だから演技の練習は関係ないな。今回は遠慮しとく」


 実際に演技の練習なんてするつもりもないような集団だろうけどな、と心中で一言付け加える。


「そうかあ、じゃあ仕方ないな。俺らで今度の土曜日演技の練習行こうぜ?」

「賛成~!」

「大賛成~!」

「行きた~い!」


 櫻井を中心にして取り巻き達が賛意を示し、一瞬にしてハーレムデートの約束が取り付けられた。

 八谷もまた、演技の練習と題したデートの提案に、おずおずと手を挙げていた。


「じゃあ赤石、俺演劇の練習行ってくるわ。お前も映画製作頑張れよ!」

「そうだな」

「じゃあね、赤石君!」

「赤石頑張んなよ~」


 赤石は取り巻き達と適当に別れの挨拶をし、踵を返した。


 一瞬でも櫻井のハーレムに入り込んだ赤石は、ハーレムの中にいる男はこんな気持ちなのか、と不思議な感覚に浸っていた。


 


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