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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第82話 嫌われることはお好きですか? 6



「え、えええええぇぇぇぇぇ!? 告白!?」


 八谷は再度椅子を力強く引き、叫びながら立ち上った。

 それと同時にロッカーがほんの少し、がたついた。高梨はロッカーを一瞬、一瞥する。


「静かにしてくれないかしら、八谷さん。聞こえちゃうでしょ」

「あ……ごめん」


 高梨に一喝され、しゅんとしながら椅子に座りなおす。


「こ、こく、告白なんて、駄目、駄目よ!」


 八谷は顔を赤くしながら言い募る。


「あら、どうして駄目なのかしら?」

「だ、だって、だって、だって……」


 言葉が続かない。

 赤石が高梨と付き合う。そのイメージが沸かない。


「だって、ほ、ほら、今文化祭の準備中でしょ!? そんな時なのにほ、ほら、付き合ったりしたらちょっと演劇に支障出るじゃない!? そ、それに、もしかしたら高梨さんがフられるかもしれないわよね!? そんなことになったら絶対演劇とか文化祭に響くし!」


 早口で、それでいて何度も噛みながら、ありあわせで作った理由を大声でまくしたてる。

 だが、高梨は嫣然と微笑んだまま表情を崩さない。


「赤石君は自作映画班だから問題ないはずよ。演劇と自作映画じゃ関係ないわよね。それに、恐らくフラれることもないと思うわ」

「な、何でそう言い切れるのよ!」


 怒りと苛立ちとがない交ぜとなった形で、八谷はいきり立った。


「だって……」


 ふふ、と回想しているかのように、高梨は小さく笑う。


「私、赤石君の家で凄いことしちゃったから……」

「……え」


 揺さぶるように、八谷を見ながら、そう言った。


「少し前に赤石君が怒って準備を投げ出して帰ったことがあったわよね」

「あ、あった……わね」


 八谷が赤石に手ひどく扱き下ろされた日。


「その日、実は赤石君は神奈先生と言い合いになって怒ってたのよ」

「神奈先生と……?」


 全く別方向からの赤石へのアプローチに戦々恐々とする。


「何で言い合いになったのかは知らないわ。神奈先生にフラれたのか、付き合ってる上でのいざこざなのか」

「付き合ってる……いざこざ!?」


 意図的に高梨に強調された言葉に釣り込まれ、八谷は悶々と想像を掻き立てられる。

 まさか赤石が神奈先生と付き合っていて、何らかの言い合いがあって別れ話になったのか。それが原因で八つ当たりをしてきたのか。もしかしたら、私のことなんて何とも思ってなかったのか。

 自分のただの勘違いだったのか。

 

 邪推が邪推を呼び込み、不安な気持ちに駆り立てられる。赤石との縁故が、完全に消え去る。そんな漠然とした不安。


 高梨は八谷の不安そうな表情を見ながら、さらに言い募る。


「それで私はチャンスだ、と思ったのよ。赤石君の家に赴いたわ」

「赤石の家に!? どうやって!? 何で赤石の家を知ってるのよ!」


 次々と山のように雪崩れてくる高梨の情報を聞き、八谷の頭はパニックを起こす。処理しきれない情報を一つずつ氷解させようと、高梨に詰め寄りながら大声で問いただす。


「実は赤石君脚本が出来なくて文化祭の準備が出来てない、って言ってたわよね」

「言ってた……わね」


 櫻井が赤石に脚本を急務で仕上げるよう催促していたことを思い出す。


「その後私は赤石君の家に行って、一緒に脚本を考えてたのよ」

「な……なんでそんなことしてるのよ」


 自分は行かなかったのに。

 そんなことを無責任に放棄しながら、高梨を責め立てる。


「あら、何をしようと私の勝手でしょう?」

「でも神奈先生が赤石の恋人だったりしたら……」

「それならそれで赤石君が断るはずでしょう。別に関係ないじゃない、八谷さんには。それにその時はそんなこと思い至りもしなかったわ。話を進めさせてちょうだい」

「ご……ごめん」


 パニックを起こしているため、まともな思考が出来ない。


「そういうわけで、私は赤石君の家を知ってたわ。それで、神奈先生といざこざを起こした翌日、赤石君休んだわよね?」

「休んだ……わね」

「その日、私は赤石君を心配して家に行ったのよ」

「……」

「そこで赤石君と神奈先生の間で起こったことを知ったわ。その後私は……」


 意味ありげな余韻を残し、高梨は伏し目がちに黙り込む。


「え、ちょっと待ちなさいよ。神奈先生と赤石の間にあったことって……?」

「それは言えないわ。自分で聞いてちょうだい」

「……は?」


 ここに来て、高梨は情報を規制した。

 自分の知っている出来事を話そうとしない。八谷にとって、それは何よりも悪辣な行為に思えた。


「言いなさいよ」

「それが人にものを頼む態度かしら。何をされても言わないわ。自分で訊けばいいでしょう」

「そ……そうだけど」


 何を言っても、高梨に言い含められる。

 だが、赤石が話しかけて来るまでは赤石と話したくない。八谷に心中に葛藤が生じる。

 高梨は八谷を黙殺したまま、話を続ける。


「それで、その事実を知った私は赤石君と話し合ったわ」

「え……あ、うん」


 強引に話を続ける高梨に引っ張られ、八谷は赤石とどうするかを考えるのを止めた。


「それで赤石君に乗りかかられたり、私が乗りかかったりしたわ」

「の、の、の、のり、乗りかかる!?」


 邪な想像をした八谷は一歩後退する。


「ぜ、ぜ、絶対駄目でしょそんなの! 駄目、駄目、駄目に決まってるじゃない! 何してるのよ高校生のくせに!」


 八谷は顔を羞恥で真っ赤にして高梨を指さすが、黙殺する。


「それで赤石君と仲良くなった私は体が汚れたから赤石君の家のお風呂を借りたわ」

「お風呂まで!?」


 耳まで真っ赤になりながら、八谷は顔を両手で覆った。目だけが見えるよう、指を動かす。


「結局着れる服がなくなったから赤石君のお母さまのワンピースを着たわ」

「あ、あああああ、あああああ……」


 八谷はパニックを起こし、あわあわと言葉も聞き入れられない。


「まあ、そういうことがあったから赤石君は私のことを好いてくれてるんじゃないか、と思うわ。だから告白しようかと思ってるのよ」

「いや、絶対おかしいわよ!」


 高梨の暴露に、八谷が突っ込む。


「そ、そんなの絶対付き合ってるじゃない! 告白とかそんな範疇じゃないでしょ! 何言ってるのよあなた! それで付き合ってないって言ってるわけ!?」

「ええ、付き合ってないわよ」

「ば、ばっかじゃないの! そんなただれた関係絶対おかしいわよ! それに、赤石がそんなことするわけないわよ! 嘘! 絶対嘘! 嘘よ!」

「あなたは赤石君の何を知ってるのかしら」

「え……」


 突如として冷徹な瞳になった高梨を見て、背筋が凍る。

 高梨はすぐに表情を崩し、小さくため息をついた。


「とにかく、だから私は赤石君に告白しようと思うのよ」

「おかしいわよ……絶対おかしいわよ、そんなの……高校生で体許してるのに付き合ってないなんて……」

「……?」


 わなわなと震える八谷を、高梨は見つめる。


「何を言ってるのかしら、八谷さん。私は体を許したことなんて一回もないわよ」

「え……でもさっき……」

「……」

「……?」


 そこで、自らの認識が符号していなかったことを理解する。


「何をどう勘違いしたのかは分からないけど、そう言うことよ。じゃあ、戻りましょうか。戻ってもう一度服を着替えに行くのも面倒ね。ここで着替えましょう」

「え、ちょ、ちょっと!」


 どこからどこまでが勘違いなのか。

 何を勘違いしたのか。赤石と高梨に何があったのか。

 高梨は自身の言いたいことが言い終わったかのように話を即座に切り上げ、服を着替えだした。


「え、あ、駄目よ高梨さん! カーテン閉めなさいよ! 見られるわよ!」

「あら、そうね」


 高梨は八谷に言われ、脱衣寸前で手を止め、カーテンを閉めだした。


「え、待って、どうなって、どこから私の勘違い……え、なんで?」


 次々と移り変わる展開に八谷は全くついて行くことが出来ず、ぶつぶつと思考をめぐらせながらカーテンを閉めていた。

 赤石と高梨に何があったのか。

 赤石と神奈の関係性は何なのか。


 八谷は、分からない。




 何故高梨が八谷にだけ話したのか。

 何故高梨は八谷の話に取り合わず自分の話だけを話したのか。

 

 八谷は高梨の違和感に一切気が付かないまま、悶々と苛立っていた。




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