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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第81話 嫌われることはお好きですか? 5




「カットでござるーーーー!」

「……」

「……」


 校内で、山本の大声が響いた。

 赤石と三矢は苦い顔で振り返る。


 結局、後日の話し合いでもヒロインの演者が決まらず、ヒロインが出て来ない場面だけ先撮りしていた。


「何度言ったら分かるでござるか三矢殿! そこのイントネーション違うでござるよ!」

「何言うてんねん! イントネーション合っとるやろ!?」

「違うでござるよ! そのイントネーションは関西弁のそれでござるよ! イントネーションが変わると口ぶりも変わって聞こえるんでござるよ!」

「ええやんけ! 関西弁のイントネーションやったらあかんのか!?」

「駄目でござるよ! アカ殿の脚本は標準語でござるからそこで無意識に演者の現実リアルが入るとよく分からないことになるでござるよ!」

「ややこしいなぁ」


 山本と三矢は自らの価値観をぶつけ合っていた。創作物に並々ならない興味を示している山本は撮影にも気を抜かず、本格的なカメラワークを好み、演者にもそれ相応のものを求めた。

 クラスメイトは学校で雑談をする端役の生徒としてカメラの端に映り、手の空いた者は情報収集や小道具の作製、現場のセットに勤しんでいた。


 何度目ともしれない取り直しに少々疲弊の色を見せながら、赤石は三矢に歩み寄った。


「ヤマって案外熱い男だったんだな」

「いや、あいつ結構熱い男やで。ほんまクールな俺らとは大違いや」

「お前も結構熱いぞ」

「なんやて!?」


 山本は再度赤石と三矢の立ち位置を決め、カメラを動かす。


「拙者の目が黒いうちは適当な芝居はさせないでござるよ!」


 山本は息巻きながら、カメラをのぞき込んだ。


「俺こういうセリフ聞くたびに思うんだけどさ、外国人とか目が黒くない人は『俺の目が青いうちは』とか言うのか?」

「また訳のわからんこと言うとるなお前は……ほら、始まるぞ、はよ気合いれぇ」


 赤石たちは順調に自作映画を撮り進めていた。






「イラつくイラつくイラつくイラつく!」


 体育館を別のクラスが借りているため、演劇の練習は空き教室で行うことになった。

 空き教室への廊下を大足で歩きながら、八谷は小声でぶつぶつと呟いていた。


 赤石が次に謝ってくれば許す、そう決心したのにも関わらず、その後、赤石は八谷に一切話しかけてこなかった。次、あと一度でも話しかけてきたのなら取り合ってやる、という八谷の心積もりは儚く崩壊した。


「何で話しかけてこないのよ……あぁ、イラつく」


 ぶつぶつと何度も独り言ちながら、赤石の不義理を責め立てる。 

 相手がもう一度自分から謝ってくるまでは自分からは話しかけない、そう、決めた。それは、八谷の矜持であり決心。

 どちらが間違っているかは、もはや些少な出来事だった。ただどちらが先に折れ、どちらが先に謝るか。忍耐度だけを問う問題へと変貌していた。


「絶対話しかけて来るまで私から話しかけないんだから」


 再度そう心に決め、空き教室へと足を踏み入れた。


「お、恭子遅かったな。掃除が長引いたのか?」

「あぁ!?」

「え……どうしたんだよ恭子」

「あ…………ごめん」


 体育館に着くなり話しかけて来た櫻井に、反射的に苛立った返答を返してしまう。八谷は己の失態にようやくにして気が付いた。


「恭子、何かあったのか? 俺で良かったら相談に乗るぞ?」


 櫻井は身を乗り出して八谷に近寄る。


「え、いや、その……」


 櫻井を憎んでいる赤石のことを櫻井に話すという愚かしさ。八谷は赤石のことで苛立っているとは言い出せずにいた。


「聡助君、ちょっといいかしら」

「んあ、高梨?」


 八谷がもじもじと言い出せずにいると、高梨が歩み寄って来た。

 櫻井は両手で四角形を形作り、そこから高梨をのぞき込んだ。


「お、高梨お前やっぱりスタイルいいなぁ~。やっぱジュリエット役とか結構似合ったりするんじゃないか? ほら、なんていうか、ヒロイン映えするっていうか……」


 櫻井はそこで区切り、


「なんか高梨可愛いよな!」


 にか、と笑顔でそう言った。


「ふふふ……可愛いなんて、嬉しいわ、櫻井君」


 高梨は口元に手をやりながら、櫻井を見る。


「ジュリエット役は私が頂くわ。そうなったらロミオ役は櫻井君にやってもらおうかしら」

「え、俺か? いやぁ、無理だろ、無理無理! 俺なんか主人公張れるような男じゃねぇよ」


 あはは、と苦笑いをしながら手をぶんぶんと振る。


「まあ、まだ誰がどの役をやるか決まってないから早く決めた方が良いわね。体育館を借りれる時間も限られてるんだから」

「そうだなぁ」

「ところで櫻井君、ちょっと八谷さんを借りてもいいかしら?」

「え……恭子を?」


 予想外の高梨の言に、一瞬固まる。


「いや……いいけど、どこか行くのか?」

「ふふふ……ちょっと女の子の秘密の話をね。少しだけお手洗いに行ってから別の教室で八谷さんと話してくるけど、聞いちゃ駄目よ」

「あ……当たり前だろうが! き、聞くかよそんな秘密の話を!」

「あらあら顔を赤くして……聡助君もうぶね」


 高梨は櫻井に詰め寄り、頬をす、と撫でる。


「や、止めろよ高梨! こんな皆がいるところで!」

 

 櫻井は後方を一瞥し、大声で叫ぶ。


「まあ、そういうことだからほんの少しだけ八谷さんを連れていくわね。行くわよ、八谷さん」

「え……わ、分かったけど……」


 心当たりの全くない八谷は高梨に連れられ、教室を出た。

 水城は二人の背中を不思議そうな目で見つめながら、櫻井の横に歩み寄った。


「あれ、櫻井君、二人ともどこに行ってるの?」

「え、あ、ああちょっとお手洗いって……」


 櫻井は水城への返答もそこそこに、思考をめぐらしていた。





 二人は手洗いのあと演劇の練習が行われている教室とは二つ離れた空き教室に足を踏み入れ、高梨は扉を閉めた。

 そのまま奥へと進み、ロッカー近くの机に陣取り、対面に座ることを八谷に促した。


「さて、八谷さん。私があなたを呼び出したのはほかでもないわ」

「え、は、はあ」


 何の話しだろう、と八谷は身構える。


「実はね、赤石君のことで話したいことがあるのよ」

「あ、赤石のこと……!?」

 

 突如として先程まで苛立ちを募らせていた赤石の話題が出たことで、八谷は椅子を引く。


「あ、赤石が何なのよ!」


 思わず、大声を出して立ち上がる。そんな八谷の様子を、高梨は微笑ましく見守っていた。

 

「あら、私が赤石君の話をしたら何か不都合なことがあるのかしら」

「え……い、いや、別に全然ない……けど……」


 とぎれとぎれに、訥々と返答する。八谷は見る見るうちに打ちひしがれた。そのまま、再度椅子に腰かける。


「実はね……」


 高梨は八谷の目を見据えると、


「私……」


 ゆっくりと、


「赤石君に告白しようと思ってるのよ」


 そう、言った。


 


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