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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第80話 嫌われることはお好きですか? 4



「……」

「……」

「……」

 

 三人に沈黙が降りる。袋小路。映画製作の配役の段階で不備が出てしまうという最悪の事態に、三人は黙り込んだ。


「なぁ、アカ」

「どうした」

「どうすればええと思う?」

「そうだな……」


 考える。

 どうすればいいのか。


「くじ引きとかじゃんけんとかあみだくじとか、もうそれくらいしか方法がないんじゃないのか?」

「……お前は」


 三矢は赤石を見据えた。


「お前は、それでええんか? やる気のない奴にやらしたらロクな映画完成せえへんぞ? それでもええんか……?」

「……いや」


 良くは、なかった。だが、背に腹は代えられない。やりたいと思う人間がいないため、どうすることも出来ない。

 人生で初めて書いた脚本に、赤石は人並みに愛を持っていた。自分の書いた作品をきちんと形にしてみたいと、そう思った。


 赤石は決意し、名乗り出た。


「俺、これ乱藤の役やってみてもいいか?」

「え…………お、お前がやるんか⁉」


 三矢は驚いた顔で赤石を見る。


「いや、別にクラスメイト達には小道具作成して貰ったりいろんなところから見て貰ったり、別に演じて貰わなくても必要なところはあるだろ? それに俺は……」


 俺は。


「俺、自分で描いた脚本の演技、してみたいと思う」


 著しく個人的な理由。非合理的な理由。

 三矢と山本は目を剥く。


「アカ殿……」

「赤石……」

 

 呟く。


「お前、そんな人間やったんか? なんか……ちょっと意外やな」

「そうでござるな。絶対すぐ帰ると思ったんでござるが……」

「まあ、一理あるな」


 赤石は苦笑する。


「お前……思ったより、熱い男なんやな」

「まぁ……そうなのかもな」


 仰ぎながら、言った。

 熱い男。

 当たらずとも遠からず。そのような気がした。いや、そうなっていっているような、気がした。


「じゃあ志田は……」

「拙者がやった方がいいでござるか?」


 山本は挙手し、前に出た。


「いや、お前は口調があかんやろ。作品のイメージ崩れるわ」

「何を言うでござるか! 拙者はアカ殿の作品、好きでござるよ。アカ殿はどう思われるでござるか?」

「確かにイメージは崩れるかもな」

「アカ殿まででござるか⁉」


 大仰に驚く。


「じゃあ俺が……やったろか?」

「三矢殿ぉ⁉ いや、三矢殿は拙者より不適切な気が……どうでござるか、アカ殿」

「まあ、あんまり合ってないような気もするけど、ヤマよりはいいような気はするな。演じたくない人にやってもらうよりは、ミツにやって貰った方がいいのかもしれないな」

「そ……そうでござるか……。ま、まあ撮影する人も必要でござるしね……拙者は撮影係でいいでござる」


 多少気落ちしながら、とぼとぼと山本はカメラに向かって歩く。


「じゃあこれで配役決まったな」

「そうだな……ヤマ、ミツ、ごめん。頼んだ」

「何言うてんねん、任しときぃ!」

「拙者も大丈夫でござるよ!」


 三人は軽く、拳をぶつけ合った。










「ああああああぁぁぁぁぁーーーーーーー」


 八谷は自室のベッドの上で悶えていた。


「あああああぁぁぁぁぁーーーー!」


 むしゃくしゃと髪をかき乱しながら、輾転とする。右に左に転がる。


「あああああぁぁぁぁーー!」


 枕に顔をうずめ、音が漏れないように何度も叫ぶ。

 八谷は、後悔していた。


「どうしてあんなことやっちゃったのよ私……」


 赤石を拒んだこと。冷たい言葉で拒絶したこと。自身の行動を自省していた。


「はぁ……」


 しきりにため息を吐く。

 どっちつかず。


 八谷は自分の身の振りをどうするべきか、思い悩んでいた。

 赤石に、吐き捨てるように自身の間違いを糾弾された。櫻井に対して赤石がよからぬ感情を抱いていることも理解した。自分がどれだけ愚かで浅はかな行動をしているのかも、理解した。だが、それでも、迷う。

 

 赤石が指弾したように、櫻井以外の他の男に色目を使うようなことをせず、ただ一心に櫻井だけを見る。それが、正しいのか。

 赤石の言からして、赤石と話すこともまた赤石の怒りの琴線に触れかねない。そう、理解していた。だが、それと相反して赤石の激烈な言い回しに腹が立っていた。


「私だって間違ってたわよ……。でも、あそこまで言わなくてもいいじゃない……」


 赤石の言を正しいと思う一面と赤石に対する敵対心。その両方が相まって、赤石を無視するという選択を取らせた。


「別に……あんなに言わなくたって……」


 どうせお前も俺のことをなんとも思ってねぇんだろうが。


「……」


 赤石に言われた、一言。櫻井を好きな自分は、赤石をただ自分の欲のためだけに利用している。そう、言われた。


「……」


 自然に、瞳に涙が溜まる。

 ごしごしと涙を拭い、枕に顔をうずめる。


「あああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 叫ばずには、いられなかった。その悔しさと悲しさと自分の愚かしさを打ち消すために叫び、気を紛らわせる。


 櫻井が、好き。それに赤石を利用している。

 それは、正しい一言。だが、同時に赤石もまたそうなることを良しとしていた。ねじ曲がった道理、元々の条件とは異なった、何か。


 でも……。

 

 思い返す。


「ねじ曲がってはない……のかな」


 ねじ曲がっては、いなかったのか。


 平田の事件の後、自分と関わるなと言われた。

 だが、憔悴していく赤石をただただ傍観していくのは嫌だった。自分も、赤石と関わりたかった。自分が関わりたいから、赤石に話しかけた。

 それなのに……。それなのに……。


 赤石は、その善意を踏みにじった。


「…………」


 また、涙が溜まる。


「ああああああーーーーーーーーーーーー!」


 湧き上がる感情を打ち消すため、叫ぶ。

 

 違う。

 あれは、本当に赤石のためを想って動いただけだ。

 櫻井と自分とを結びつけるために赤石を利用しようとして接触したわけでは、断固としてない。絶対に、違う。

 赤石を、ただ赤石だけを想って動いた。

 だが、それが赤石に間違ってとられたのか。あるいは、赤石のただの八つ当たりだったのか。


「……」


 一体、何なのか。赤石は自分をどう思っているのか。

 自分に話しかけてくれたことは、単純に嬉しかった。

 平田にいじめられていた時に自分のことを可愛いと言ったこともあった。今日も、何か言いたげだった。

 赤石は自分をクズだと言っておきながら、その可愛さだけは本物だと言っていた。


「ふふふ……」


 にやける。

 なんだかんだと言って赤石も自分のことを想っているのだろう。その予感が、していた。


 なら、応えてやるのが正しいんじゃないのか。だが、赤石に腹が立っているため、自分からは話しかけたくはない。

 

 次。

 次に赤石が謝ろうとするそぶりを見せて来たなら許してやってもいい。

 私が悪かったです、許してください。

 そう懇願するなら、許してやらないこともない。

 赤石を想ってやったことなのよ、と胸を張って主張できる。それだけは、事実だ。


 次。

 赤石が次に謝ってきたら許そう。


 八谷はそう、心に決めた。


「…………ばーか」


 八谷は心中で赤石を思い浮かべながら、眠りについた。

 


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― 新着の感想 ―
琴線は感動した時に使うモノで、触れるのは逆鱗なんだ
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