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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第73話 神奈の心はお好きですか? 2

 


 ガチャッ。


 ドアを開ける音がした。赤石と須田は共に音のした方向を見た。


「これが赤石君のお母様のセンスなのね。中々いい趣味をしてるわね」

「皮肉なのか称賛なのか分かり辛いな」


 高梨は片手に泥だらけの制服を持ち、目がくらむような、赤いワンピースを着ていた。


「ところで赤石君、この泥だらけの制服、どうすればいいのかしら? 赤石君の家で洗ってくれるのかしら? もしくは、シャワーとか貸してくれないかしら」

「馬鹿な事を言うな」


 高梨の服を洗わなければいけない必要性は、ない。シャワーを貸す必要性も、ない。


「そうすれば私があなたを好きになるかもしれないし、それが切っ掛けで何か恋が始まるかもしれないわよ?」

「そうだとしても……仮に百歩譲ってそうだとしても、俺はそんなことはしない。それは……」


 それは、櫻井がやることだ。

 そう、思った。


「俺は、俺のやり方で変わりたい。そんなことは、しない。袋をやるからそれに入れて帰れ」

「そう…………好きになさい」


 赤石はドアを出て、袋を取りに行った。

 高梨は赤石について行く。


「ところで赤石君、このワンピースはいつ返せばいいのかしら」

「いや、返さなくていいって言ってたぞ、母さんは。どうせ俺一人っ子だし母さんはぶくぶく太っていくからもう一生それ着れないだろうし、いい、って言ってたぞ」

「そう…………赤石君からの初めてのプレゼントね」

「気持ちの悪い言い方をするな」


 赤石はごそごそと袋をあさり、大きな袋を手渡した。


「あら、ありがとう」


 高梨は袋に制服を入れ、再度赤石の部屋へと戻った。




「…………」

「……」

「……」


 赤石、須田、高梨の三者が互いに向かって、座る。奇妙な静寂が、生まれた。

 須田が、一番に口を開いた。


「高梨、お前悠のことをどう思ってるんだ? もし悠を悪の道に引きずり込もうとしてるなら、俺が容赦しないぞ」

「あら、失礼な言い草ね。私は赤石君を好きだから赤石君を変えたいのよ。勿論、一番は聡助君だけど。赤石君はただの友達」

「そうか……」


 須田は赤石を見た後、高梨に目を向ける。


「なら……裏切らないでやってくれよ」

「…………そうね」


 赤石の不信の原因となった裏切り。赤石はこれまで、様々なものに裏切られてきた。


「なら、もう私帰るわね。言いたいことも言えて、すっきりしたわ。さようなら、赤石君、統貴」


 高梨は小さく手を振り、踵を返した。


「ちょっと待ってくれ」

「おい悠、どうしたんだよ」


 赤石は高梨を追いかける。須田は赤石を追いかける。


「統……今日はちょっと帰ってくれないか?」

「帰る? 何かやることがあるのか?」

「あぁ……清算しなきゃいけないことがある」

「……そうか、分かった、俺今日は帰るわ。でもまたこの機会の穴埋めはしろよ?」

「分かってる、分かってる」

「…………じゃあな、悠」

「今日はありがとな、統」


 須田は赤石の部屋から荷物を取り、帰った。

 赤石は須田の後姿を、見送った。


「……で、何かしら赤石君。そこそこ待たされた私の気持ちにもなってくれないかしら?」

「悪い」


 赤石は高梨に対面した。


「高梨、お前新井か櫻井かの連絡先知らないか?」

「……私じゃ駄目なのかしら?」

「いや、そうじゃなくて」


 赤石は、戸惑う。


「神奈先生と話をしなきゃいけない……家に、訪ねたい」

「ストーカーね。許さないわ、そんなことは私が」


 高梨は赤石から一歩退く。


「神奈先生の家は私も知ってるわよ……でも、私がそんなこと許さないわよ。あなた神奈先生……はっ、まさか年上好きね!」

「いや、ちょっと、なんでだよ。分かるだろ。神奈先生と話をつけたい……けど、俺は神奈先生の自宅も連絡先も何も知らない」

「生徒が先生の家に言ってもいいものなのかしら?」

「どうせ櫻井も新井も神奈先生と知り合いなんだろ? じゃあ俺が行っても良いだろ」

「……あなた、随分と行動的ね」

「神奈先生とは話をつけないといけない」


 赤石は視線を落とした。  

 高梨は少し迷い、


「……良いわ、なら私が知ってるから、今から私と一緒に行きましょう。それなら、いいでしょ」

「今からって……学校で」

「神奈先生は今日は学校をお休みよ」

「…………休み」


 神奈もまた赤石と同じく、休みを取っていた。


「お願いしてもいいか」

「昨日のことを神奈先生と話すのね……」

「あぁ…………」


 赤石は決然と心を据えた。


「このままじゃ、いられない」

「……そう。なら、荷物をまとめていくわよ」

「ありがとう」


 赤石は荷物をまとめ、神奈の家へと向かった。






「ところで赤石君、私の連絡先もあなたに教えておくわ。今日も困ったのよ、連絡手段がなくて」

「カオフでクラスのグループがあるだろ。そこから調べてくれよ」

「電話番号までは分からないじゃない」

「あぁ、電話番号のことか」

「電話番号を知らないでしょ? 電話番号を教えておくからあなたも教えなさい」

「今時、電話する奴もそういないような気もするけどな」


 そう言いながら、赤石は高梨と電話番号を交換した。


「ところで赤石君、八谷さんの家は教えなくていいのかしら?」

「八谷の家は知ってるし、学校で話をつける。八谷とも……清算しなくちゃいけないことが……あるからな」

「…………そうね」


 神奈と八谷との融和。もしくは、決別。

 赤石はそのどちらかを選ぼうと、そう決意した。

 櫻井のことを扱き下ろし、神奈本人さえも貶し、八谷にもその悪意を押し付けた。


 変わろうとする第一歩として、二人との対話は、欠かせなかった。



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