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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第72話 神奈の心はお好きですか? 1



「悠、ちょっと何が起こったのか全く分からないから教えてくれると助かるんだけどなぁ……」

 

 高梨を拘束していた須田は、高梨を解放した。


「そして、その頬の腫れ。高梨、お前どんだけ悠の頬殴ったんだ。饅頭みたいになってるぞ」

「訴える」

「あなたが何も認めないからでしょ」


 高梨が赤い顔で、赤石に怒っていた。


「お前の平手打ちだけはどうしても解せないからな」

「それは…………悪かったわ。お金で解決するから許して頂戴」

「悪代官みたいな解決方法止めろ」


 赤石は薄く笑った。


「賠償責務が生じるぞ、お前には。これから一生、俺が困った時に付き合ってもらうぞ」

「…………考えておくわ」


 赤石は腫れた頬をさすりながら、高梨と会話していた。




 赤石はこの時、何も不自然に思っていなかった。

 

 八谷が平田に嫌がらせを受けていた最中、高梨が何もしなかったこと。

 櫻井の正妻と自称し、その無類の愛を注いでいるのにも関わらず、赤石に関わってくること。

 八谷に自分と赤石との関係性を意識させるような行動をとっている高梨の行動。

 葉月の悪辣なネットでの行為を赤石に認知させたこと。

 赤石を文化祭の脚本係に据えた行動。


 その全ての行動が、先程高梨が起こした行動と著しく乖離していることを、赤石は何も不思議に思っていなかった。

 不自然なほど自然に・・・・・・・・・、高梨の行動を認めていた。


 今までの高梨の犯したことを記憶の彼方に追いやっているのか、気付いていながらもその気付きを心の奥にしまい込んでいるのか、忘れているだけなのか、はたまた、赤石の直感だけが気付いた何かか。


 赤石は余りにも今までと乖離した行動をとる高梨を、受け入れていた。

 それが高梨の根幹をなすものだとは、赤石自身気付いているか気付いていないかは、自分でも感知しないところにあった。











「…………」


 赤石は、自室で茫然と立ちすくんでいた。


「おい悠、早く着替えろよ。部屋が汚れるだろ」

「分かってるよ」


 赤石は自室で、着替え始めた。

 同じく泥で全身が汚れてしまった高梨も、別の一室で着替えていた。

 須田は漫然と空を見ながら、赤石に話しかけた。


「悠、高梨とそんな言い合いしてたんだなぁ……」

「そうだな……」


 赤石から事の顛末を聞かされた須田もまた、茫然としていた。


「俺は…………俺は間違ってたのかもしれないな……」

「…………」


 静かな空気が、流れる。


「なぁ統、お前は俺の事どう思ってるんだ?」

「なんだよ、いきなり。そんな付き合いたてのカップルみたいな……」


 着替え終えた赤石はベッドに座った。須田は赤石と対面する。


「そうだな…………俺はお前のことよく知ってるつもりだぞ」

「統も変わった方が良いと、思ってるか?」

「…………どうだろうなぁ」


 須田は真剣な顔で、振り返った。


「俺は人を変えたいと思ったことはないし、ずっと悠がこのままでもいいと思ってた。けど…………」


 息を吸う。


「けど、高梨が言う事も分かる。でも、悠の美点は……悠が、自分を変えようとする力があるところだと、俺は思ってる」

「自分を変えようとする力……?」


 どういうことなのか。


「物の見方っていうのは人によって違うもんだろ? ある側面から見たら正義のヒーローでも、ある側面から見たら悪の化身なのかもしれないだろ? だから、悠が変わったことで悠のことを好きになる人もいるかもしれないし、逆に嫌いになる人もいるかもしれない。物事っていうのはそういう絶対的な尺度を持ってないもんだと、俺は思うんだよ」

「また統の癖に偉そうな言葉が出て来たな……」

「うるせっ」


 須田は赤石の頭を小突く。


「でも……それでも悠が変わろうと思ったなら、その方が良いことなんだと、俺は思う。俺は、どんな悠でも受け入れるよ。お前が変わろうとしてるなら受け入れるし、その結果がどうなっても、俺はお前を助けるよ。必要なら俺も手伝うし、悠がそれを納得してるなら何も言わない」

「じゃあ、今までは俺が納得してたから何も言わなかったのか?」

「ん~…………やっぱこの話難しいわ!」


 須田は話を放り出して、くるくると椅子の上で回った。


「まぁとにかく、俺は悠を全面的に信用するから好きなようになれよ、ってことだよ!」

「なんか無責任な気がしないか?」

「俺が何が良くて何が悪いかを判断しない、ってことなんだと言わしてくれ!」

「まぁ…………そういうことでいいか」


 赤石はぽす、とベッドの上で寝ころんだ。

 物事における絶対的な尺度は存在しない。須田の言わんとしていることは、赤石にも分かっていた。  


 一人殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄だ、という。

 人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だという。

 物事というものは、時として正反対の評価に至ることがある。


 須田の言った通り、物事に絶対的な尺度はないのかもしれない。

 変わらない自分を好いてくれる人がいれば、変わった自分を好いてくれる人もいる。それを判断するのは自分自身で、そう変わろうと決意させたのは高梨だった……そういうことなのか、と考える。


「難しい話だな……」

「そうだなぁ……」


 静寂。


「なぁ、統」

「ん~?」

「俺さ……誰かを好きになってみようと思うわ。それで、誰かに好きになってもらいたい。自分で動いて、自分で努力して、誰かを好きになって……みようと思う」

「そっか」


 須田は、明るい笑顔を赤石に見せた。


「頑張れよ」

「……ありがとう」


 赤石は須田と、拳を合わせた。




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