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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第70話 高梨の怒りはお好きですか? 2



 ピンポーン。


 赤石の家に、インターホンの音が鳴り響いた。

 他愛もない会話を交わしていた赤石と須田は、少し驚いた。


「…………来たな」

「来たなぁ」


 須田は赤石の部屋を出て、玄関に向かった。

 赤石は、高梨が何をしに来たのかが分からず、ただただ不審に思っていた。

  



 ガチャッ。


「……連れて来たぞ」

「何をしてるの、赤石君」

「………………別に」


 須田が扉を開け、高梨が部屋に入って来た。

 高梨はちら、とリンゴの乗った皿に目を落とした。赤石が二つ、須田が一つ食べ、残りは一切れになっていた。


「あら、私の為にリンゴ切っておいてくれたのね」

「いや、それは統が……」


 赤石の返事を待たず、高梨はリンゴをひょい、と手に取り、食べた。


「あ~あ、悠が食べる予定だったのに」

「あら、そうだったの。それは悪かったわね、返すわ」


 高梨は食べかけのリンゴを赤石に差し出した。


「そんなもの食えるか」

「一々嫌な言い方するのね」


 高梨は手をひっこめ、再度リンゴを食べだした。


「……で、高梨。一体何しに来たんだ? 今日は悠は風邪だからあんまり負荷とかかけないでやってくれよ?」

「あら…………そう」


 高梨は赤石に視線を落とした。

 赤石は高梨と視線を交わさず、あらぬ方向を向く。

 人の内心を見透かす高梨だからこそ、風邪のフリをしていることがバレそうな気がした。いや、既にバレているのか。


「風邪…………ね」


 高梨は反芻し、赤石を見下ろす。


『喧嘩を売っているのか』


 それが、赤石が最後に高梨から聞いた言葉だった。

 高梨はリンゴを食べ終え、赤石に面と向かった。


「赤石君、昨日何があったか説明してくれないかしら」

「…………」

「……? 悠、昨日何かあったのか?」


 須田は心配した様子で赤石を見た。


「昨日、あなたは帰って来てから明らかに様子がおかしかったわよね。後で八谷さんも憔悴した顔で帰って来たわ。何が起きたのか、察するに余りあるわね」

「…………? 何を言ってんだ、高梨は? 悠……?」


 須田は二人を見やる。


「統貴、ちょっとこのリンゴの皿、赤石君のお母様の所に戻してきてくれないかしら」

「いや、別に今じゃなくても良くない……」

「少しだけ、赤石君と二人で話をさせてくれないかしら? 十分……いえ、五分でいいわ」

「えぇ……」


 須田は困惑した顔で赤石と高梨を交互に見た。

 何が起きるのか。

 二人きりで何を話すのか。櫻井から言付かった悪意か、罵詈雑言か。どちらにせよ、須田にその様子を見られたくはなかった。


「統、俺は大丈夫だ。ちょっとだけ席を外してくれ」

「…………分かった」


 須田は皿を片手に、部屋を出た。


「…………」

「…………」


 無言で、高梨は赤石のスマホを取った。

 何をする気だ、といぶかしげに見る。


「やっぱりね…………」


 高梨は赤石に視線を落とした。


「ようやく全て繋がったわ」

「…………?」


 高梨は、電源のついたスマホを赤石に手渡した。

 ロックが解除されたスマホを、手渡した。


「お前なんで俺のパスコード知ってんだ」

「ショルダーハックよ」


 こともなげに、高梨は答えた。


「あなた昨日、神奈先生を泣かしたでしょう?」

「…………」

 

 唐突に、高梨は本題に切り込んだ。


 赤石は、黙る。

 間違ったことは、言っていないつもりだった。


「大方、聡助君のことを悪く言って神奈先生に怒られた、とかじゃないかしら」

「……」

「そして、機嫌が悪くなったあなたは、八谷さんにも辛く当たった。違うかしら」

「…………」


 図星。

 傑物たる高梨に嘘は通じない。


「八谷さんが憔悴した顔で帰って来て、何があったのかを訊いたのよ。八谷さんは気付いていなかったみたいだけど、神奈先生があんな時間帯に何もせずにあんなところにいるなんておかしいわよね」

「…………」


 高梨も同じく気付いた。


「それで、八谷さんに辛く当たったあなたは私にも櫻井君にも辛く当たった。あなたがあんなことを言ったから、あの後の教室の空気は最悪だったわ」

「…………」


 どうして高梨にそんなことを言われなければいけないのか。


「自分の機嫌が悪いからって他の人にも当たらないでくれないかしら。気分が悪いわ」

「…………」


 そんなことは知らない。


「それで家に帰ったあなたはツウィークを見て櫻井君があなたの悪口を書き込んでるのを見た」

「…………」


 高梨の言から察するに、高梨もまた、『ツウィーク』を使用している。


「それで結局何もかも嫌になって今日も学校を休んだ。違うかしら」

「…………」


 高梨は軽蔑の目で、赤石を見下ろした。


「なんなのよ、あなた…………」

「…………」


 ギリ、と高梨の歯噛みの音が聞こえた気がした。


「一体何なのよあなた……」

「…………」


 高梨は赤石を睨めつけ、スマホに視線を落とした。


「こんなものが…………こんなものがあるから……!」

 

 高梨は唐突に赤石のスマホを持ち、部屋を飛び出した。


「おい…………!」


 突然スマホを持って部屋を飛び出した高梨に、狼狽する。

 赤石は近くの上着に手をかけ、羽織り、部屋を出た。


「待て! 何してんだ、お前!」


 玄関を開けて出ていく高梨を、追いかける。


「待て、てめぇ!」


 突如逃げ出した高梨を追いかける。

 中学の頃も才色兼備、文武両道の権化だった高梨の走りは、赤石に追いつけるようなものではなかった。一般男子高校生程度の脚力しか持っていない赤石には、高梨に追いすがることで精一杯だった。


「待てって言ってるだろうが!」


 どうしてスマホを持って外に出たのか。

 高梨の真意も全く推し量れず、ただただ追いかける。


「こんなものが…………こんなものがあるから……!」


 高梨は川に向かって立ち止まり、赤石のスマホを持ったまま、遠投の姿勢を取った。


「待てって言ってるだろうが!」


 辛くも高梨に追いつき、赤石はスマホが投げられる前に、高梨の手首を掴んだ。


「てめぇ、人の物を投げようとするな! 頭イカれてんのか!」

「うるさい…………うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!」


 赤石の拘束を抜け出そうと、高梨が暴れ、高梨の膂力に押された赤石は、よろけ、押し倒された。

 高梨は赤石の制止を振り切り、近くの公園に駆け込んだ。


「待てよ!」


 赤石はすぐさま立ち上がり、高梨を追いかけた。

 一体何をしているのか。

 高梨は一体何をしているのか。スマホを持って走ることで何をしようとしているのか。

 

 櫻井を好きな自分まで汚されたことによる単なる八つ当たりなのか、自分の感知しない高梨の何かがそうさせているのか。


 赤石は回らない頭を必死に動かしながら、走り出した。



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