第59話 脚本作りはお好きですか? 6
「へえぇ~、そんなことやってたのか。なんだよ、俺にも教えてくれよ!」
「なんでだよ、お前密偵じゃねぇか四組の回し者だろ! 二組の敵め!」
「おいおい、悠がクラスの絆を気にするなんておかしな話だな。まさかお前偽物か……⁉」
「そんな訳あるか。冗談だ、冗談。三矢、山本、悪い。こいつ帰すわ」
赤石は須田の背中を押したが、三矢が手でそれを制した。
「いや、別に帰さんでもええんとちゃうか? なぁ、ヤマタケ」
「そうでござるよ、人が多い方が良い案も出ると思うでござるよ。来て貰ったのに帰すのも少し忍びないでござるよ」
「じゃあ遠慮なく」
「ごめんな、二人とも」
須田は赤石の隣に腰を下ろした。
須田の隣の高梨は、はぁ、と小さな溜め息をついた。
「赤石君、統貴がここにいるのはまずいわよ。今出た案が全て持っていかれる可能性もあるわ。スパイを囲んでいるようなものよ」
「いやいや、高梨まで止めてくれよそんな失礼な。それに俺のクラスはもう何やるか決まってんぜ?」
「そう……じゃあ何か言ってもらおうかしら」
「ずばり、お化け屋敷と桃太郎だ!」
「お化け屋敷と桃太郎……」
桃太郎は演劇、お化け屋敷はクラスを使った催しだろうな、と合点がいく。
文化祭の一日目に演劇をして二日目は生徒の多くを使ってお化け屋敷をするとはなんともハードなスケジューリングだな、と少し不憫に思った。
「私たちは映画製作だからじゃあ競合はしなさそうね。これで今出た私たちの案を奪っていったら承知しないわよ。あなたに未来はないと思いなさい」
「怖ぇ~、悠、よくこんな女を家に入れたな」
「勝手に入って来たんだ」
「夏によく現れるあれみたいだな」
「止めてもらおうかしら、人を害虫呼ばわりするのは」
「ところで……」
須田が四人を見回した。
「三矢と山本は何か食べたのか?」
「いや、まだ何も食べとらんな」
「拙者もでござるな」
「高梨と悠は?」
「私もまだね。赤石君もそうよ。さっきまで寝てたからね」
「おい悠、お前いっつも寝てるな」
「放っとけ」
呆れた表情をしたのち、須田は手を叩いた。
「よし、じゃあ何か買ってくるわ俺! もう一二時だし、昼ご飯欲しいだろ? じゃあ適当に買って来るからまた話し合い再開しててくれよ」
須田は立ち上がり、扉を開けた。
「待ちなさい」
「……?」
階段を下ろうとした須田に、高梨から声がかけられた。
「統貴、私もついて行くわ」
「……そうか、じゃあ高梨も来いよ。じゃあ行ってくるわ!」
「おう、行ってこい」
「任したで!」
「任したでござる!」
須田は高梨を連れて、外に出た。
「いやぁ、高梨が付いてくるとは思わなかったぞ。何か食べたいものがあったのか?」
「特にないわね」
須田と高梨は近隣のスーパーへ出向いていた。
「じゃあ、なんで付いて来たんだ? 何か買いたいものがあったのか?」
「別にないわ」
「……じゃあなんでだよ!」
「そうね……」
高梨はしなやかな指をおとがいに当て、ゆっくりと須田に顔を向けた。
「赤石君に好きな人がいるのかどうか聞きたかったのよ」
「………………え?」
須田は足を止め、高梨を見た。
「それ、悠が好きな時に言うセリフじゃん?」
「馬鹿な事を言わないで。私は赤石君のことを好きなんかじゃないわ、聡助君よ」
「じゃあなんでそんなこと訊いたんだよ」
「そうね……」
須田から視線を外し、高梨はあらぬ方向に視線を向ける。
「それは秘密よ」
「……まぁ秘密なら聞かないけど」
須田は不審な表情を浮かばせ、口をとがらせる。
「でも悠がお前呼んだわけじゃないのにお前は悠の家に来たんだろ? じゃあ悠が好きってことなんじゃ……?」
「何よ統貴、あなた穿った見方をしないで頂戴。別に私が何を思って赤石君の所にいたって構わないじゃない」
「まぁそうだけど、お前言葉の使い方きついから悠の精神衛生上よくなさそうな気がしてな」
「統貴、あなたは相変わらず失礼ね。赤石君を軽蔑するような言葉は発してないつもりよ」
「そうかぁ……?」
そこそこに軽蔑に近いようなことを言っていた覚えもあるけどな、と須田は追想する。
「ま、悠と一緒にいるのは構わんけど、悠をいじめたりはしないでくれよな」
「分かってるわ。私がそんなことするわけないじゃない。そんなことはしないわ」
「まぁ、頼むぜ」
会話の終了を示すべく、立ち止まっていた須田が再度歩き始めた。
高梨もそれに追従する形で歩き出す。
暫くスーパーの中を練り歩き、総菜コーナーに辿り着いた。
「じゃあ、何食うよ高梨」
「そうね……この野菜の盛り合わせを買おうかしら」
「じゃあ俺はドーナツ買おっと」
須田は大袋に入ったドーナツを手に取った。
「ちょっと待ちなさい統貴、あなたそのドーナツの量、多すぎるんじゃないかしら。食べきれるか分からないんじゃないの」
「いや、俺だけじゃないし食べるの」
「誰が食べるって言うのよ」
「俺と、ミツと、ヤマタケと、悠」
「赤石君がドーナツ……?」
高梨は小首をかしげた。
「赤石君がドーナツを食べたりするのかしら? 野菜ジュースと栄養機能食品を食べてそうなイメージなんだけど」
「あぁ~」
須田は手で頭を押さえた。
「いや、駄目だわ。高梨、悠のこと全然わかってないわ。これっぽっちも分かってないね!」
須田は親指と人差し指でわずかな空間を作る。
「何よ統貴。そんなことがどうして分かるのよ。野菜ジュースと栄養機能食品の方が良かった、っていうかもしれないじゃない」
「いや~、案外そんなこともないんだよ。悠とかならそうだな……」
須田はドーナツの商品を見回し、
「多分これとか好きそうだな」
苺のシロップがたっぷり乗ったドーナツを手に取った。
「…………意味が分からないわ、私にも分かるように説明してくれないかしら。私は赤石君は合理的な思考をする人だと思ってるのだけど。なら、ドーナツなんて嗜好食品を食べるのはいささかおかしいんじゃないかしら」
「まぁ、半分正解で半分不正解ってところかなぁ~」
「もったいぶってないで早く言いなさい」
「高梨の言うとおり、娯楽とかそういう系統のものの殆どを悠は嫌ってるけど、でもそれでも本当は好きな娯楽系統のジャンルもあるんだなぁ」
高梨は須田の話を聞き、細かく首肯した。
「……つまり?」
「ドーナツとかお菓子とか、悠はそういうのが好きだけど、自分から食べたりはしない。でも、俺が買って来たら仕方ないなぁ、ってことで食えるだろ? 本当は食べたいけど、それが合理的じゃないから自分からは選ばない、ってことだよ」
「…………分かったような、分からないような……」
高梨は目をつむり、小首をかしげる。
「赤石君って、面倒くさいっていうことかしら」
「まぁ、大体正解だな」
須田は手に持っていた苺のドーナツを籠の中に入れた。




