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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第58話 脚本作りはお好きですか? 5



「邪魔するで赤石!」

「…………」


 脚本作りの会議翌日、朝の十一時。

 

 赤石は自室でベッドの上に転がっており、部屋の中には三矢がいた。


「赤石、お前まだ寝とんか…………?」

「眠い……」


 母親に鍵を開けてもらい、三矢を入れることを許可した赤石ではあったが、未だ眠気に耐え切れず、ベッドの上で輾転としていた。


「おいお前もう十一時やぞ? はよ起きんかい!」

「いや、今日の集合時間十一時三〇分だろ……? まだ三〇分もあるだろ……早すぎるぞ」

「しゃあないやろ、電車なかったんや!」

「まあそれなら仕方ないか……」


 くぐもった声で、赤石は返答する。


「赤石君、来たわよ」


 赤石と三矢が言い合っている最中、高梨が控えめな足音を響かせ、ドアを開けた。 


「高梨来たぞ赤石!」

「……そうか」


 赤石は尚もベッドで寝ている。


「あら、赤石君はこの部屋にいるのかしら、三矢君?」

「そこおるで」


 三矢は赤石のベッドを指さした。

 高梨はベッドの方向へと歩いて行き、前で立ち止まった。


「赤石君、起きなさい」

「まだ十一時だろ……あと三〇分あるだろ……」

「集合時間云々うんぬんの問題じゃないわ。あなたこんなに不規則な生活習慣をしてたら駄目よ。毎日同じ時間に規則正しく起きて規則正しくご飯を食べた方が良いと、私は思うわ。

 あなたいつも八時に着く電車を利用してるわよね? そんな不規則な起床時間は駄目よ。私たちはもう二年生よ。大学受験も近いのよ。もう少し規則正しく生活して、脳を目覚めさせないとあなた受験に落ちるかもしれないわよ。起きなさい」

「……そうか」


 つらつらと、高梨は長広舌で赤石を叱咤した。

 高梨の言う事はいつも正論だな、と思う反面放っておいてくれ、とも思った。


「放っておいてくれ」

「駄目よ、私はあなたを放っておくことは出来ないわ。放置出来ないのよ」


 どうして放置出来ないんだ。お前は櫻井が好きなんだろう、一体何の関係があるんだ。

 誰かに命令でもされてるのか? それとも本当に好意を持っているのは、実は自分なのか? と、益体もないことを考え、まさか、と自嘲気に嗤う。


「それに、あなた三〇分が集合時間だとして三〇分に起きたらそれは遅刻よ。用意する時間も含まれるでしょう? それともあなた、一体何かしら。私たちが脚本のことを考えているうちにあなたはのろのろとこんなところで準備でもしておくつもりかしら。それはあんまりにも不義理よ。それに、この部屋で赤石君が脱衣している所なんて見たくないわ」

「脱衣ってなんだよ……卑猥な言葉の使い方するなよ」


 赤石は目をすがめ高梨を見る。

 不義理。

 相変わらず言葉の使い方はきつい。


「じゃあ、早く起きなさい」


 高梨はそう言うと、赤石の布団を引きはがした。


「そうだな……不義理だったな。用意してくる」


 赤石は高梨に抵抗せず起き上がり、階下に降りた。


「はよせぇよ赤石!」


 階上から三矢の声を背中に聞きながら、準備に向かった。


 事実、赤石は約束をたがえるのが、嫌いだった。

 だが、三矢と高梨と山本の三者を友達と認識しようとしたが故の怠惰だった。

 

 赤石は、自らの信頼する人物には、甘い。

 約束にも、自身の方針にも、甘い。


 約束の時間に遅れるかもしれない怠惰な行動は、赤石にとって信頼の萌芽でもあった。

 他人との約束の時間には、きっちり間に合わせる人間だった。









「赤石殿、来たてござるよ!」

「よく来たな」


 赤石の準備が終わり、丁度階上へ上がろうとしたところで、山本が赤石の家に入って来た。

 赤石は山本を迎え入れ、階上に上がった。


「それでやな、俺が靴飛ばしたらそのまますっぽ抜けて天井の上あがってもうたんや!」

「ふふ…………馬鹿ね、あなたは」

「誰が馬鹿や! お茶目言わんかい!」


 扉を開ければ、そこで三矢と高梨とが楽し気に話し合っていた。

 赤石は二人に、故意に目をやらず、昨日と同じ場所に腰を下ろす。


「おぉ、来たかヤマタケ! 赤石も遅かったな!」

「そうだな……じゃあ始めるか、脚本づくりの会議を」

「そうでござるな」

「そうね」


 こうして、脚本作りの話し合いが、再開された。








 一二時――


「中々まとまらんなぁ、脚本考えるいうんも……」

「色々案が出たんだけどな……」


 赤石は今までに出た案を書き記した紙に再度目を落とした。


 トントン、とシャープペンシルを小刻みに机に当てる。


 演劇が出来るまでのドキュメンタリー、演劇を推理編、映画を解決編にする方式、童話を模した映画、日常のありふれたワンシーンで如才なく凄技を連発する、いわゆる『バカっこいい』動画、教師の真似をする動画、ホラー映画を模したもの。


 ありとあらゆる案が出るが、どれもピンとこない。

 何より、映画製作に携わる生徒たちがそこまで協力的になってくれる気が、していなかった。既にクラスメイトから白眼視されている自分が作った脚本に尽力してくれないだろうと、赤石はそう思っていた。


「困ったな……」


 自然に、呟いてしまう。

 一同に重い沈黙が降りた時、


「おーーーーーーーーーっす、悠、遊ぼうぜーーーーー!」

「…………統?」


 赤石の部屋の扉が、勢いよく開かれた。


「え…………す、須田!? もしかしてあの須田統貴か!?」

「す…………須田殿!?」

「あら統貴、何をしに来たの、こんな埃臭い部屋に」

「俺の部屋を埃臭いというのは止めてもらおうか」


 三者三様のリアクションを取り、須田の登場に驚いた。


「おい統、また顔パスか?」

「当り前じゃねぇか。ところで、この二人は?」


 須田は三矢と山本に目を向ける。


「おっ…………俺は三矢や! ま、まさか赤石の友達にこんな有名人がおるとは思わんかったぞ……!」

「せっ、拙者は山本でござる! 拙者も同感でござる!」

「あっはっはっは、何その口調おもしれぇ! 俺は須田統貴、よろしく!」


 須田は手を差し出した。


「お、おう、よろしくやで!」

「いえぇーい」


 須田は三矢と握手を交わす。


 出会って数秒で仲良くなる須田の技術にはいささか舌を巻かざるを得なかった。

 確かに須田と三矢の性格や気質というのは似ているかもしれない、と今更ながらに思い至った。


「ところで悠、どうしてこんなところで集まってんだ?」

「あ……あぁ、実は理由があってだな」


 赤石は須田に寄り、事情を話した。



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