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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第56話 脚本作りはお好きですか? 3



「じゃあ、取り敢えずくつろいでくれ。何か案があったら出して欲しい」

「はいはいはいはい、あるぞ! 俺はあるぞ!」


 三矢が身を乗り出して手を挙げた。


「どうぞ、三矢」

「分かったわ。まず、名前の呼び方から変えてくれ」

「名前の呼び方……?」


 脚本とはおよそ関係のない話を、三矢は切り出した。


「三矢三矢言うんも堅苦しいやろ。俺はこいつをヤマタケって呼んどるし、呼び方をまず決めようや」

「そうか」


 相も変わらず人と距離を詰めるのが速いな、と感じる。

 

「関西人だから人と距離を詰めるのが速いな」

「何言うてんねん! 関西人なんか関係あらへんわ! それは個性や、個性」

「それもそうか」


 詰め寄って来る三矢の圧力に屈し、赤石は少し後ずさる。

 三矢は立ち上がり、声高々に宣言した。 


「じゃあ、自己紹介させてもらうで。俺は三矢弘史、関西生まれの関西育ちや。趣味はパソコンいじり。ミツって呼んでくれ」


 自己紹介が終わった後、右隣にいた山本の肩を叩いた。

 こういう時に臆面もなく自分から紹介できるのは三矢の一種の才能だな、と思う。


 山本は立ち上がった。


「拙者は山本武でござる。アニメや漫画が大好きでござるからこういう喋り方をしてるでござる。趣味は三矢殿と同じくパソコンいじりでござるよ。よくヤマタケと言われてるでござる。よろしくでござる。」

「それ、『ライトボールは手の中に』のアキヒロの喋り方を真似たんだろ?」

「そうでござる! いやはや、さすが赤石殿は知識が深いでござるな」


 山本は次に、右隣の高梨に目配せした。


 高梨は元々立ち上がったままだったので、そのまま自己紹介をする。


「私は高梨八宵よ。人からはよく深窓の令嬢だなんて言われてるわ。呼び方は…………そうね、まだないから出来るまでは高梨でいいわ。あなたたちが呼び名を決めても良いわよ。今回はこんな風に男臭い場所に来てあげたんだから感謝しなさい」

「…………」

 

 それだけ言うと、スッと座った。


 こういう所だ。


 赤石は、思った。

 こういうところが、高梨の沽券を下げている。言葉が強い。こんな言葉の使い方をしているから、近くに人が寄ってこない。

 現に、高梨が櫻井たちと以外と仲良くしている所を、見たことがなかった。


 高梨が何を考えているにせよ、こういう所は直した方が良いだろうな、と思った。


 高梨は赤石の肩を叩き、赤石は軽く立ち上った。


「俺は赤石悠人。友達には悠、と呼ばれてるけど正直明確な呼び方はない。今回は脚本のアイデア出しに集まってくれてありがとう」


 赤石は簡潔に言うと、座った。

 四人の自己紹介が終わり、部屋は静かになった。


「まぁそういうこっちゃ。高梨さん、今回はこんな男臭い場所に集まってくれてどうもや。俺らだけやったら華がなかったからな、高梨さんがおってくれてよかったわ」

「そうね、あなたたちだけだと本当に男だらけになってたわね。もう少し感謝してくれても良いと私は思うんだけど」


 目を閉じながら、何ともなしに言う。


 本当に三矢は感謝しているのか、と怪訝に思う。


 気のせいかもしれない。

 気のせいかもしれないが、三矢が高梨に話しかける回数が多くないか……?


「…………」


 いや、さすがにないだろう。

 ここまで関西人然とした三矢が自身の腹積もりを隠している、そんなことはないだろう。


 まさかあの事件後、中庭で高梨と統と共にご飯を食べている姿を見て、急遽自分と関わるようにした。そんなことは、ないだろう。

 事件の一日後に話しかけてこなかったのは、櫻井が朝の時間を使ってしまったからだろう。


 昼食時に高梨を追いかけていた三矢が自分と関わっているのを発見し、事件後二日経ってから話しかけて来た。

 そんなものは、偶々だろう。


「…………」


 突如として降って湧いた考えに、恐ろしいものを感じる。


 三矢を見る。


 三矢は笑いながら高梨と山本と話していた。

 

 まさか、こんな人間に裏がある訳がないだろう。自分を律しきっている訳じゃないだろう。高梨が櫻井に好意を抱いているということを知っていて、高梨の気持ちを変えようとしたわけじゃないだろう。

 まさか盗撮の犯人と関係があるか、もしくは三矢自身がその犯人なのか。

 

「いや…………」


 小声で、呟く。

 そんなことは、ないだろう。


 パソコンが好きと言っている三矢が『ツウィーク』を使った、そんな訳はないだろう。今時、誰でも『ツウィーク』を使う。


 まさか、足が付かないようパソコン好きの三矢が『ツウィーク』を使って…………。

 まさか、この行為が迂遠敵に高梨と三矢を結びつける…………。

 まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか。


 今までの事態と結びつけようとする自身の思考を、中断した。


 赤石は必死で自分の邪推を押し切り、三人と向かい合った。

 自分と向かい合ってくれている三人の邪推をするのは止めよう。キリがない。


 そう、自分に、言い聞かせた。


 去る者は追わない。来る者は拒まない。

 自分に対して誠実にしてくれている三人を疑うのは、自分の悪いところだ。人に対して斜に構えた目で見てしまう。

 そんな悪癖は直した方がいい。


 赤石は、律する。


 三人に向き直った。



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