閑話 暮石散歩はお好きですか? 3
「そろそろ出よっか、赤石君」
釜井を発見した暮石は、すぐさま赤石にそう言った。
「いや、まだ何も買ってないぞ」
「まぁ、大丈夫なんじゃない?」
「チキンが」
「チキンチキンうるさい、このチキン野郎!」
「お前が最初にチキンチキン言い出したんだろ」
赤石はため息を吐く。
「もう食べたい気分じゃなくなったの。ほら、女心と秋の空って言うじゃん」
「まぁいいけど」
「さぁさぁ、行った行った」
暮石は物陰を利用して、釜井の視界に入らないようにコンビニを脱出しようとする。
「赤石君、先行って」
「いや、俺人の前に立つのとか苦手なタイプなんだよな。先行っていいぞ」
「いいからいいから」
暮石は赤石の背中に隠れながら、コンビニを出る。
「ふぅ~……」
どうにか釜井の視界に入ることなく、暮石はコンビニを脱出した。
「別のコンビニ行こっか」
「気に入らなかったのか?」
「ほら、コンビニによっては深夜に半額キャンペーンとかやってるところあるじゃん? チキンも半額になってるかも」
「あぁ~、何十円引き、とかあるな確かに」
「あと、今実はアニメくじとか探しててさ。さっきのコンビニにはなかったから他のコンビニでアニメくじ引きたいんだよね」
「確かにああいうくじ系のやつって、コンビニによってやってたりやってなかったりするよな」
二人は別のコンビニへと足を運んだ。
「到着~!」
暮石はいの一番に、コンビニの中に入った。
「らっしゃっせ~」
二人が入店したことを確認し、深夜のコンビニ店員が、同様に覇気のない挨拶をする。
「くじあったか?」
「ん~、見てみる」
暮石はアニメのくじを確認する。
「やってないみたい」
「人気のとかは当日で売り切れたりするからな。そんなに都会でもないし、そもそも入荷されてないのかもしれないな」
「ガーン」
暮石が肩を落とす。
「あ、でもこっちのチキンは五十円引きだ」
暮石はレジ横のホットスナックに視線を寄せる。
「ちょっと得したね」
「移動した時間働いてた方がお得だと思うけどな」
「そんな風情も趣もないこと言わないの」
これ食べたい、と暮石が赤石にチキンを指さす。
「しかもこっち三個もチキン余ってる」
「深夜に三個もチキン食べる気にならない」
「じゃあ二個で良いよ!」
「なんでちょっと怒ってるんだよ」
暮石が頬を膨らませる。
「ジュースも買お?」
「好きなの選んで入れてくれ」
「オッケー」
暮石が適当なジュースを手に取り、赤石の持つカゴの中に入れた。
赤石は暮石の隣でジュースを見る。
「赤石君もジュース選ぶの?」
「家にあるし良いかな」
「赤石君もジュースとか飲むんだ」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
赤石は冷蔵庫の扉を閉めた。
「ダーリン、チキン買って買って~」
「二個な」
「ダーリン、チキン勝手に買って~」
「お前のために買うんだよ」
二人はレジへ向かった。
「らっしゃっせ~」
店員がレジに来た二人に視線を合わせることもなく、挨拶をする。
「あ、この旨辛チキン二つ」
赤石の背中からひょい、と顔を出した暮石が指を二本立て、店員に言う。
赤石はジュースの入ったカゴをレジに出す。
「旨辛チキンがお二つ~」
よどみのない動作で、コンビニ店員はホットスナックの旨辛チキンを取り始めた。
「なんかチキン頼むのって気恥ずかしいよね」
「分かる」
赤石はカバンから財布を取り出し、用意する。
「合計五百八十円になりや~す」
赤石はカードを取り出し、会計を行った。
「ありあとやっした~」
会計を終え、二人はコンビニを出る。
「恋人と二人でコンビニの会計するのって、なんかエッチだね」
「それはちょっと分かるな」
「だってこれから絶対しっぽりするもんね」
「それは人によるだろ」
二人がコンビニを出ようとしたところで、新たに入店しようとした客と鉢合わせる。
「……」
釜井恵美その人が、コンビニに入って来ていた。
「あっ……!」
不可避の鉢合わせ。
釜井と顔を見合わせた暮石は、咄嗟に小さく声を上げた。
「……」
釜井は暮石と赤石の二人を視界に入れる。
「……っす」
暮石に向かって、軽く会釈をする。暮石も釜井に、会釈で返す。
そして釜井は暮石に目もくれることなく、そのままコンビニの中に入って行った。
「らっしゃっせ~」
遠くで、店員が新規に入店した客に挨拶をする。
「ん?」
小さく声を上げた暮石が気になり、赤石は振り向いた。
「どうした?」
「いや……」
暮石もまたコンビニを振り返り、釜井の背を見送った。
「北秀院の新入生の子がいて」
「大学近くのコンビニだからそういうこともあるだろうな」
鉢合わせないはずだった。
何の因果か、何の目的か、釜井もまた暮石と同様に、別のコンビニへとやって来ていた。
「なんで新入生って分かるんだ?」
「オフ会の」
「あぁ」
赤石は納得する。
「さっきすれ違ったのはオフ会で出会った人だったんだな」
「うん」
「声かけなくて良いのか? 折角外で会ったんだから」
「いや、まぁいいかな。今はダーリンといるし」
「そうか」
「多分あの子も気を遣ってくれたんじゃないかな?」
二人はそうしてコンビニを後にした。
「家帰ってチキン食べよ?」
「そうだな」
「他にも何か食べるものある?」
「あるけど、太るぞ」
「彼氏といる時はいくら食べても良いの」
二人は家で小さな贅沢をして、過ごした。
「あ~、楽しい一日だった」
そうして赤石の家で、依然と同様にして夜を過ごした。
暮石は赤石の背中に抱き着きながら、ゆっくりと目を閉じる。
「幸せ~」
「寝づらい……」
大学入学を前にして、二人のカップルは寝室でゆっくりと眠りについた。




