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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第12章 高校生活 こぼれ話篇
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第541話 新聞部の日常はお好きですか? 3




「私、新聞部なんだけどね」


 三田は二人に向かって、ぽつりと身の上話をし始めた。


「下から読んでも」

「それは新聞紙」


 赤石の益体もない返答に、三田が突っ込みを入れる。


「新聞部って、定期的に記事とか発信してるんだけどね」


 赤石と須田は顔を見合わせる。


「見たことある?」

「ないかも」

「ごめん、俺もちょっと覚えてないかも」


 赤石、須田の二人はやはり知らなかった。


 それもそうだよね、と思った。

 二人がその記事を目にしていたら、きっと私に対してこんな風に接してはくれないから。きっと今みたいに笑い合ってはくれないから。

 自分のことを知らないからこそ、こうして屈託のない付き合いができるだけで、本当の自分を知ってしまえば、きっとこの二人も自分の下から去ってしまう。


 自分と仲良くできる人間は、ただ自分のことをよく知らないだけなのだ。

 いずれ壊れてしまう関係性を構築するのに、不安が付きまとう。


「私の出した記事が最近炎上しちゃって」


 でも。


 でも、この二人なら自分のことを認めてくれるんじゃないか。

 この二人なら、自分のことを分かってくれるんじゃないか。

 あどけなく笑い合うこの二人なら、自分のことを真に分かってくれるんじゃないか。


「恋仲なんじゃないか、って噂されてる先生同士の記事を書いた時に炎上しちゃって。先生の写真と生徒からの噂の声とかを一緒にして記事にしたら、先生からすごい怒られちゃって」


 三田はゆっくりと、勇気を出して、震える唇を必死に動かしながら、言葉を紡ぐ。


「それで他の生徒からもすごい避けられてて。私どうしたら良いのかな、って思ってるんだけど」


 きっと、この二人なら分かってくれるはずだ。

 自分と真に付き合えるのはこの二人なんだ。


 赤石は三田に向き直った。


「お前」


 そんな三田の希望は、


「それはさすがに下世話すぎるだろ」


 あっさりと、打ち砕かれることとなった。


「……」


 赤石の歯に衣着せぬ発言に、三田は言葉を失う。


「先生も同じ人間なんだから、そんなのを記事にしたらそりゃあ怒られても仕方ないだろ」

「でもでも、皆からも二人が付き合ってる、って声があって、私は皆の声を代弁しただけで」

「まぁ新聞部がそういう活動だ、と言われれば納得をせざるを得ないのか……?」


 赤石は腕を組み、小首をかしげる。


「ちなみに、その二人が付き合ってる確証は?」

「いや、皆の証言をかき集めて……」

「やっぱり怒られても仕方ないだろ」


 赤石は軽く笑った。


「君も私のことを避けるの?」


 三田は冷たい目で赤石を睨みつける。

 険悪な空気を察し、須田がおろおろとする。


「その記事が炎上してから、私みんなに避けられるようになって。皆が陰で先生同士が付き合ってる、って言ってたんだよ!? それなのに、それを記事にした私にだけ全責任をなすりつけて避けてくるのは違うくない?」

「違うくはない」


 赤石はきっぱりと言う。


「私の気持ち分かってくれないの?」

「分からない」


 赤石は全く三田の気持ちに寄り添わない。


「なんで?」

「なんで、ってお前を避けてる生徒の気持ちの方が分かるから」

「なんで? 全責任を被せて避けてる生徒の気持ちの方が分かるって、どういうこと? 君もそうするの?」

「俺が実際どうするかと、他の生徒がお前を避けることに共感できるかどうかは、今は関係ない。俺はそんなことがあってもきっと避けることはないが、それでもお前を避ける生徒の気持ちの方が理解できる」


 三田は引き下がらない。


「なんで?」


 赤石に問い返す。


「なんで、ってそんな嘘かまことか分からないような情報に踊らされて、写真付きで恋仲か、なんて記事を出されたとしたらたまったもんじゃないだろ。先生も普通の人間なんだから、記事にする対象がお前の近くにいる生徒になったとしても何らおかしくないだろ」

「私はそんなことしない」

「私はそんなことしないのかそんなことする人間なのかは、周りの人間には判断できない。先生の恋愛を記事にするような奴は、きっと生徒の恋愛も記事にする。今はそう思ってないだけで、将来そう思う可能性もある。人間の可能性は無限大だ。悪い方にな」

「しない」

「お前が実際するかしないかは関係ないし、周りの人間はお前の言うことなんて信用しない。実績だけが全てだ。言葉には何の力もない。行動だけがお前を証明する」

「なんでそんなに信用されないの?」

「お前が周りの連中とそれだけの信頼関係を築けてなかったんだろ。こういうことする子なんだ、って思われて避けられてるだけだろ。あるいは、炎上してるやつと絡んだら自分も周りの人から避けられる、とか思ってるんじゃないか?」


 赤石は水を飲み、息を整える。


「そういう時こそ力を貸すのが、友達ってもんじゃないの?」

「理想論はネット番組とかで語ってくれ。世界がどうあるべきかと、世界が実際どうあるかは無関係だ。実際こうある世界では、実際そのルールで動いている世界では、そのルールに従って生きないといけない。それをしたくないなら、ルールを変えるために多大な労力を支払う必要がある」

「じゃあ私はどうしたらいいの……?」


 赤石の追撃に、三田はしゅん、とうなだれる。


「時間が経つまで、ほとぼりが冷めるまで身をひそめて、目立たないようにじっとしてろよ。学年が上がったら、さすがにちょっとは状況も落ち着くだろ。人の噂も七十五日、時間だけが解決してくれる」

「じゃあ新聞は……?」


 次は何を発表すれば良いのか。

 次は何を記事にすれば良いのか。

 先生の恋愛関係を公表することも出来なければ、自分のやりたいことが出来ない。


「毒にも薬にもならないような記事を作れば良いんじゃないか? あるいは新聞部を辞めるとか」

「私は新聞部が好きなの。記事を発信して、皆に笑って喜んでもらえるのが、好きなの。だから辞めたくない」

「それは知らないし、どうでも良いけど……」


 赤石にとって、三田という人間はどうでも良い人間の一人でしかない。

 解決策を聞かれたから自身の考えを返しているだけで、赤石自身には何の感慨もない。


「じゃあやっぱり、どうでも良いような記事を作れば良いんじゃないか?」

「どうでも良い記事じゃ、誰も見てくれない」

「じゃあどうでも良いけど、面白い記事を作れるように頑張れ」

「でも、新聞を発行するのに自分の自由が奪われるのは……」


 新聞を作る上で縛りが生じるのは、創作者として喜ばしくない。

 人のために、喜んでもらうために作っているのは大前提として、記事を作る上での障壁が増えれば、それだけ記事の密度も薄くなり、自然、面白みのない記事に仕上がってしまう。


「いやいや、それはさすがに傲慢だろ」


 赤石はご飯を食べながら、適当に答える。


「傲慢なの? 人に縛られたくない、って考えが」

「いや、そっちじゃない。自由に新聞を作りたいのに、人には嫌われたくない、って考えが

「……」


 三田は小首をかしげる。


「自由を求めるなら、それに付随する副作用も甘んじて受け入れるべきだ。これからも自由に記事を書きたいなら、もちろん怒られるし他人からも嫌われる。でも、それも織り込み済みじゃないとダメだろ。自分は自由にするけれど君たちは私を嫌いにならないでください、だなんて理屈は通らないだろ」


 赤石自身が他者から好かれるタイプの性格ではないことを自覚しているため、赤石の視点からしか助言することが出来ない。

 自分自身が自由に生きているため、その副作用を受けていることも理解している。


「人に嫌われたくないなら嫌われたくないように振る舞わないといけないし、自由に生きたいなら人に嫌われる覚悟を持たなくちゃいけない。人の気持ちは変えられない。誰がどう思うかはそれこそ自由だ。他人の気持ちを慮って不自由に生きるか、他人の気持ちを考えずに自由に生きるか」

「……」


 三田は了承できない、といった風体でブスっとする。


「ちょっと記事が炎上したくらいで離れるのって友達って言えるのかな?」

「それはお前自身の問題だろ」

「ちょっと自由にしてるからって嫌いになるのって、それって人として正しいかな?」

「それは人間の問題だから、俺たちにはどうすることもできない。時代が変わっても、常識が変わっても、他人の頭の中までは変えられない。他人がどう思うかまでは変えられない。諦めろ」

「……」


 三田はさらにブスっとする。


「もう良いです。あなたには聞きません」


 三田は赤石との会話を打ち切った。


「須田君はどう思う?」


 きっとこの青年なら、自分に味方してくれるだろう。

 寄り添ってくれるだろう。そんな想いを持って、須田に尋ねた。


「言い方は悠ほどじゃないけど、俺もどっちかって言うとそっち寄りかなぁ。他の人の気持ちはどうしようもないから、やっぱり自分が変わるしかないんじゃないかなぁ」


 須田はう~ん、と唸りながら答える。


「それこそ、今の状況に危機感持ってるなら、三田さんが変わらないといけない一面もあるのかもしれないなぁ」


 須田は苦しみながら、答えを絞り出す。


「じゃあ二人とも、私が苦しんで避けられてても、見て見ぬフリするんだ」


 三田は二人を責めるような口調で言う。


「当たり前だろ」


 赤石はケラケラと笑う。


「お前は俺が苦しんでたら手を差し伸べてくれるのか? 絶対そんなことしないよな? 他人が他人に手を差し伸べるわけないだろ。人間は自分にメリットのないことはしない」

「……」


 赤石の言葉にお冠。

 三田は赤石の返答に言葉を返さない。


「自分が苦しんでたら他人が自分を助けるべき、自分は自由にするけれど、それを避ける他人は許されない、さっきから考え方が自分一辺倒で、自己中心的すぎるだろ。他者はお前の操り人形じゃない。一人で生きるだけの強さを持つか、それが出来ないなら他者に迎合して生きろ」


 赤石はそう言い放った。


「あっそ!」


 三田は吹っ切れたように、頬を膨らました。


「じゃあ君も他の有象無象の生徒たちと一緒になって、私のことを避けるんだ」

「今こうして喋ってるんだから避けてないだろ? 写真撮られてあることないこと記事にされるかもしれないリスクを背負って。俺は別に避けない」

「……」


 自分は人とは違うんだ、という赤石のスタンスに、なおさら腹が立つ。

 確かに自分を避けない人間ではあるかもしれないが、赤石自身のスタンスに、人を食ったような態度をする男に、腹が立った。


「じゃあもういいです、私は好きに生きます! あとで泣いてすがって来てももう遅いから!」

「異世界ラノベの主人公か、お前は」


 三田はプンプンと怒りながら、席を立った。

 そしてそのまま二人の下を離れる。


「いつかお前が何かやったら絶対記事にするから!」

「結局自由にする方向性で進んでいくのか」


 三田は捨て台詞を残して、そのまま自分の道を歩み始めた。


「良いことしたなぁ」


 赤石は一仕事終えたかのように、額の汗を拭った。


「良いことをしたのか……?」


 須田は赤石の態度に、苦笑した。


「また悩める少女を一人救ってしまった……」

「全然救われてない気がする」


 赤石と須田は食事を続けた。




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