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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第12章 高校生活 こぼれ話篇
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第535話 妹の詮索はお好きですか? 1



 夏の暑さもまだ引かぬ折、赤石と新井は二人、公園でのんびりとしていた。


「……」

「……」


 きぃきぃと、錆びた鎖がきしむ音だけがする。

 公園には赤石と新井の二人だけが、いた。


「暇」

「勉強しろよ、受験生」


 赤石はブランコに乗りながら、グミを食べていた。


「グミちょうだい」

「はい」


 赤石はグミの袋を新井に渡した。


「これ何か変な物とか入ってないよね?」

「そう思うなら食うなよ」


 赤石は新井からグミを奪い返した。


「冗談じゃん」

「冗談じゃなさそうだっただろ」


 新井は赤石のグミを再度受け取り、食べ始めた。


「……」

「……」


 新井は赤石のグミをパクパクと食べ続ける。


「グミって一回渡したらもう返って来ないのか?」

「残念。借りパクだね」

「最初は食べた後返すつもりだったのかよ」

「女子高生が口から出したグミなんて、普通のグミの百倍くらいの価値あるし」

「気持ち悪すぎるだろ」

「チョップ!」


 新井が赤石の頭にチョップを入れる。

 山田とのいざこざを乗り越えた赤石と新井は、急速に距離を縮めていた。


「ねぇねぇ、友達一〇三号」

「どうでも良い存在すぎるだろ」

「ジュース買って来て」

「パシリじゃねぇか」

「はーやーく!」

「グミを渡したのにジュースまで……」


 赤石はその場を後にした。


「……おいし」


 新井はグミを食べながら、赤石の隣のブランコを揺らしながら遊んでいた。


「あ」

「え」


 新井の前を、一人の少女が横切る。


「由紀、姉?」

「菜摘ちゃん……」


 櫻井聡助の妹、櫻井菜摘が、新井の前で立ち止まった。


「……」

「……」


 二人は沈黙する。

 一体妹はどこまで知っているのか。

 兄からどこまで聞いているのか。あるいは、何も聞いていないのか。

 櫻井と仲違いをしたことをしっているのだろうか。

 新井は視線を逸らす。


「元気だった、由紀姉?」

「あ、あ~。そ~ね。元気かな」


 菜摘がどこまで知っているのか分からないため、新井はあやふやな返事をする。


「最近おにぃが元気なくてね……。何か知ってる?」

「え~、なんだろ。何かあったんじゃない?」


 新井はあはは、と不自然に笑顔を見せる。


「それに、最近皆全然お家来ないよね? 志緒お姉ちゃんしか来てない」

「あ、そうなんだ~!」


 新井は意外だなぁ、とでも言いたげな声音で膝を打つ。


「前はあんなに皆お家に来てたのに、何かあったの?」

「え~、なんだろ~? 私夏休み中すごいバイトしてたから、あんまり時間なかったって言うかぁ~」


 事実、バイトに明け暮れてはいた。

 毎日毎日バイトに明け暮れ、稼いだお金を資金に山田と遊びほうけていた。


「おにぃが最近元気ないのって、皆がお家に来なくなったのと何か関係あるのかなぁ?」

「えぇ~、どうだろう」


 新井はその理由を知っている。

 だが、何も言わない。


「ここ、いいかな?」

「あ、あ~……」


 菜摘は赤石が先ほどまで座っていたブランコを指さした。

 赤石が帰って来る手前、新井はどう返答しようかと悩む。


「そんなバーのカウンター席じゃないんだから」


 話しているうちに、赤石が帰って来た。


「あ、おかえり」

「ああ」


 赤石は新井にジュースを渡した。


「なにこれ、どこで買ってきたの?」


 新井は赤石に手渡された、ラベルの付いていないジュースをまじまじと見る。


「まぁそれはひとまず置いておいて」

「置いておけないんだけど」


 赤石は菜摘を見る。


「あ、始めまして。菜摘と言います。お兄さんは……」


 菜摘は赤石に上目遣いをする。


「俺の名は浄堂新一朗、キャピタルスタッシュ芸能社が絶賛売り出し中の若手俳優だ。よろしくな」


 赤石は菜摘に手を差し出す。


「え、若手俳優!? すごい!」


 菜摘は両手で赤石の手を挟み、ぶんぶんと振った。


「嘘だよ」

「嘘!?」


 横から会話に入る新井の言葉に、菜摘は目を丸くする。


「初対面の知らない人の言うことは信用しちゃダメだよ、菜摘ちゃん。お前は死ね」

「勉強になって良かったんじゃないか?」

「教育に悪いんだよ、クソ男」


 新井は赤石を叩く。


「まぁ座って」


 赤石は菜摘に、自分が座っていたブランコを差し出した。


「お前立っとけよ」


 新井はブランコに座ろうとする。


「お前が立っとけ」


 赤石は空いていた新井のブランコに座った。


「分かった、分~かった。じゃんけん。じゃんけんしよ?」

「お前が俺に一度でも勝てたことがあったか?」


 赤石はじゃんけんに敗北した。諦めて、立ち上がる。


「で、なんでラベルついてないの? 薬とか入れてないよね?」

「漢方かもしれないぞ」

「勝手に病を治療しないで」

「悪いな、医師免許持ってないんだ」

「アカイシ・ジャック止めて」


 新井は訝しい目でジュースを見る。


「家から取ってきたやつだから」


 赤石は家から、通販で買った一本三十七円の激安ジュースを持って来ていた。

 ラベルも付いていないようなジュースだった。


「あ、家帰ってたんだ」

「俺の家近くなんだけど、寄ってく?」

「さっき寄って出て来たところじゃん」


 あ、と新井は咄嗟に口元を隠す。


「……」


 菜摘を見る。

 菜摘は悲しそうな目で、新井を見ていた。

 赤石の家には行っているのに、櫻井の家には行っていない。

 バイトで忙しいという建前が嘘であったことを、意図せずして自白してしまった形になる。


「猫とかいるんだけど、見てかない?」

「いや、もういいから」


 手を振り、赤石の冗談を受け流す。


「いや、違うくてね」


 新井は言い訳を開始する。


「こいつはただの同級生で、たまたま家に寄っただけっていうか」

「そう……なんだ」


 菜摘は目を伏せる。


「聡助からは、なんて聞いてるの?」


 新井は核心に、触れる。

 ここで、赤石は目の前の少女が櫻井の妹であることに気が付く。


「何も……」

「……」


 沈黙。

 耐えられず、新井はジュースを口にする。


「これ何味?」

「爽やかオレンジ味」

「へ、へ~……」


 聴きたくもない質問をして、その場をごまかす。


「もしかしてだけど」


 菜摘が静かに顔を上げる。


「おにぃと、何かあった?」


 菜摘は強い視線で、新井を見つめた。




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― 新着の感想 ―
妹と恋人関係も良いんじゃないかな。慰めていくうちに恋が芽生えるとか王道だよね。
時間軸は高校3年生の夏休みに戻った。妹の視点から、桜井というラブコメ主人公のキャラクター像と、ハーレムが崩壊した後の状況をもう一度見てみようということだろうか?
おもろい こういう話もっとあっていい
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