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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第12章 高校生活 こぼれ話篇
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第533話 小田泰弘はお好きですか? 4



「おはよ~」

「おはよ~」


 今朝も水城は、うきうきとした笑顔で教室に入って来る。


「やあやあ、おはよう赤石君。元気?」


 水城はにこにことしながら赤石の前に立った。


「アイムファイン、センキュー」


 赤石はしっし、と水城を邪険に扱う。


「あ~、いけないんだ。女の子にそんなことして」


 水城が頬を膨らませる。


「まぁまぁ、彼もこう言ってることですし……」

「赤石君が言ったことだからね?」


 水城は渋々ながら、なだめすかす赤石の提案を受け入れた。

 そして水城はいつものようにして他の男子生徒からの揶揄もにこにこと笑顔で対処し、放課後になった。


「うぃ~っす」


 いつものように、小田が教室にやって来る。


「え、今日髪型変わってね?」


 小田は水城の髪先をそっと触った。


「もう、止めてよ~。女の子にとって髪の毛ってとっても大事なんだからね! 神のって言われてるくらいなんだから」

「はははははは、嘘吐け!」


 小田は大笑いする。


「あれ?」


 今日は昼食を用意せず、水城は机の上にノートを広げたままだった。


「これ水城ちゃんの? え? ってか、水城ちゃんなんか字汚くね?」


 机の上に広げてあったノートを指さして、小田は呟いた。


「もう~、見ないで!」

「お前本当不器用だよな~」

「不器用じゃない~。走り書きしてただけ!」


 もう止めてよ、と頬を膨らませながら水城はノートをしまう。


「あれ、なんかよく見たらカバンにも変なキーホルダーついてるじゃん」


 ノートをしまう手先に目を奪われ、小田の視線は自然、水城のカバンについているキーホルダーにも移った。


「こんなの前からあったっけ? いや、てかこれ……」


 小田はぶふっ、と吹き出す。


「形汚っ!」


 小田は水城のカバンについているキーホルダーを指さし、吹き出した。


「なにこれ、自分で作ったの!? 不器用不器用だとは思ってたけど、水城ちゃんの手先の不器用さヤバすぎでしょ!」


 ははははは、と小田は口を開けて大笑いする。


「もう、止めてよ~……」


 水城は困ったような表情で手を振る。


「なぁなぁなぁ、皆見てよ、これ! 水城ちゃんの作ったキーホルダーヒドくない!?」


 小田は周囲の人間を巻き込んで、水城の不器用さを喧伝する。


「もう~……」


 水城は落ち込んだような表情で、うつむく。


「いや、本当ギャップだわ、水城ちゃんがこんな不器用だとか」

「……」


 水城は沈んだ顔で、うつむいていた。







「アクション映画を作る時に大事なことって、何か分かるか?」


 水城に小田の対処法を聞かれたその日、赤石は空き教室で作戦を考えていた。


「分かりません、先生!」


 水城が手を上げ、大声で宣言する。


「アクション映画を作る時に大事なのは、敵側のリアクションだって、聞いたことあるんだよ」

「敵側のリアクション?」

「平たく言えば、やられ方だな」


 赤石は黒板に板書する。


「はいはい、先生! もうちょっと詳しく教えてくださ~い!」

「どういうパンチだとかキックだとかの攻撃をしたかより、どういうやられ方をしたかの方が大事だ、って聞いたことあるんだよな。一発のパンチを食らったとして、少しひるむくらいなら見ていて爽快感も少ないかもしれないが、一発のパンチを食らった時に一回転して倒れたら爽快感があるだろ?」

「確かにアクション映画ってすごい敵が大袈裟にやられてる感じあるね」

「それだけ強い攻撃だった、って証明にもなるんだよな」


 ふむふむ、と水城はメモをする。


「要は、受け手のリアクションがその攻撃の強さを決めてるんだよ。実際に強い攻撃かどうかは関係ない。受け手側のリアクションによる影響が大きいんだよ」

「なるほど」

「攻撃の強さを決めてるのは攻撃してる側じゃなくて、されてる側、ってことなんだよな」

「全然反則じゃないのに、大袈裟に痛がって相手を反則に追い込むとか」

「スポーツの世界は知らないけど」


 水城は顎をペンでトントンと叩き、考える。


「例えば、なんでこんなことも出来ないんですか? 自分より何年もやってるくせにこんなことが出来ないなんて本当無能ですね、と言われたとして」

「キーッ、むかつく!」


 バンバン、と水城は机を叩く。


「言われた側が泣きながらその場を後にするのか、そう思えるだけの実力が君にあるってことだよ。期待してるよ、新人。と背中を叩きながら期待を見せるのかだと、そいつに対する印象もまるで変わって来るだろ」

「嫌な奴には変わりないけど」

「だとしても、その後の風当たりの強さが全く異なって来るだろ。上の人間を泣かした新人か、上の人間に期待されている、実力はあるが人格は破綻している新人か。これも要は、受け手側のリアクション次第で、そいつを生かすことも殺すこともできるってことなんだよな」

「……」


 水城は押し黙った。


「たとえそれが真っ当な指摘だったとしても、泣いてその場を後にされたら、指摘した人間が悪者になるだろ? 結局は誰が被害者で誰が加害者かは受け手側のリアクションに依存するんだよ。何をやったかじゃなく、どういう反応をしたか、の方が大衆にとっては大事なんだよ」

「確かに、受け手側の反応次第でその罪の重さが変わることってあるよね」

「まぁだからと言って、それが正しい指摘なのか明らかな加害なのかはやっぱり受け手の反応を除いて考える必要もあるんだけどな」


 水城は人差し指でトントンと腕を叩きながら、空を見る。


「だから私も、小田君に嫌なことをされてもへらへら笑うんじゃなくて、ちゃんとそれなりの反応をした方が良いよ、ってことだよね?」

「そういうことだな。自分のしていることが相手にどの程度の負担をかけているのかは分かりやすくしても良いかもしれないな」


 水城はうん、と一呼吸置く。


「ありがとう、赤石君! よく分かった!」


 水城は満面の笑みで、赤石に笑いかけた。

 赤石が水城に与えた、二本目の矢。受け手側のリアクションがその物事の重大さを決める、という視点。







 水城はうつむいたまま、席に座る。


「いや、本当に汚くてさぁ……」


 小田が周囲の人間に水城の不器用さを喧伝している最中、水城は自席にじっと座り、ぽろぽろと涙を流し始めた。


「え……」


 小田はぽろぽろと涙を流す水城を見て、途端に動きを止めた。


 


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