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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第12章 高校生活 こぼれ話篇
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第531話 小田泰弘はお好きですか? 2




 週も明け、授業が始まる。


「おはよう~」


 生徒たちはまばらに教室へとやって来た。


「……」


 赤石も例外ではなくいつもの様に教室に入り、いつもの様に席に座った。


「……」


 ペラペラと、国語の教科書のページをめくる。

 予習は嫌いではない。

 あらかじめある程度内容を知っていると、授業を受けている時の理解度が違う。


「ねね」


 赤石は国語の教科書に目を落とし、のんびりと過ごしていた。


「ねねね」


 近くから、小さな声がする。

 赤石は顔を上げた。


「あ、やっとこっち向いてくれた」


 顔を上げれば、赤石の隣に水城がいた。


「やぽやぽ」


 水城が手をグーパーして、赤石に挨拶する。


「あ、ああ……」


 唐突な水城の挨拶に、赤石は多少たじろぎながら挨拶を返す。


「変な効果音だな」

「放っといてよ」


 水城が笑う。


「何してるの?」


 水城は耳に髪をかけながら、赤石の教科書を見た。


「ちょっと間違い探しを」

「教科書は間違い探しの本じゃないよ!」


 も~、と水城はくすくすと笑う。


「誤字とかを探して指摘するための本だろ?」

「楽しみ方間違ってるよ!」


 水城は赤石の肩を叩いた。

 昨日と今日とで水城の急な性格の変更に、赤石はついていけない。


「でも、私も授業に集中できないこととかあるなぁ~」


 水城は自分の席からノートを持って来て、てこてこと赤石の下へとやって来た。


「ほら、これ」


 水城はノートの端に描いたキャラクターを赤石に見せる。


「しおりちゃんモンスター」

「モンスターではあるんだ」

「かわいいでしょ?」

「モンスターにしては」


 水城は授業中に描いたであろう落書きを赤石に見せる。


「お腹が減ったらご飯をおかゆにして食べる」

「モンスターにしては所帯じみすぎてるだろ」


 水城は腹を抱え、けたけたと笑った。


「あ~、お腹痛い。赤石くんと話してたら退屈しないね」

「それはどうも」

「また話しにくるね?」

「ああ……」


 水城はてこてこと自席へと戻った。


「何してるの?」


 水城は三矢の席へと向かった。


「なんや、いきなり!」

「失礼でござるよ、三矢殿」

「そないなこと言うたかて、誰でも言うやろ、こう」

「え~、ちょっと話しかけるくらい良いでしょ~?」


 水城は三矢、山本に話しかけに行った。


「ただのゲームや、ただのゲーム」

「なんてゲーム?」

「ウィッチ・クロニクルっつうゲームや。知らへんやろうけど」

「ウィチクロ!? 私もやってるよ~!」

「嘘吐け、ボケ!」

「ボケてはないでござるよ」


 水城は三矢、山本と親しく話す。


「ねね、今何してるの~?」


 次に、水城は八谷の下へと向かった。


「なんていうか、考え事してたわね……」


 八谷は呆然と外を眺めていた。


「今日の宿題とかやった?」

「あ、ヤバ!」


 八谷は慌ててノートを出した。


「大丈夫大丈夫、今日の午後提出だから。休み時間にやったらきっと間に合うよ」

「しおりん~……」


 八谷は涙目で水城を見る。


「やっぱり頼りになるのはしおりんだけよ!」


 八谷はキッと櫻井を睨みつける。


「あんなバカ男と違って、ね!」

「こらこら」


 あはは、と水城は八谷をなだめる。


「しおりん~、答え教えてほしいんだけどぉ~」


 八谷が上目遣いで水城に頼む。


「こ~ら、めっ! 宿題は自分でしないと賢くならないでしょ! それに、恭子ちゃんのためにもならないよ?」

「う~ん……」


 八谷はペンをくるくると回しながら水城から説教を受ける。


「ほら、手伝ってあげるから一緒に終わらせよ? そんなに難しい宿題でもないからさ」

「しおりん~」


 水城は八谷と共に課題に取り掛かった。


「……」


 赤石は遠くから、水城を見ていた。






「ということで」


 赤石はチョークを持った。

 水城から小田の執拗な誘いの相談をされた後、二人は空き教室で小田を封印する作戦を練っていた。


「今日は執拗に好意を見せてくる男への対処法を考えよう」

「はい、先生!」


 水城は席に座り、赤石は黒板の前にいた。


「でも、こういう風に誘われるのはお前の専売特許みたいなもんだろ? 俺みたいなやつが教えることも何もないと思うけどな」

「いやいや、赤石先生の方が詳しいですやん。もうこんなん私にはどうしようもないですやん」

「変な関西弁出たな」


 赤石は頭をかく。


「私、人間心理……? っていうか、そういうのとか疎くてさ。それに、あんまり人のことを疑ったり……っていうか、穿った目線って言うのかな? そういう目で人を見たことないからさ」

「微妙に悪口を言われてるか?」

「全然全然! そんなことないよ!」


 水城はぶんぶんと手を振る。


「赤石くんの考察には思わず舌を巻くところもあったし、ちゃんと納得できた。私の周りにいる人の中では、多分赤石くんが一番人心掌握に長けてるだろうな、と思って相談させていただきました」

「不名誉なレッテルだな」


 人間心理だとか人間観察が趣味だとか言ってるやつは大抵人から避けられるようにできてるけどな、と赤石は独り言つ。


「なんか赤石くんって、洗脳とか得意そうだし」

「もう直球の悪口だろ」

「全然全然! 悪口界では褒め言葉だよ!」

「なんだその、まずいけどまだ食べれる方、みたいな言い訳は」

「そんなこと思ってないよぉ~……」


 ペソペソ、と水城が泣いたフリをする。


「ペソペソするな」

「え~んえんえん」

「国の通貨で泣くな!」


 赤石は黒板にチョークで文字を書き始めた。


「やっぱり、相手に自分が好きでないことを分かってもらうのが一番簡単なんじゃないか?」


 赤石は相手に好意がないことを分かってもらう、と黒板に書いた。


「それが出来たら苦労ないんですよ」

「それもそうだな」

「何言っても全然折れてくれなくてね」

「なるほど」


 赤石はチョークを回しながら遊ぶ。


「やっぱり人間関係って落差なんだろうな。断ってても水城は元々が誰に対しても優しいから、小田にも優しく接してしまって、好意がないことがちゃんと伝わってないんだろうな」

「人間関係は、対応の落差?」

「まぁ」

「なるほど」


 水城はメモ帳にメモをする。


「今考えただけの言葉がメモされるの、気恥ずかしさがすごいな」

「勉強になります。私は小田君のことを断ってたけど、他の人と比べてまだ優しい断り方だったからあんまり伝わらなかったのかな?」

「だろうな」

「じゃあ、他の人にはずっと優しくてノリが良いのに、小田君が相手になった時だけしゅんとしたら、小田君も分かってくれたりするのかな?」

「端から見ててちょっと好感度落ちそうだけど、そういうことになるんじゃないか? 加えて、新しい小田が出てきそうな気もするが」

「なるほど……」


 赤石は水城に、他の人と明らかに対応を変えることを伝えた。







 そして実際、週が明け、水城は人が変わったかのように、

 あるいは、そもそもが人たらしで優しい水城ではあったが――

 水城はクラスメイト全員に優しくノリ良く調子良く、八方美人に愛想を振りまいた。


「なんか水城ちゃん、今日元気だね」

「いつも元気だけど、今日はいつもよりもっと元気だね」

「なんか小動物みたいでかわいい~」

「水城ちゃんマジ天使……」

「やば、俺今日百秒も喋っちゃったんだけど。新記録じゃね?」

「やっぱあいつ、俺のこと好きなんだ……」


 想定通り新しい小田が誕生しつつあったが、水城の人の良さと優しさはここで高止まりすることになった。





「うぃ~っす」


 そしてその日の昼食休み、件の小田が制服のボタンを雑に着こなしながら、水城の下に、やって来た。




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