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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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閑話 北秀院大学の事前説明会はお好きですか? 5



「まずはやっぱり時間のかかるお米から」


 船頭が率先して料理を始める。


「悠人、お米いい?」

「駄目って言ったらどうするんだ?」

「カレーうどんになる」

「それはそれでいいな」


 赤石は米びつを指さした。


「四合くらいでいいかな?」

「大食い系配信者いないよな?」

「いません」


 船頭は四合分の米を炊飯器の内釜に入れた。


「貴重な備蓄米だから慎重に取り扱ってくれよ」

「米騒動だ……!」


 船頭は水を入れ、米を研ぎ始めた。


「これ……」


 黒野が赤石に洗剤を手渡す。


「ありがとう、黒野。俺もちょっと喉乾いてたところなんだよ」

「ちがーーーーう!」


 洗剤を飲むフリをする赤石を、黒野が慌てて止める。


「野菜洗うから……」

「殺す気か」


 赤石は洗剤を置き直した。


「野菜に洗剤使わない?」

「使うか。アンチ無農薬野菜すぎるだろ」


 赤石たちは野菜を袋から出し、水で洗い始めた。


「統はじゃがいも洗う姿が似合ってるよな」

「へへ、そうだろ?」


 須田が鼻の下をこする。


「昔から芋洗わしたら日本一だったからな、俺っち」

「こんなに芋が似合う日本男児はいないよ」


 赤石たちは野菜の皮を剥く。

 米を洗い終えた船頭が赤石たちに合流する。


「ちょっと失礼」


 船頭が赤石の後ろを通る。


「もう、この家狭い~」

「仕方ないだろ、大学生の下宿先なんだから。そんな広い家にいたいなら金持ちの家の子の友達になりなさい!」

「ヤーダー!」


 船頭も野菜を剥き始めた。

 赤石、黒野、船頭が野菜の皮を剥き、須田が野菜を切り、鍋に放り込んでいく。

 器用に、かつ素早く手慣れた様子で具材を切る須田を見て、船頭が目を丸くする。


「須田ち、すごい料理上手くない?」


 船頭は須田の手捌きを見ながら、感心する。


「だろ? これでも国王御用達の宮廷料理人やってたからさ」

「料理漫画の主人公みたいな属性をつけるな。フランス留学から帰って来て地元のシャッター街を再生させる料理漫画の主人公じゃないんだよ」

「妙に細かい設定」


 黒野がぼそ、と呟く。


「居酒屋でバイトしてるだけだろ」

「え、須田ち居酒屋でバイトしてるんだ!?」

「そそそ」

「初耳~」

「ミーは居酒屋でバイトしてるザンス!」

「急ごしらえのフランスキャラ止めろ」


 はは、と須田が笑う。


「はぇ~。私って皆のこと知ってるようで、結構知らないんだねぇ~」


 船頭がぽかん、と口を開ける。


「なんか、こうやって皆で同じことしながら喋るのって楽しいね」


 にこにこと、船頭が赤石たちに笑顔を振りまく。


「喋りながらできるバイトとかあったら、人手不足のこの時代でも絶対人いっぱい来るのにな」

「本当それ」

「そんなの効率悪すぎて仕事進まないでしょ」


 お互いに雑談を楽しみながら、赤石たちはカレーの具材を用意した。


「よし、出来た」


 須田は最後の野菜を切り終え、鍋の中に入れた。


「次は炒めてから煮込みだね」


 船頭が具材を炒め始める。


「悠人、そっちあと何分?」

「あと五分で到着する! それまで持ちこたえてくれ!」

「いや、そうじゃなくてご飯炊きあがり」

「まだ十分はかかりそうだ」


 おおよそ料理の各工程が終わり、赤石たちは手すきになった。


「カレー寝かせたら美味しくなるから、子守歌お願い」

「子守歌で寝る料理食べづらいわ」


 船頭がカレーをぐつぐつと煮込み、しばらくの後、炊飯器から炊き上がりを知らせる音が鳴った。


「こっちもいけそう! 皆、ご飯盛って~?」

「盛ります盛ります、さらに盛ります」

「盛りすぎないで!」


 赤石は四人分のご飯を皿に盛り、黒野に渡した。

 黒野はご飯を机に置き、須田はスプーンとお茶、コップを用意する。


「完成~」


 船頭はふう、と額の汗を拭った。


「持って行くね~」

「重いから統に任せとけ」

「大丈夫大丈夫! こう見えても力あるから」


 船頭は力こぶを作る。


「カレー全こぼしエンドは嫌だぞ」

「持つ持つ」


 須田が腕をまくり、鍋を持った。


「じゃあ……ごめんね?」

「いいよいいよ」

「統貴なんてこういう時にしか役に立たないんだから」

「そうそう、俺はこういう時にしか役に立たないから……ってなんでだよ!」


 須田が典型的なノリ突っ込みを終え、カレーを机の上に置いた。


「というかこれ、普通にご飯盛ってカレーのルー掬いに行った方が良くない?」

「……」

「……」


 船頭の提案に、一同が押し黙る。


「よし、統。カレー元に戻せ」

「おい!」


 須田はカレーを卓上クッキングヒーターの上に戻した。


「はい、じゃあ皆並んで~」


 船頭がお玉でカレールーを掬い、赤石たちは順番になって並んだ。


「ありがとうねぇ」


 赤石は恭しく船頭にお辞儀する。


「そんな炊き出しじゃないんだから」

「米貴重だから……」

「悠人の家のお米だけどね」


 船頭は四人分のご飯にカレーを盛った。


「よし、じゃあ完成かな」


 赤石たち四人は、それぞれ机の周りに座った。


「じゃあ、いただきます」

「「「いただきます」」」


 船頭が食事の挨拶を言い、赤石たちがそれに続いた。


「美味しい~」


 カレーを頬張り、船頭はいの一番にそう言った。


「……美味しい」


 黒野もカレーを一口食べる。


「美味い美味い」

「カレーなんていつ食べても美味いからな」


 四人は黙々とカレーを食べる。


「なんか、団らんって感じだね」


 船頭は赤石たちを見回しながら、言う。


「こんなことなるなら、もっと人呼んでも良かったね」

「そうかもな」

「麦ちゃんとかすごい悔しがってるかも」

「写真撮って送りつけてやれ」

「あ、じゃあ良いかな? 食事中だけど」


 船頭はスマホを取り出し、内カメラで食事中の様子を撮影した。

 黒野は写真に撮られないように、後ろを向く。

 須田はカメラに向かってピースをし、赤石は黙々とカレーを食べていた。


「カレーなう」


 船頭は上麦にチャットする。


「今時そんなの使ってる奴いないぞ」

「位置情報付けて良い?」

「好きにしてくれ」


 船頭は上麦に食事中の写真を送り付けた。


「送ったよ~」


 船頭は食事に戻った。


「でさ、大学うちらどうする?」


 船頭はスプーンで赤石を指しながら、聞く。


「大学どうするか会議~!」


 パチパチ、と船頭は拍手した。


「やっぱ単位取る履修登録……? とかは皆でやっておきたいよな」

「ね~。失敗したら全部パーだもんね」

「奨学金……」

「あ、奨学金とかもあるねぇ」

「食堂とか皆で行かね?」

「須田ち良いこと言う~!」


 赤石たちは大学に入ってからやりたいことを口々に呟いた。

 そうしてしばらくの間雑談しているうちに、ピンポンピンポンピンポン、とインターホンが鳴らされる。


「来たかも」


 船頭が立ち上がり、ドアに向かっていった。


「俺が家主だぞ」


 赤石も扉へと向かう。

 ドアスコープを覗き込むと、そこには大慌てで息を切らした上麦がいた。


「赤石、カレー、ずるい……」


 ドアを開けると、そこには肩で息をする上麦がいた。


「白波、カレー、食べる」


 上麦はずかずかと赤石の家に入り込む。


「悪いな、上麦。このカレーは四人用なんだ」

「カレーにそんなのない!」


 赤石は上麦の分の米をよそい、カレーをよそった。


「俺たちが何時間も苦労してカレーを作ったのに、お前は食べるだけなんだな」

「白波、食べる係」

「働かざる者食うべからず」


 黒野が恨めしそうな目で上麦を見る。


「お前は人のこと言えないだろ」

「カレー、美味しい」


 上麦が船頭の隣に座った。


「いやぁ、楽しくなってきたなぁ」

「静かに食べてくれよ」

「大学の作戦会議もこれで盛り上がるぞ~!」


 赤石たちはカレーを食べながら、大学の作戦会議をしていた。




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― 新着の感想 ―
Ya○oo知恵袋でラブコメとしてオススメされててここまで追いついたけどあんまりキュンキュンした記憶がない泣。でも面白かった
団らんって凄く好き、このメンツで大学生活を送ってください
上麦の「赤石またカレー食べよう」が回収された。 あとカレーに子守唄は面白くて好き。
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