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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第51話 葉月冬華はお好きですか? 3

9月26日(火)高梨がご飯を取ってくるシーンが抜けてたので、追記しました。



 須田と話し合っている高梨を尻目に、赤石は黙々と昼食を食べていた。


「じゃあ、私は取り敢えず昼食を頼むことにするわ。あなた達は二人で寂しく食べておきなさい」

「いや、高梨それ俺らがいっつも寂しく食ってるみたいじゃねぇか!」

「ふふふ」    


 須田の反駁もそこそこに聞き流し、高梨は注文に行った。


 赤石は須田と漫然と話しながら、食事をとる。


 丁度高梨が料理を受け取り、赤石の右隣の席に座った時、食堂に三人組の女子が入って来た。


「…………」

「葉月さん、どこに座るか決めたの?」

「う~ん、どこでもいいかなぁ~」


 それは、櫻井の取り巻きの三人だった。


 八谷、新井、そしてもう一人、葉月。


 葉月冬華。

 パッチリとした目元と、あざとすぎるまでの女子らしい行動をする、ツインテールの女。スカートは必要以上に短く、制服を淫らに着こなす。そのためガードが緩く、下着が服の隙間から少しずつ見えている。


 そのガードの緩さと作り上げたような女の子らしさから、校内でも色のこもった目で見る男子生徒は、随一だと言われている。


 

「じゃあここにしよぉよぉ~?」

「そ…………そうね」

「…………」


 葉月は赤石たちから離れた遠く斜向かいの席に腰を下ろした。


 まさか……。


 赤石は隣の席の高梨を見る。


 まさか、櫻井の取り巻き達が食堂に来ることを知ってここで食事をとることを提案したのか? 


 何のために。


 赤石は高梨の瞳の奥を伺うが、高梨はうっすらと赤石に微笑み返す。その微笑みが、妙に怖かった。


「じゃあご飯頼みに行くぅ~?」

「そ…………そうね、聡助もすぐ来るって言ってたわよね」

「…………」


 葉月は八谷と新井を連れ、食堂へと向かった。


 櫻井が来るのにも関わらず、自分たちと一緒に食事をしている所が見られても良いのか……? 

 行動に全く統一感のない高梨に、胡乱な視線を送らざるを得なかった。

 一体、こいつは何がしたいのか。


 八谷たちは料理を受け取り、先程の席に戻った。


「じゃあ櫻井君待とっかぁ~?」

「そ…………そうね」

「…………」


 料理を眼前に置いた八谷たちは、そこで押し黙った。

 

「……」

「……」

「……」


 三者三様が黙り込み、一切会話がない。櫻井がいる時は間断なく喋っている三人が、全く喋らない。

 互いが互いを忌み嫌っているかのように、全く会話をしない。


 赤石は須田に話半分で相槌を打ちながら、目を向ける。


「……あ」


 八谷と、目が合った。

 赤石は即座に目を逸らす。


「……」

「あら、どうしたの赤石君?」

「…………いや、別に……」


 目を逸らしたことで高梨と目が合った。

 高梨は不思議そうな顔をして赤石に質問した。


「私の顔に見とれるのは自由だけど、ご飯中は謹んで欲しいわね」

「いや、違う…………」


 あながち完全に間違いとも言えなかったので、はっきりとは否定できなかった。


 赤石はゆっくりと、八谷に再度顔を向けた。

 八谷は、既にご飯に目を落としていた。

 

 不審なほどに一心に料理を見つめ、まるで他の何かと目が合わないようにしているかのように、ただただ一心不乱に料理を見つめいた。


「…………」

「…………」

「…………」


 八谷たちは、一切話さない。

 何一つとして話さない。一言たりとも言葉を発しない。新井はまだ、会話すらしていなかった。


 須田は、先程から延々と喋っている。壊れたラジオか、と適当な突っ込みを入れるも、やはり意識は八谷に削がれていた。


 何故取り巻き達は一切喋ろうとしないのか。


 新井は手鏡を見ながら自分の髪を直し、八谷はただひたすらに料理を見つめている。葉月は料理を写真で撮ってからは、ずっとスマホを使用していた。


「…………」

「…………」

「…………」


 誰も、喋らない。口すら動かさない。

 まるで全員が他人であるかのように、誰一人として口を開かない。

 

 なんて…………。


 なんて、歪な関係なんだ。

 合わないねじを締めているかのような、そんな歪な関係。


 櫻井がいなければそこに一切の友誼も何もない、歪すぎる関係。


 もしかして高梨はこの光景を見せたいがためにここで食事をすることを提案したのか。


「んっ、ちょっとトイレ行ってくる悠、高梨」

「あら、良いわよ」

「分かった」


 須田が立ち上がり、トイレへと向かった。

 赤石は味覚もなく、義務のように食事をする。

 

 三分の一ほど食べ終わったところで、高梨がスマホを横滑りさせて来た。


「…………?」

「私のスマホよ」


 頭に大量の疑問符を浮かべながら高梨を見ると、高梨は嫣然と微笑んでいた。

 赤石はスマホを取って、高梨の前に置く。


「違うわよ」


 赤石が戻したスマホを、高梨は再度横滑りさせ、赤石の眼前に持って行った。


「見ろってことか?」

「そうよ」


 高梨のプライバシーに関わるかもしれない、と画面を見なかった。

 

 赤石は高梨のスマホを取り、画面を見た。




初冬


 今日は久しぶりに、いつめんで食堂やって来たーー!まだ聡助君が来てないけど、凄い盛り上がってる(笑)(笑)

 嬉しいーーー!皆、ありがとー!早くご飯食べたいなぁ~

(画像を表示するにはここをタップ)




「…………」


 赤石は無言で画像を表示した。

 そこには、三人分の料理が撮られた写真があった。


「…………」


 光が消えた、無感情の目で赤石は画面を見る。


 凄い盛り上がってる? 

 いつめん?

 

 画面に並んだ無機質で、何の意味もない言葉の羅列に、吐き気がする。

 一言も会話を発していない連中といることが盛り上がっている?


 ちゃんちゃらおかしい。


 苦虫を噛み潰したような表情をこらえきれず、部分的に顔に出る。

 高梨はそんな赤石の表情の見ると、声をかけた。


「赤石君、返して頂戴」

「…………あ、ああ」


 赤石は高梨にスマホを返した。


「ねぇ赤石君、私訊きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「…………ああ」


 高梨は感情の読み取れない表情で、声をかけて来た。


 もしかして……。


 高梨の心の底を、覗き見る。


 もしかして、高梨はこの櫻井の取り巻き達の異常すぎる関係性を見せようとしてきたのか? それを見せつけるためにスマホを見せてきたのか。


 何の友誼も芽生えていない取り巻き。

 その関係性だけを利用しようとする葉月。

 櫻井が来るまでに髪型を整え、他の取り巻きに一切の興味を示さない新井。

 その取り巻きに囲まれ、縮こまる八谷。


 そんな取り巻きたちをどう思うか。


 高梨は、そんな風に疑問を呈しているんじゃないのか。

 

 少なくとも、この予想は高梨の意図することと遠く離れていないと、そう確信した。


 高梨は口を開いた。


「この『いつめん』って何かしら?」

「…………」

 

 そんなことが訊きたいのか。

 そんなことが訊きたいわけじゃないだろう。


 八谷たちは全く喋ってもいないのに盛り上がってる、と他者に自分が幸福であるかのように見せつけるこんな示威行為をどう思うか。


 あいつら取り巻きをどう思うか。


 そうだろう。

 お前は、そう言いたいんだろう。


 葉月は八谷たちに一切興味を持っていないのにも関わらず、こんな風に自分が幸せであると、アピールするような投稿をする葉月をどう思うか、そう訊きたいんだろう。


 白々しい。


 高梨は葉月が嫌いなのか?

 それを俺に教えてどうする。

 仲間になって葉月を追い出そう、そう言いたいのか?

 そんなことは嫌だ。いくら葉月が表面上の関係だけを重視していたとしても、俺はそんなことはしたくない。


 そういった感情を湛え、赤石は高梨を睨みつける。


「赤石君、怖い顔になってるわよ。笑顔になりなさい」


 高梨が赤石の顔を触り、口端を引き上げようとするが、手を払いのける。


「いつめんってのはいつものメンバーってことだ。遊ぶためによく集まる友達のグループ、それをいつめんって言うんだよ」


 気分が悪そうに、赤石は吐き捨てるように言った。

 それは高梨に対する悪感情か、葉月に対する悪感情か。


 高梨に対してひどく嫌な気分になったのにも関わらず、それでも高梨を批判しきれない自分に、嫌気がさした。

 葉月が気に入らないんだろう? とは訊くことが出来なかった。


 一度生まれた好意は、簡単には消え去らない。

 どれだけ高梨が悪人になったとしても、今後高梨を完全に否定することは出来ないのかもしれない。


 赤石は、そう思った。




第9話の初冬本人です。

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