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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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閑話 北秀院大学の事前説明会はお好きですか? 2



「以上で、北秀院大学の事前説明会を終わります」


 担当者が壇上での説明を終え、降壇した。


「お疲れ~」

「お疲れ様~」

「長かったね~」

「よく分かんなかった」


 参加者たちは口々に感想を言い合いながら、散り散りに分かれていく。

 北秀院大学への入学を前にして、参加者は皆一様に、緊張と期待とを内包したような表情をしていた。


「はぇ~」


 船頭はぽかん、とした顔で呆けていた。


「今の説明会、意味分かった?」

「部分的にそう」

「部分的にそう、じゃなくて」


 船頭がノートに書き記した、ぐちゃぐちゃの文字を見返す。


「汚いノートだな」

「汚くても分かればよろし」

「もっと綺麗に書けよ」


 そう言う赤石のメモも、それなりに乱雑だった。


「悠人も全然人のこと言えないじゃん」

「自分のことを棚に上げて人のことをこき下ろす。俺はそういう人間だ」

「最悪じゃん」


 赤石と船頭がわあわあと言い争いをしている所で、赤石の頭がポンポン、と触られる。

 赤石が振り返ると、不機嫌そうな表情をした暮石が、立っていた。


「いつまで馬鹿なことやってんの?」


 暮石が頬を膨らませながら、赤石を見る。


「好きなことで、生きていく」

「配信者じゃないんだから」


 暮石は苦笑する。


「私これからちょっと用事あるから、今日は帰るね?」


 暮石は赤石たちに向けて、そう言った。


「そうか。お疲れ」

「うん、またね赤石君」

「ああ」


 暮石は赤石に小さく手を振る。


「お待たせ~」


 遅れて、三田がやって来る。


「みーちゃん、ヤニタケとかとすぐ合流する?」

「ううん、ちょっと寄りたいところあるから」

「まだもう少し喋っとく?」


 三田が暮石の肩越しに、赤石をちら、と瞥見する。


「大丈夫、もうそろそろ行くからちょっとだけ待ってて?」

「おっけ~。かずくんとか心配しちゃうんじゃない?」

「なんでそこでかずくんの話が出るの~」


 ははは、と暮石が笑った。

 赤石は暮石の人間関係を知らないため、ただ聞いているしかなかった。


 恋人というのは、相手の行動を縛ってはいけないのだろうか。

 赤石は胸中に沸いたざわめきを、押しとどめる。


「あ、じゃあ私もう行くね。またね」

「ああ」

「あ、またね~」


 暮石は赤石たちに軽く挨拶をして、そのまま三田を連れて出て行った。


「……」


 一体、誰とどこに行く予定だったのか。

 赤石は暮石の行動を訝しむしか、なかった。


「悠人」

「ん」


 見れば、後方で船頭と須田が立ち上がっていた。


「いつまで座ってんの。早く立ちなよ」


 暮石に気を取られ、赤石は座ったままでいた。


「顔が濡れて力が出ない」

「水もしたたるなんとやら、ってやつでしょ」

「それもそうか」


 赤石はゆっくりと、立ち上がった。


「ほら、お前もさっさと起きろ黒野」


 赤石の隣で、黒野は机につんのめったまま動かずにいた。


「死体ごっこ」

「死体ごっこだかひなたぼっこだか知らないけど、早く起きろよ」

「やーだーーー! 私はここで死ぬーー!」


 黒野が立ち上がることを拒否する。


「こいつはここに置いて行こう」


 赤石は黒野を見捨て、先を急いだ。


「置いてくの!?」

「もうこいつは駄目だ。足手まといを連れてこの先を進むことは出来ない。ここにこいつを置いて行くのが、一番の得策なんだ……」

「起きて! 置いてかれちゃうよ!」


 船頭が黒野を必死に揺さぶる。


「黙れギャル。私はお前みたいなちゃらちゃらした女が、一番嫌いだ」

「……っ!」


 船頭がダメージを負ったような表情を作る。


「悠人~」


 船頭が赤石に泣きつく。


「女が泣くな!」

「女の子の人生ハードモードすぎるでしょ」

「女が泣いて良いのは、好きなテレビの録画に失敗した時と、買った商品が翌週に大幅に値引きされてた時だけだ!」

「そこそこ悲しいやつじゃん」


 船頭は寂しげな表情で黒野を見た。


「まぁ黒野はこういうやつだから」


 赤石は黒野の側に立つ。


「なんか悠人って、黒野ちゃんにだけ甘くない?」

「人を変えることは出来ないから、自分が適合するしかないんだよ、この世界は」

「悠人って、人によって露骨に態度変えるよね」

「そんなことないだろ」

「黒野ちゃんもそうだし、麦ちゃんにもそうだし」


 なのに私には厳しいし、と船頭は不満げに言う。


「自分に似てる生き物を無意識に優遇してしまう。人間にはそういう習性が、あるのかもしれませんね」

「そんな動物番組のドキュメンタリーみたいな距離感で言っても駄目」


 船頭は赤石を睨みつける。


「はぁ……」


 黒野がため息を吐いた。


「分かったよ。立てばいいんでしょ。私が立てば解決するんでしょ」


 黒野はぬら、と立ち上がった。


「黒野が立った……!」

「語感もちょっと似てるから」


 黒野は眼前でしっし、と手を振る。


「どこか行くのか?」


 傍で静観していた須田が、口を開いた。


「ご飯……」

「まだ早いだろ」


 時刻は十七時、夕食にしては、少し早かった。


「あ!」


 船頭が膝を打った。


「今からさ! 今からさ! 作戦会議やんない、皆でさ!」


 船頭がいかにも名案を思いついた、とばかりの表情で赤石たちに話しかける。


「何の?」


 黒野が嫌そうな表情で聞く。


「大学の作戦会議! 単位とか履修とかよく分かんないこと言われたから、皆で今から大学攻略の作戦会議しようよ! ちょうど集まってることだしさ!」


 船頭は須田、赤石、黒野を集めて、円になって話す。


「ふん、くだらん。言うに事欠いて攻略会議だぁ? そんなもんは格下のゴミ共が集まってやってりゃいいんだよ。俺はごめんだね。こんなエナジーボアも一人で討伐も出来ない三下の雑魚共と一緒になってボス討伐だなんて、吐き気がするよ。俺はソロで行かせてもらう」


 赤石はどか、と椅子に座って、足を組み、そう言った。


「ゲームの世界に閉じ込められたプレイヤーが集まって、ボス討伐の攻略会議を開いてるわけじゃない……」


 黒野がボソ、と呟いた。


「そう言わずにさ、ほら、皆で大学受かったんだからさ、協力しあおうよ~」


 船頭が手をこすりながら、赤石に聞く。


「協力って言っても、どこに集まるんだ?」


 須田が不思議そうな顔で聞く。


「それはもう……」


 船頭が赤石を見た。

 須田、黒野も赤石を見る。


「……」


 赤石は後ろを振り返った。


「悠人のお家に集まって、作戦会議をしましょう!」


 船頭は人差し指を立て、そう宣言した。


「いや、事務所から自宅ロケはエヌジーが出てて……」


 赤石はそそくさと帰ろうとする。


「はい、決定~。今から悠人のお家で大学の作戦会議することに決定~」


 船頭が赤石のカバンを掴み、捕まえる。


「何故だ、歩いているのに動かない……」

「そんないにしえのボケ良いから」


 赤石は船頭にカバンを掴まれながら、その場でウォーキングをする。


「俺が良い、って言ってないのに勝手に決めるなよ」

「悠人は自分から動かないから、私たちみたいなのが無理矢理にでも誘った方が喜ぶ、って私知ってるから」

「えぇ……」


 船頭は自信満々に胸を張る。


「じゃあ今から悠人のお家行って、ご飯作るのと一緒に作戦会議しよ!」

「いいね!」


 須田が親指を立てる。


「黒野ちゃんも来るよね!?」

「わ、私は……」


 黒野はおろおろと視線をさまよわせる。

 須田がいるのに、自分が帯同してしまっていいのか。

 黒野は須田を瞥見する。


「黒野ちゃんも来ること決定~! さ、今から皆でスーパー行こ! 何作るか考えながらお店回るのも楽しいよ~!」


 お~、と船頭は手を上げ、赤石たちを率いて歩き出した。


「魔王を討伐する勇者パーティーとかも、案外こんな感じで結成されてたりするのかもな」

「でも案外、私らみたいな自分から動けない人は半ば強引なのが良かったりもするかも……」

「お前にしては珍しく前向きな」


 赤石たちは船頭に率いられるがまま、近くのスーパーへと向かった。




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― 新着の感想 ―
船頭が王道的なヒロインムーブしていて可愛い。
暮石のムーブにハラハラさせられるけど赤石の周りにも女が多いから今後の展開が全然わからないのが良い
暮石的に線引きしてる感はあるが 赤石が許容するかどうか、もし飲み屋街で ばったり遭遇したら一気に冷え込むわ 暮石は赤石に責任転嫁して責めそう 普通さ付き合った相手放っぱらうのさ ヤバない?ほぼ付き…
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