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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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閑話 北秀院大学の事前説明会はお好きですか? 1



 高梨を送り終えた赤石たちは、駅で管を巻いていた。


「ねねね、みんなみんな!」


 は~い、と船頭が手を上げた。


「北秀院大学経済再生担当大臣、船頭ゆかりくん」

「国会みたいな呼び方」


 船頭が目を細める。


「今日大学の説明会あるって知ってる?」

「……」

「……」


 赤石と須田が小首をかしげる。


「あ、ごめんね、白波ちゃんには関係ないんだけど」

「……がーん!」


 上麦はがっくりとうなだれる。


「今日、北秀院大学の事前説明会があるんだって」

「へ~」


 赤石はスマホで調べ始めた。


「なんか何日かに分けて開催するらしいんだけど、折角ここで集まったことだし、皆で参加しない?」


 赤石と須田が顔を見合わせる。


「まぁ別に良いけど……」

「やった!」


 船頭がパン、と手を合わせる。


「白波は……?」


 上麦が目をうるうるとさせながら赤石たちに聞く。


「お前はこの地区のマンホールの数でも調べてろ」

「どんな研究させるつもりだよ!」


 須田がビシ、と赤石の肩を叩く。


「ご飯でも食べてから解散するか」

「あ、それいいね! 皆でご飯食べてから解散ってことで。白波ちゃんご飯行く?」

「肉!」

「行く、みたいに」


 赤石たちは北秀院大学の事前説明会に出席することにした。







「ここらへん?」

「え、どこだろう……」

「ここ……?」


 上麦との食事を終え、赤石たちは北秀院大学の事前説明会に来ていた。

 事前説明会では多くの北秀院大生たちが、不安げな表情で周囲をうろちょろしていた。


「着いたね」

「ああ」


 赤石たちは講義室の左端前方に固まって座った。

 須田、船頭、赤石、黒野の順で席に座る。


「端、へへ」


 黒野が壁に挟まれ、嬉しそうに笑う。


「端の席って良いよな。交代してくれよ」

「無理」


 黒野が席に突っ伏す。


「北秀院大学事前説明会まであと十五分で~す!」


 紫色の上着を羽織った女が、教壇に立って大声を上げた。


「大学にもなると、学生でも人の前に立てるんだな」


 大学生と思しき女を見て、赤石がそう呟いた。


「絶対やりたくない」

「同感だよ」


 黒野と赤石は苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「え~、私楽しそうだしやりたいな~」


 赤石の隣で船頭が目をキラキラとさせながら言う。


「お前はやりそうだな」

「俺もやりたいかも」

「お前もやりそうだな」


 黒野、赤石とは打って変わって、船頭と須田は好意的な反応を見せる。


「やはり私たち陰の人間とは別の次元で生きてるんだ……」


 黒野は恨めしそうな目で船頭を見る。


「悠人もなんだかんだ言って、誘ったら多分一緒にやってくれると思うよ」

「俺はあんなに声を張れないな。俺が張れるのなんて、意地と命くらいだ」

「戦士じゃん」


 船頭はパチパチ、と小さく拍手する。


「でも悠人、結構人前で芝居するのとか得意だし、ああいうの出来ると思うよ」

「俺もそう思う」


 須田と船頭が赤石を見る。


「人間は皆芝居して生きてるもんだからな。ペルソナってやつだよ。友達の前の自分、家族の前の自分、恋人の前の自分、他人の前の自分、全部違って、全部そいつなんだよ。どの仮面を被ってどういう人格を運転するかは本人次第。それを意図的に出来るかどうかの違いだろ」

「何言ってるか分かんない」

「はぁ~」


 須田は頬杖をついたまま、ぽけ~、と話を聞く。


「呆けた顔しやがって」


 赤石が須田を背中を叩く。


「シャキッとしろ、統貴」

「それお婆ちゃんにもよく言われるんだよな」


 須田がピシ、と背筋を伸ばした。


「私も叩いて?」

「歯を食いしばれ」

「ビンタじゃん!」


 や~、と船頭が赤石から離れようとする。


「赤石、暴力的……」


 黒野も赤石から距離を取る。


「おいおい、これくらいでビビってもらっちゃ困るぜ。暴力なんて、最も原始的で最も効率の良いコミュニケーションじゃないか。俺たち動物は暴力を通してお互いに理解を深めてきたんだ。さぁ、お前たち、俺の前に並べ」

「昭和の顧問みたい」

「今から俺は、お前たちを殴る!」

「猿!」

「猿!」


 黒野と船頭が口々に赤石を詰る。


「好きなように言ってくれ……。それでお前たちの気が少しでも晴れるなら……」

「急に被害者面しだすじゃん」


 船頭と黒野は元の位置に戻った。

 赤石が雑談をしている途中、トン、と背中に手が触れられた。


「やっほ」


 赤石が後方を振り返ると、暮石が目を細めて、に、と笑いかけていた。

 暮石は赤石たちの後方の席に、座っていた。


「お前か」


 赤石は暮石の突然の登場に、ドキ、とする。


「ドキドキした?」


 暮石は挑発的な笑顔で、赤石に言う。

 赤石にしか通じない、冗談を。

 二人が交際をしていることは、誰も知らない。


「ドキドキしたよ。怒るに気持ちの気、でな」

「なにそれ、も~」


 暮石はけらけらと笑う。


「あぁ~、暮石ちゃんやっほ~」


 船頭が暮石に手を上げる。


「いぇ~」


 暮石は船頭とハイタッチをする。


「何なの~、皆揃ってさぁ~? 皆で事前説明会来るなら言ってくれたら私もついて来たのに~!」


 私だけ仲間外れなの、と暮石は頬を膨らませる。


「いや、たまたまたまたま! たまたま私たち揃ったから事前説明会来ようね、ってなって」


 船頭が暮石に余計な気を遣わせないように、状況を説明する。


「お前も俺たち放って来てるだろ」

「まぁ、こっちはこっちで偶然そういう流れになった、っていうか」


 暮石の隣で静かに話を聞いている女が、いた。


「あ、この子は釜井恵美ちゃん、って言って」


 赤石は大体の事情を把握する。


「あ、こっちは須田統貴君。水泳部で賞取ってたり、身長高くて格好良くてすごいモテるんだよね」

「バレンタインデーはトラック三個分くらい学校にやって来て、本当大変だったんだよな」

「イケメン俳優かよ」


 暮石が釜井に説明をしている中、赤石が茶々を入れる。


「で、こっちが船頭ゆかりちゃん。お洒落で可愛くて、尊敬してるんだ~」

「チャオ!」

「平成のギャル男の挨拶止めろ」


 目をパチパチとさせながら、船頭が釜井にウィンクをする。


「で、こっちが」

「俺は浄堂新一朗。キャピタルスタッシュ芸能社が絶賛売り出し中の若手俳優だ。よろしくな」

「嘘挨拶ハマってるの?」


 赤石が右手を差し出す。船頭は半眼で赤石を見る。


「あなたが浄堂新一朗さん!? 会いたかったんですぅ~」


 暮石は赤石の右手を掴み、握手した。


「で、こっちが黒野ちゃん。独特な視点から人のことを見てて、ハッとさせられることが多いんだ」


 赤石は暮石の適当な説明で流される。


「よろしく……」


 釜井は消え入りそうな声で、赤石たちに挨拶をした。


「ちょっとごめんね~」


 釜井と赤石たちの挨拶中に、暮石の背後を一人の女が通る。


「あ、こっちは三田ちゃん」

「おっすおっす」


 三田は暮石の左隣の席に座った。


「おっすおっす」


 三田は前の席にいる黒野に手を差し出した。


「……」


 黒野は不服そうに握手をする。


「赤石」

「はい」


 三田は右斜め前に座る赤石に向かって、人差し指を向けた。


「宇宙人か何かだと思われてる?」


 赤石は渋々ながら、三田と人差し指を合わせる。


「こちら、皆の三田ちゃん」

「そんなパブリック性ないだろ」

「おっすおっす」

「会話用の言語少なすぎだろ」


 船頭は席を外し、三田と握手した。


「卒業旅行で会った人だよね?」


 船頭が三田に質問する。


「おっすおっす」

「おっすおっす」

「おっすおっす」

「おっすおっす」

「共鳴してる……」


 船頭と三田は、言葉を通じてお互いの意思疎通を図った。


「良い子だね、三田ちゃん」

「何が分かったんだよ」


 船頭は自席に戻った。


「ほら、鳥とかも鳴き声は一緒だけど声の高低とかリズムとかで意思疎通してるっていうし」

「鳥レベルの意思疎通が行われたのかよ」

「おっすおっす」


 赤石たちは、暮石を介してあまり顔なじみのない三田とやり取りを交わした。



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― 新着の感想 ―
くれ石は釜井に赤石を紹介しなかったのは、自分と赤石が親しいことを見せたくなかったからなのか、それとも何かを恐れていたからなのか。 釜井はオフ会でくれ石に彼氏がいないことも知ってしまった。これは困った。…
「中学編書くって言ってなかった?」
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