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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第520話 新入生のオフ会はお好きですか? 4



「うぃ、みーちゃん」

「ひゃっ!」


 カラオケボックスで小山田が歌っている最中、斉藤が暮石の隣に座った。

 スマホを見ていた暮石は唐突な接触に、思わず声を上げる。


「なに、そんなかわいい声して」

「かわいい声はいつも通り」

「ははっ」


 斉藤は額に手を当て、くくく、と笑う。


「飲み物取り行かね?」


 見れば、机の上の飲み物は空になっていた。


「やっぱ歌うと喉乾くね」

「な~」


 暮石たちはカラオケボックスに入るにあたり、ドリンクバーを頼んでいる。


「じゃ、行くか」

「おっけ~」


 斉藤は暮石を連れ、カラオケボックスの部屋を出た。


「どうしようもないくら~いに、あぁ~、夏は過ぎて」


 他のカラオケボックスの部屋から声が漏れ聞こえてくる。


「皆楽しそうだね~」


 暮石は漏れ聞こえてくる歌を楽しみながら、小刻みに踊る。


「みーちゃんはそんな歌上手くないよな」

「心外~」


 むぅ、と暮石は頬を膨らませる。


「ははは、冗談冗談」

「面白くない~!」


 二人は階段を下りる。


「階段狭いから危ないぞ。気を付けて」

「ご心配ありがとざます」


 二人は一階のドリンクバーへとやって来た。


「何飲む?」

「お茶~」

「いやいや、ドリンクバーでお茶って」


 くくく、と斉藤が笑う。


「みーちゃん、本当ギャグセン高いわ~」

「お茶くらい普通だよ~」


 暮石はドリンクバーからお茶を注ぐ。


「でもドリンクバーばっか使ってたら正直他の物も飲みたくならん?」

「それは分かるけど」

「自販機あるから、自販機で買おうぜ」

「えぇ~。ドリンクバーあるからいいよ~」

「大丈夫大丈夫、奢るから」

「なら行こっかな」

「現金だなぁ~」


 斉藤は暮石を連れて、店の裏手に設置してある自販機へと向かった。


「ヤニタケ、あの図体で美声なの本当ずるいよな」

「分かる~」


 カラオケボックスにいるであろう小山田の話題で、二人は雑談話に花を咲かせる。


「どれ飲む?」

「このナタデココ入りのやつ、じゃあ買ってもらおうかな~?」

「おっけおっけ」


 斉藤は暮石の指定したナタデココ入りのジュースを買い、暮石に投げてよこした。


「俺はこれにするか」


 斉藤は炭酸入りのジュースを買う。


「こういう系のって自販機にしか売ってないんだよね~」


 暮石は缶を振り、ナタデココ入りのジュースを開けた。


「な~」


 斉藤も缶を振り、炭酸入りのジュースを開けた。


「うわっ!」


 炭酸が勢いよく吹き出し、斉藤の服にジュースがかかる。


「あはははははは、あはははははは!」


 暮石が腹を抱えて笑った。


「お前ぇ~~~!」

「私悪くないのに!」


 斉藤がジュース缶を持ったまま、暮石を追い回した。


「あはははは、あははははは」


 二人はある程度走り、落ち着いた。


「はぁ~、面白かった」


 暮石は目頭を拭う。


「うっせ、ボケ」


 斉藤は暮石に悪態をつきながら、ジュースの缶を持ち上げた。


「じゃ、乾杯」

「乾杯」


 斉藤と暮石はジュース缶をこつん、と合わせた。


「本当笑う」


 暮石は笑いながら、ジュースを口にする。


「今日一で笑ったかも」

「笑わそうとしてたんじゃないから」

「良いじゃん、笑ったんだから」


 暮石たちはカラオケ店の裏手で、二人ジュースを飲む。


「大学楽しみだなぁ~」


 斉藤はジュースを飲みながら、いずれ来る大学生活を楽しみにしていた。


「ねぇ~」


 二人は夜空を見上げながら語る。


「星好きだなぁ~」


 暮石は夜空に浮かぶ星空を眺めた。

 北海道で見たそれより遥かに劣るものではあるが、それでも空は、美しかった。

 人工の光が、夜空に眩く光る星を覆い隠してしまう。

 小さな光がキラキラと点在している。


「星好きなんだ? なに、浸ってる系?」


 斉藤がせせら笑う。


「そんなじゃない~」


 暮石が足をぷらぷらとさせる。


「誰の趣味? お前の?」

「なんで分かったの? 友達の趣味かなぁ」

「また男か」

「高校生なんだから同級生に男も女もいるよ~」

「本当モテるよな、お前」

「全然」


 暮石は首を振る。


「顔かわいいし」

「私のクラスには私よりかわいい子が五人、六人といたのさ」

「顔面偏差値高いクラスうらやま~。俺のところブスばっかだったわ」


 斉藤はスマホをいじりながら、暮石と雑談を交わす。


「はぁ……」


 暮石はジュースの缶に口を付けた。


「何見てんの?」


 暮石が斉藤のスマホに視線を寄せる。


「ん~、普通に返信返してるだけ」

「女か」

「うっせ。放っとけ」


 斉藤はスマホを閉じた。


「なぁ」

「ん~?」


 斉藤が神妙な面持ちで、暮石に話しかける。


「今から二人で抜け出さね?」

「……え」


 斉藤はくい、と顎でカラオケ店の外を示した。


「てかさ、みーちゃん今から俺ん家来ねぇ?」


 俺ん家ここから近いからさ、と斉藤は付け加える。


「……」


 暮石は斉藤の提案を受け、そして静かに、口を開く。


「いや、それはダメだよ~」


 暮石は両手を振る。


「なんでなんで!?」


 斉藤が身を乗り出す。


「だって、私これでも女の子なんだも~ん。かずくんのお家に入ったが最後、何されるか分かったもんじゃないもん」

「いやいやいや、全然全然! そんなことしないから!」

「駄目です~。女の子はそんな不用心なことしないんです~」

「先っちょだけ、先っちょだけだから!」

「ほら、正体表した!」


 暮石はからからと笑う。


「絶対手とか出さないから! 本当だから!」

「だ~め。男の子の家に二人なんて危ないから行きません~」

「え~、どうしても?」

「どうしても」


 暮石はツン、と断った。


「さ、もう戻るよ。ヤニタケの歌そろそろ聞きなおしたいし」

「じゃあ、今回はなしってことで」

「そ。今回はなし!」


 暮石は飲み終わった缶ジュースをゴミ箱の中に入れ、ドリンクバーへ戻った。


「誰かに飲まれてないかな?」

「お茶なんか飲む奴いねぇだろ」


 暮石はドリンクバーの近くに放っておいたコップを手に取った。


「よ~し、後半戦も歌うぞ~!」


 麦茶の入ったコップを手に持ちながら、暮石はカラオケボックスへと戻った。







 一時三十二分、依然として暮石からの連絡はなかった。


「遅い……」


 赤石は眠たげな目をこすりながら、暮石からの連絡を待っていた。

 暫くして、ピコン、とスマホの通知音が鳴る。

 暮石から、電話が来た。


「やっとか」


 赤石は暮石からの電話を取った。


「もしも~し」


 暮石の声が、聞こえた。


「もしもし」

「ダーリン?」

「ああ」

「ごめんね~、遅くなって。なんか予想外に盛り上がっちゃってさ」

「そうか」


 赤石はベッドで布団にくるまりながら、暮石と会話をする。


「今どこにいるんだ?」

「今、タクシーの中」

「タクシーの中で電話してるのかよ、お前」

「そうそう」


 暮石はあくびをする。


「男の子と違って、女の子は深夜に出歩いたら危ないから、本当困っちゃうよ」

「男の子でもこの時間に外出る奴はそういないぞ。というかもっと早くに帰れよ」

「あ~、もうこんな夜遅くにお説教は止めてよ~」

「危機感なさすぎるぞ。どんだけ人間を信用してんだよ」

「はいはい、ごめんごめん」


 暮石は投げやりに謝る。


「もう帰るのか?」

「うん、今から家帰るところ。一応電話しとかないと赤石君も不安かな、って」

「何があったのかと思ったよ。心配したぞ」

「大丈夫だよ~」

「やっぱり痛い奴ばっかりだったのか?」

「ぜ~んぜん。みんな良い人だったよ? 赤石君って本当心配性なんだから。いちいち心配しすぎなんだよ~。別に今日会った人と一緒に寝ました、とかないから絶対。赤石君が心配しないでも」

「心配してないよ、そこは」


 暮石はふああ、とあくびをする。


「あんまりタクシーで電話するのもあれだからここらで切るね、私」

「ああ。帰るまでが遠足だからな。気を付けて」

「遠足なんてしてないって」


 暮石がくすくすと笑う。


「やっぱりユーモアだけで言えば赤石君が一番だね」

「ユーモアだけかよ」

「じゃあもう切るよ~」

「ああ。気を付けて」

「うん、気を付けて帰るね。おやすみ、ダーリン」

「おやすみ」


 暮石からの電話が切れる。

 電話が来たことで赤石は安心し、急に眠気が襲ってきた。


「……」


 赤石はものの数分で、そのまま眠りについた。








 翌朝――


 ピンポンピンポンと何度も鳴らされるインターホンの音で、赤石は目が覚めた。


「……え?」


 ドンドンドンドン、と扉が何度も叩かれる。

 そしてまたピンポンピンポンと、何度もインターホンが鳴らされる。


「なんだ……?」


 赤石は扉のドアスコープから、外を覗いた。


「……赤石様」


 ドアの前では、スーツを着用した美形の女が、落ち着きのない様子でいた。

 すらりと長身で、後ろでまとめた髪が、女の美しい容姿を際立たせ、ことさらに強調している。


「那須さん……?」


 那須真由美その人が、赤石の扉の前で落ち着きなくソワソワとしていた。

 赤石は扉をガチャ、と開ける。


「お久しぶりで――」

「おそようございます。突然ですが、本日お嬢様が旅立たれます。早く準備を」

「え、え、え?」

「入ります」

「ど、どうぞ」


 那須は赤石の玄関に立ち入った。


「赤石様、早くご準備を。お嬢様が旅立たれてしまいます」

「旅立つって、一体? っていうか、なんでこんな朝早くに」

「説明をしている時間がありません。早くご用意を」

「何の……?」

「服です」


 那須はギロ、と寝巻姿の赤石の姿を見る。


「脱いでください、お坊っちゃん。時間が差し迫っています」


 那須が白い手袋をグイ、と引っ張る。


「着替えないといけない感じですか?」

「いち早く。今すぐ、ここで、ジャストナウ」

「ここでは無理でしょ」

「私は気にしませんので」

「俺が気にするんで」


 赤石はズボンを取りに、別の部屋へ入った。

 

「もっと時間に余裕持って行動できないですか?」

「早くしてください」


 服を着替え、カバンに貴重品をポイポイと入れる。


「赤石様、まだですか?」


 那須が玄関から赤石を呼ぶ。


「最速です。これ以上早くしたら多分時間巻き戻ると思います」

「おたわむれはよしてください」


 赤石は寝ぼけまなこで寝癖も直さないまま、軽く口内を洗い、玄関までやって来た。



「お嬢様が旅立たれてしまいます。今すぐ行きましょう」

「意味分からないんですが」


 寝起き間もなく、意味も分からないまま赤石は那須に連れられ、部屋から出た。


 旅立つ、という那須の言い回しに不安を感じながら、赤石は家に鍵をかけた。




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― 新着の感想 ―
いっていないとはいえ 彼氏いない言った時点で裏切りだ
なんか赤石攫われてるぞw
暮石、早速約束破ってない? 男女混合だからいいって話だったのに、男複数と女自分だけってダメじゃないの?しかも連絡なしだし。 暮石嫌いだったけど、余計に嫌いになりそう。
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