第519話 新入生のオフ会はお好きですか? 3
赤石は家で一人、暮石からの連絡を待っていた。
「……遅いな」
時計の短針は十二を超えていた。
日をまたいでもまだ、暮石からの連絡はなかった。
「何かあったのか……?」
赤石は多少の不安を抱きながらも、ベッドの上で暮石からの連絡を、待っていた。
「いけ~!」
ファミリーレストランで食事を楽しんだ暮石は、オフ会仲間と二次会のボウリングに来ていた。
カランカラン、とボウリングのピンが全て倒れる。
『スペア!』
ボウリング場に備え付けられている液晶モニターから、スペアを知らせる音声と映像が流れる。
「いぇ~い!」
暮石は喜びながら戻って来る。
「みーちゃんみーちゃん、いぇ~!」
斉藤が両手を上げた。
「いぇ~! スペア~!」
暮石は斉藤とハイタッチをした。
「みーちゃん、うぃ!」
「うぃ~!」
暮石は同じレーンで座る大男とハイタッチをする。
髭を生やし、恰幅の良い体躯にアロハシャツを着た男は、小山田武彦と言った。
ツウィークでヤニカスゆきとして活動し、二浪の末、北秀院大学に合格する。
ファミリーレストランでは暮石とは別卓にいたが、釜井が帰宅するのと入れ替わりで暮石たちの集団に入って来た。
「ヤニタケ、こんな所でタバコ吸わないでよね~?」
小山田が来ているアロハシャツの胸ポケットに、タバコが入っていた。
暮石は目ざとくタバコを指さし、小山田を注意する。
「え、ボウリング場ってタバコ駄目なの!? いつから!?」
「最初からです~!」
暮石は自席に戻って来る。
「みーちゃん、うぃ」
「お、きゅーちゃん、うぃ!」
暮石は角井とハイタッチをした。
「すげぇじゃん、女の子なのにスペアとか」
「でしょ? プロボーラーとかなっちゃおっかなぁ~」
むき、と暮石が力こぶを作る。
「力こぶちっちゃ」
角井が暮石の力こぶを見て、くすくすと笑う。
「笑わないでよ~」
む~、と暮石は頬を膨らませる。
「きゅーちゃん、今日予定大丈夫なの? 二次会とか来ちゃって」
「全然」
二次会のボウリングに来るにあたり、初期メンバーのいくらかは帰宅していた。
とりわけ、オフ会にいた女子は暮石を除き、全員が帰宅していた。
「もう結構遅いよね~」
暮石はスマホを見る。
スマホには、二十時三十二分と表示されていた。
「俺とも喋ってよ、みーちゃん」
角井と話している所に、小山田がずい、とやって来る。
「なに~? ヤニタケ本当寂しがりだな~」
「俺でかい図体して寂しがり屋なんだよな~」
ヤニタケはがはは、と笑う。
「おい、お前ら俺の華麗なるボウリングテク見てなかったのかよ!」
斉藤はストライクを出し、帰って来た。
「ごめん、見てなかったわ」
「俺も」
「私も」
「お~ま~え~ら~」
斉藤がぷるぷると震える。
「ほら、行けヤニカス!」
「ヤニカスちゃうわ!」
斉藤が小山田の尻を蹴る。
小山田は笑いながらボウリングの球を取り、投げに行く。
「みーちゃん、俺ボウリング上手いっしょ?」
「上手い上手い。どこで習ったの?」
「そりゃあ独学っしょ」
「すご~い!」
暮石がパチパチと手を叩く。
「そんな動きづらそうな服なのに」
斉藤は季節外れの長い黒のロングコートに、ぶ暑いブーツを履いていた。
耳にはピアスをし、毛先をワックスで遊ばせていた。
「こいつ典型的なパリピ系だよね、きゅーちゃん」
「はは」
角井は独特なファッションで身を固め、ハットをかぶっていた。
柔和な顔つきで角井は薄く笑う。
「誰がパリピじゃ! 陰キャだ、陰キャ!」
目つきの鋭い斉藤は、目だけで笑う。
「おーーーいーーー!」
小山田が二投し、その場に崩れ落ちる。
液晶モニターを見れば、小山田はガタ―を二回出していた。
「あははははは、ヤニタケ下手くそ~!」
「あいつ本当パワーだけで生きてんじゃね?」
「ははは」
三人はのそのそと歩いて戻って来る小山田を見て、笑う。
「おい、笑うなよお前ら~! 人が真剣に球投げてたってのによ~……!」
「いや、お前下手くそすぎだろ!」
「くっそ~! こんなならボウリングもっとやっときゃあ良かったなぁ~」
テクニック不足を指摘された小山田が口を曲げる。
「まぁまぁ、また皆で来たら良いんだから」
暮石は小山田の背中をポンポンと叩き、慰めた。
「ありがとよ~、みーちゃん。もうこいつらは駄目だわ。俺に優しいのはみーちゃんだけ」
こいつらヒドいのよ、と小山田が暮石に泣きつく。
「止めて、皆この子をいじめないで! 私の子なんだから!」
「デカすぎだろお前の子供」
「もういいわ、みーちゃんしか信用できないわ、本当」
小山田はえんえんと嘘泣きをした。
「次は俺の番かぁ」
よいしょ、と伸びをして角井がボーリングの球を持つ。
「いや~、楽しいねぇ、本当」
「マジでそれ」
「みーちゃん本当面白いわ~」
暮石たちはボウリングを時間いっぱい楽しんだ。
二十二時――
三次会にカラオケに来ていた暮石たちは、四人になっていた。
暮石、斉藤、角井、小山田の四人はカラオケボックスで歌う。
「いやぁ、歌うの久々だわぁ」
小山田がコキコキと首を鳴らす。
「歌もダメダメなんじゃねぇの、お前?」
「歌は歌えるわ!」
斉藤が小山田を茶化す。
「みーちゃん、マラカスお願いね」
「オッケー!」
「いらんだろ」
「賑やかし隊長任せてよ!」
「みーちゃんはこいつ甘やかしすぎ。なに、好きなの?」
斉藤は苦笑する。
「子供を甘やかすのも親の仕事なのよ!」
「ママー!」
暮石は茶化してその場を流した。
「よし、歌うかぁ」
小山田は宣言通りの美声で、歌を歌った。
「お、おぉ~!」
小山田が歌い終わり、暮石はパチパチと手を叩いた。
「ヤニタケ、本当に歌上手いじゃん! ちょっと見直した!」
「でそ?」
「嘘じゃねぇのかよ」
「俺の数ある特技の一つだなぁ」
がははは、と小山田が笑う。
「どこがだよ」
「これから一個ずつ俺の特技見せてくかぁ~」
小山田がぐるぐると腕を回す。
「もう弾切れだろ」
「まだまだいっぱいあるわ!」
斉藤が小山田からマイクを受け取った。
「じゃあ俺も歌うかぁ」
斉藤が入れた歌、青葉の結晶が、液晶モニターに表示される。
「うっし」
斉藤も首をコキコキと鳴らした。
「じゃ、みーちゃんアシストよろしく」
「え、えぇ!?」
暮石は斉藤にマイクを渡された。
「急に!? 急に!?」
「ほら、もう始まるけど」
「えええぇ!?」
斉藤は歌い始め、暮石も斉藤に合わせて歌う。
「オーイェー、いつまでも俺たちのす~ぐ~そばで笑ってた~」
斉藤が美声を響かせる。
「「オーイェー、俺たちの絆忘れ~ぬ~未来まで~~」」
暮石と斉藤がハモる。
「オーイェー、オーイェーーーー!」
暮石と斉藤は二人で歌を歌い切った。
「いぇ~い」
歌い終わった後、斉藤は暮石にハイタッチを求めた。
「はぁ~、もう急にマイク渡すの止めてよ~」
暮石は斉藤とハイタッチをしながら、ほっと一息ついた。
「いやぁ、皆歌上手いですなぁ」
暮石は斉藤たちとカラオケを楽しんでいた。
「連絡する、って言ってたよな……?」
赤石は部屋で一人、暮石からの連絡を待っていた。
「てかさ、みーちゃん今から俺ん家来ねぇ?」
「え……?」
暮石は斉藤と二人で、夜空の下にいた。




