第518話 新入生のオフ会はお好きですか? 2
「てかさ、てかさ、俺ら呼び方決めね?」
メニューを見ながら、斉藤が提案した。
「あ、いいじゃんそれ! アカウントの名前にするか実名にするかどっちか悩むし!」
暮石が斉藤の提案に乗る。
「え~と、お前は……?」
斉藤が暮石を顎で指す。
「いや、だから暮石三葉だって!」
「漢字は? 蜜に葉っぱ?」
「そんなわけないじゃん!」
「なんかエロい漢字だもんな」
「そんなこと考えてないから!」
ははは、と斉藤が笑う。
「日が暮れるに、蹴飛ばす方の石に、数字の三に、葉っぱ」
「それで暮石三葉かぁ。なんかかわいくね?」
「良い名前じゃん」
斉藤と角井が口々に暮石を褒める。
「三葉」
「なに、急に~」
「別に何でもないけど」
「じゃあ呼ばないでよ~」
斉藤が隣の席に座る暮石に笑いかける。
「じゃあ三葉だし、みーちゃんね、みーちゃん。みーちゃんで決定~」
「ちょっと待って、ちょっと待って、勝手にあだ名決めないで~」
斉藤がパチパチと手を叩いたところ、暮石が流れを止める。
「多数決、多数決!」
暮石が人差し指を立てた。
「はい、じゃあみーちゃんで良いと思う人挙手!」
「はい」
「……」
同卓の角井、釜井が挙手をする。
「はい、決定~!」
「えぇ~。まぁ別に良いんだけど~……」
暮石が不服そうな顔で唇を尖らせる。
「まぁ仮決定みたいなもんだから。今後変わっていくかもしれないし、変わらないかもしれない」
「それもそっかぁ」
不服ながらも、暮石のあだ名がついた。
同様にして、斉藤、角井、釜井のあだ名もつけられていく。
「はい、じゃあ皆名前覚えた~?」
斉藤は同卓一同の顔を見回した。
「覚えた覚えた~」
暮石が挙手をする。
「じゃあみーちゃん、言ってみて?」
「えっと、かずくん」
斉藤を指さす。
「よく覚えれたじゃん」
「私をチンパンジー扱いするなぁ~」
これくらい簡単に覚えれるから、と暮石がダンダンと机を叩く。
「あと、きゅーちゃん」
暮石が角井を指さした。
「正解」
角井がうんうん、と頷く。
「なんかきゅーちゃんって本名聞いてもやっぱりきゅーちゃんって感じしかしないんだよね」
「なんだよ、それ」
角井はふふ、と苦笑した。
「あと、恵美ち」
「……」
こくり、と釜井が頷く。
「これで全員かな~」
「よくできました」
斉藤がパチパチと手を叩いた。
「いやぁ、恐縮恐縮」
「飲みの場のおっさんか!」
斉藤が暮石の頭をペチ、と叩いた。
「おっさんちゃうわ!」
暮石が斉藤の手をどかした。
「じゃあようやく名前も定まったことだし、ご飯でも注文しますかぁ~」
斉藤は大きく伸びをした。
「みーちゃんも食べたいの好きに選べば良いよ」
斉藤は暮石と共にメニュー表を見る。
「ここは俺らが奢るからさ」
「え、良いよ~。そんなの悪いし」
暮石はぶんぶんと手を振った。
「みんな~~~ちゅうも~く!」
斉藤は立ち上がり、オフ会に来たメンバーの視線を集めた。
「今回は女の子も少ないし、ここは男の俺たちで女の子の分払おうと思ってるけど、皆大丈夫だよな~?」
オフ会には三人の女子しか来ておらず、そのうちの二人が斉藤の卓にいた。
「「……お~!」」
男たちは斉藤の提案に乗る。
「ふう」
斉藤は席に座った。
「はい、ということで今日は女の子は払わなくても良いから、好きなの頼みな」
「え~、ごめんね本当ありがとう~……」
暮石は手を合わせ、軽く会釈した。
「そんなこと言って、実はみーちゃんも高校の頃に奢られ慣れてるんでしょ?」
「全然奢られ慣れてないよ~」
暮石は頭を振る。
「みーちゃんって高校でかわいい枠じゃなかったてこと? これで~?」
斉藤は暮石の全身を見回す。
「ぜ~んぜん。私の高校にはかわいい子が沢山いて、それこそファンクラブあったり他校からいっぱい知らない男の子が見に来たりしてて、私なんかよりもっとずっとかわいい子が沢山だったよ」
「え、じゃあみーちゃん今彼氏とか?」
「いな~い。むしろ、いるように見える?」
暮石はメニューを見ながら答える。
「マジかぁ~。え、意外じゃね?」
斉藤が角井に水を向ける。
「俺の高校だったら無双できてたよ」
「もう~、本当かずくんときゅーちゃんは冗談上手いねぇ~。」
「いやいや、俺らどっちも本気で言ってるから」
ははは、と暮石はその場を笑って流した。
四人はそれぞれ料理を頼み、十数分の後、料理が運ばれてくる。
「じゃあ積もる話もありますが、食べながら話しますか!」
斉藤が料理に手を付けた。
「初対面だから別に話は積もってないんだけどね」
暮石が茶々を入れる。
「ははははは、かわいい上に面白いとか、みーちゃん本当やるねぇ、ここ」
斉藤が自身の腕を叩く。
「まぁまぁ、面白い人に囲まれて育ってきましたから。私が面白いなら、私の周りの人の受け売りかなぁ~」
「高校とか面白い人いたんだ?」
「そうそう。変な子だけどね」
「男?」
「男~」
暮石は料理を食べながら答える。
「やっぱり男に囲まれて育ってんじゃん!」
「違う、ち~が~う!」
誤解なの、と暮石は笑い飛ばした。
「そいつみーちゃんのこと好きだったんじゃね?」
斉藤が不敵な笑みを湛えたまま、暮石に問う。
「まぁ確かに告白とかはされたんだけど~」
「やっぱモテてんじゃん!」
「たまたまだって~」
もう~、と暮石は水を口にした。
「え、それ今は付き合ってないわけ?」
「ん~、断っちゃった」
「なんで?」
「なんか違うな、って思って」
「うわ~、モテる女の発言だわ~」
あちゃ~、と斉藤が額に手を当て、天を仰ぐ。
「羨ましいなぁ~。俺陰キャだからそういうのマジで分かんねぇわ」
「嘘吐け! 陽キャでしょ、陽キャ。どこが陰キャよ!」
「いや、もう俺滅茶苦茶陰キャだから!」
斉藤は手を叩きながら笑う。
「てか、恵美ちは高校時代どんなだったの?」
斉藤は釜井に水を向けた。
「……告白されてないし、モテてない」
ぼそ、と釜井は呟いた。
「ほらね! 俺らみたいな陰キャは普通告白とかされないんよ!」
「たまたま、た~ま~た~ま」
暮石は手うちわでパタパタと熱くなった顔を冷やす。
「こんなエロい服着といてモテないとかよく言えるわ、本当」
「エロいんじゃなくてお洒落なだけです~!」
「どうせ下着もエロいのつけてんだろ、みーちゃんのことだから」
「着けてません~。普通のやつです~」
「じゃあ何色よ?」
「もう、かずくんキモい~」
暮石は斉藤の肩をぽこぽこと叩いた。
「いやいや、俺なんか全然」
「むっつりスケベじゃん!」
「いやむしろがっつりって言うか……」
「がっつりいってるじゃん!」
「じゃあ何色なのよ、みーちゃん」
「言いません~!」
暮石はぷい、と顔を背けた。
「じゃあヒント! ヒントだけちょうだい、ヒント!」
「え~、じゃあヒントだけね」
暮石はう~ん、と考えた。
「色が……ない」
「白じゃん!」
ははは、と斉藤は足をバタバタとさせながら笑った。
「え、白でしょ?」
「……」
暮石はこくり、と頷いた。
「ヒントじゃなくて答えじゃん!」
「はいはい、もうこの話終わり、終わり~!」
「モテてきた女ってやっぱ違うな~」
「はぁ~、熱い熱い」
暮石はオフ会を目一杯楽しんでいた。




