第512話 後期試験の合格発表はお好きですか? 1
翌朝――
「……」
陽の光が赤石の部屋に差し込んでくる。
小鳥のさえずりを聞き、赤石は静かに目を覚ました。
「……」
辺りをゆっくりと見渡す。
見れば、隣で暮石が下着姿のまま眠っていた。
「痛い……」
暮石は赤石の腕を枕にして、すうすうと寝息を立てて眠っていた。
いつの間に腕を枕にされていたのか。赤石は痺れる腕を暮石の頭の下から抜いた。
赤石は腕を振り、血を行き渡らせる。
「……ん」
起床し、動き始めた赤石につられ、暮石も目を覚ました。
「おはよ」
「ああ、おはよう」
赤石はスマホを見る。
「ん」
暮石は赤石の唇に、そっと自身の唇を重ねた。
「おはようのキス」
「歯磨いてからにしてくれよ」
赤石は苦笑した。
「朝の口内って雑菌が繁殖してるって言うぞ」
「良かったじゃん、美少女の雑菌もらえて。お得だね、赤石君は」
「ばっちぃ」
「ばっちぃ、って何。ばっちぃ、って」
暮石が頬を膨らませる。
「ふふ」
暮石は苦笑した。
「赤石君、こんな朝迎えれて良かったね。朝起きたら隣に美少女がいる生活なんて最高じゃない?」
「……悪くない気分だな」
暮石は赤石の頬を両手でそっと撫でる。
「これから何十年も美少女が隣にいる生活送れるんだよ、赤石君。どういう気分?」
「上々だよ」
赤石は暮石の頭を撫でた。
「良かったねぇ、赤石君。こんな美少女と付き合えて。私が告白してなかったら、赤石君みたいなすぐ怒るヒステリックで頭の悪い男の子なんて誰とも付き合えなかったよ? 本来なら赤石君みたいな、大して格好良くもない男の子がこんな美少女と付き合えないんだからね?」
暮石が赤石の額に人差し指をトン、と当てる。
「私がいたから良かったものの。赤石君みたいな感情のコントロールができない、女の子を見下してる性格の悪い男の子のことが好きな女の子なんて、とっても珍しいんだからね? 感謝してよね」
ふふん、と暮石が鼻を鳴らす。
「俺が見下してるのは人間全員だよ、等しく、な。塵と芥しかいない」
「そういうところだよ。本当、赤石君私がいて良かったね。本来なら赤石君みたいなカスの男の子を好きになる女の子なんて絶対いないんだからね? 奇跡だよ、奇跡。奇跡の女神と呼んでくれても良いくらいなんだからね」
「放っといてくれ」
「や~い、非モテヒスり男~」
「自分の言いたいことも言えず、他人に自分の人生任してる奴よりよっぽどましだろ」
赤石は暮石に背中を向けた。
「私今日予定あるから、ご飯食べたら帰るね?」
「分かった。今日は俺も予定がある」
北秀院大学の後期試験の合格発表が、控えている。
船頭と後期試験の合格発表を見に行く予定が、あった。
「あぁ、船頭さんと後期試験の結果見に行くっていう、あれ?」
「それ」
赤石はベッドから降りた。
暮石も赤石にならってベッドから下り、赤石の服を脱がせた。
「脱ぎ脱ぎしよっか」
「自分で出来ます」
暮石は、上裸になった赤石の身体を撫でる。
「私のも脱ぎ脱ぎさせていいよ」
暮石がばんざいをする。
「ブラの外し方分かる?」
暮石は挑発的な瞳で、赤石を見つめる。
「分からないし、そのまま服着ろよ」
「むぅ~」
暮石は眉を顰め、頬を膨らませる。
「ケチ!」
「ケチで結構」
「からかいがいのない彼氏!」
「からかいがいのない彼氏で結構」
「カス!」
「カスで結構」
赤石は服を着替える。
「うえへへへへ、赤石君。おじさんにパンツ脱がさせてやぁ!」
暮石が赤石の背後から赤石のパンツを狙う。
「個室で着替えます」
赤石は服を着替えに、脱衣所へと向かった。
「私も個室で着替えます」
暮石は赤石の後を追い、脱衣所へと入った。
「えへへ」
赤石と暮石が二人、脱衣所で向かい合う。
「なんかエッチだね」
「お前が一緒に入って来たからだろ」
「エッチする?」
「しません」
「ぴと~」
下着姿の暮石が赤石に抱き着く。
「こうして二人は体を重ね合わせ、お互いを知るのであった……」
「勝手に官能小説するな」
赤石と暮石はその場で二人、着替え終えた。
「歯、磨こっか?」
「ああ」
二人は歯ブラシで歯を磨く。
「なんか朝の歯磨きって食事前にやる人と食事後にやる人がいるけど、どっちの方が正しいのかな?」
「食前が正しいって聞くけどな」
「へぇ~」
二人はお互い、鏡を見ながら歯を磨く。
「次お家来るときは私の歯ブラシ置きも用意しておいてね?」
「そうだな」
「三葉だからエム、って入ってる歯ブラシ置き買っておいてよ」
「分かった」
「三葉のエムでもあるし、エスエムのエムでもある」
「変態が」
二人は歯磨きを終える。
「えへへへ」
暮石は赤石と腕を組みながら、脱衣所から出て来る。
「ご飯食べよっか?」
「それもそうだな」
「恭子ちゃんが作ってくれたので良いよね?」
「ああ」
暮石が、昨晩冷蔵庫に入れておいた八谷の手料理を取り出す。
「わ~、美味しそう~」
暮石は八谷の手料理が入ったタッパーを見て、小さく拍手する。
「用意するね?」
「俺もやるよ」
「ヤる!? キャーー、犯される~!」
「犯しません」
赤石が暮石の後方からやって来る。
「わわ」
暮石の後ろに、赤石が立つ。
「なんか男の子にこうやって後ろに立たれると、やっぱり圧迫感あるな~」
平均より少し高い程度の暮石の身長でも、男の平均身長程度の赤石からすれば、やはり小さかった。
赤石が暮石の肩に手を置く。
「ちょっと失礼」
赤石は暮石の肩を借り、背伸びをして吊り戸棚の皿を取る。
「こら~、人の肩を利用してお皿を取るな~」
ぷんぷん、と暮石が赤石を見上げる。
「これに移し替えて温めるか」
「おっけ~」
暮石はタッパーの中の料理を皿に移し替え、電子レンジに入れる。
「これどうやって使うの?」
「温めるワット数を設定して、捻るだけ」
「おっけ~」
二人は料理を用意する。
「お箸は?」
「そこの引き出し」
「コップは?」
「そこの戸棚」
「さっすが、赤石君しっかりしてるぅ。家事でき男子だ」
「これくらい出来なかったら困るだろ」
暮石はテーブルの上に料理を置いた。
「赤石君さ」
「……?」
暮石が唐突に、話を切り出した。
「恭子ちゃんに告白されことあるんだよね?」
「……ああ」
赤石は箸とコップを用意しながら、暮石の話を聞く。
「それで、今こうやって恭子ちゃんが料理作って持って来てくれてるんだよね?」
「そうだな」
「二人ってさ」
暮石が赤石の目を真正面から捉える。
「どういう関係?」
「……」
赤石は手を動かすのを止め、暮石と向き合った。




