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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第510話 初めての下宿先はお好きですか? 14



『料理を作りすぎたので、赤石の家のドアノブにおすそわけの料理をかけておきました。良かったら食べてみてください』


 赤石が八谷からのメッセージを開くと、そう簡潔に送信されていた。


「これだけ?」

「みたいだな」


 赤石は八谷とのやり取りを軽くさかのぼってみたが、大した内容はなかった。


「じゃ、返信しよっか?」


 暮石が後方から赤石に体を密着させる。


「……」


 暮石が赤石の耳元にふっ、と息を吹きかけた。


「当ててんのよ」

「何も言ってないけど」


 暮石の胸が赤石の背に押し当てられる。


『もう帰ってる?』


 赤石は八谷から来たメッセージを少しさかのぼり、暮石に見せた。


「今三葉とホテルで寝てる、って書いて?」

「バカか、お前は」

「やん!」


 赤石が暮石の身体を軽く叩く。


「ドエス……!」

「絶対違う」


 暮石は赤石に抱き着いたまま、スマホを見る。


「明日返すか」


 赤石は八谷からの連絡を見た後、スマホをしまった。


「え、なんで? 可哀想じゃん」

「いや、通知来るまで見たか見てないか分からないだろ」

「こまめに見てるかもじゃん?」

「そんな面倒なことしないだろ」

「もしかして、私に見られないようにするつもり?」


 暮石がジロ、と赤石を睨みつける。


「夜も遅いし、通知音で八谷起こしたら悪いだろ?」

「大丈夫大丈夫。女の子って結構遅くまで起きてるから」

「サンプル数一人なんだが」

「卒業旅行でも恭子ちゃん結構遅くまで起きてたよ?」

「あ~」


 なるほどな、と赤石は膝を打った。


「同室だったのか」

「うん、同室だった。恋バナとかしてたよ」

「へぇ」


 赤石は興味なさげに、話しを打ち切った。


「なんか恭子ちゃん、好きな人がいるらしいよ。誰か聞いたはずなんだけど、誰って言ってたかな……」


 暮石は腕を組み、う~ん、と唸る。


「いや、別に言わなくてもいいよ。あいつのプライベートに関わることだし」

「……そっか」


 暮石は途中で話を打ち止めにした。

 そして、暮石が八谷の想い人を思い出せなかったことから、八谷の好きな人は、暮石が思い出そうとしなければ思い出せない人、ということが確定する。


 すなわち。


 それは、赤石ではない。


「赤石君は優しいね」


 よしよし、と暮石が赤石の頭を撫でた。


「じゃあ返信しても大丈夫か」


 赤石はスマホをたぷたぷとスワイプする。


「ちょっと前に帰って来た、心配ありがとう。って返すか」


 赤石は暮石に見せながら返信を打つ。


「良いじゃん」

「早速返すか」

「許可する」

「なんで許可制なんだよ。あ、ヤバい、誤字った」


 暮石に急かされ、赤石は八谷に誤字のまま返信を返す。


「まぁいいか」


 修正するのも面倒になった赤石は、そのままスマホの電源を切った。


「また明日の朝なんて返って来てるか見ようね?」

「ああ」


 赤石がスマホをしまおうとした瞬間、赤石のスマホが震えた。


「もう?」

「本当に起きてるんだな」


 赤石は再びスマホの電源をつける。


『おかえり。何かトラブルとかあったの? 遅くまでお疲れ様』


 ものの数秒で、八谷からの返信が返って来ていた。


「恭子ちゃん相変わらずスマホ好きだなぁ」

「スマホなんか皆好きだろ」

「なんて返す?」


 暮石が赤石に密着しながら、頭を撫でる。


「トラブルはないけど、ちょっとスマホ見れない状況だった。おやすみ、って返すか」


 赤石はスマホに打ち込み始める。


「暮石とエッチしてた、って書こ?」

「お前はバレたいのかバレたくないのかどっちなんだ」

「な~に、冗談じゃん。赤石君ったらすぐ怒るんだから」


 こちょこちょ、と暮石が赤石の腹をくすぐる。


「くすぐったい」

「すぐ怒る赤石君への罰だ!」


 暮石はそのまま赤石の服の中に手を入れ、赤石の身体を撫で回す。


「よし、打った」


 赤石が返信を送り、しばらく待つと、八谷から再び返信が来た。


『そっか、大変だったね。おやすみ』


 簡潔に、そう返って来た。


「今度こそ本当に終わりだな」

「ね~」


 赤石は次こそ本当にスマホをしまった。

 暮石はまだ赤石の身体を撫で回し続けていた。








 八谷は一人、自室で布団にくるまっていた。

 時刻は一時を回っている。

 スマホの電源を何度もつけては消し、つけては消しを繰り返す。

 赤石からの連絡が来ているんじゃないか。

 そろそろ連絡が来ているんじゃないか。

 何度スマホの電源をつけても、赤石からの連絡は来ない。


「はぁ……」


 八谷は布団の中で丸まった。


「心配」


 結局、待っている間に赤石が家に帰って来ることはなかった。

 平田とどこかに行くと言っていたが、その道中で事故に遭ったりはしていないのか。

 何かトラブルに巻き込まれたりはしていないか。

 何故返信が返せないのか。


 ぐるぐると、考えても仕方のない邪推が八谷の脳内を支配する。

 赤石は今、どうなっているのか。


 布団に丸まり、眠れない夜を過ごしていた所、八谷のスマホの通知音が鳴った。


「……っ!?」


 八谷はガバ、と跳ね起き、スマホの電源を即座につけた。


「……あ」


 赤石からの連絡が、返ってきていた。


「赤石……赤石赤石赤石!」


 八谷は嬉々として、赤石からの連絡を開いた。


『ちょっと前に帰って来た、心配ありがとうり』


 赤石からのメッセージが、八谷の目に飛び込んでくる。


「~~~~~~~~~~~~~~~!」


 八谷は布団の中でのたうち回った。


「何これ可愛すぎ」


 八谷は赤石からの返信をスクショした。

 だがあえて誤字には触れず返信を返す。

 赤石の誤字で自分が何か感情を動かされたと、思われるのが恥ずかしかった。


『おかえり。何かトラブルとかあったの? 遅くまでお疲れ様』


 赤石の返信が何故遅くなったのかを知りたくなった八谷は、赤石に探りを入れてみる。

 あえてトラブルがあったかどうかを聞くことで、赤石が何をしていたかを知りたいのではなく、トラブルなどに巻き込まれていないか心配しているだけなのだ、とのスタンスが取れる。

 何故遅くなって、今まで何をしてこんなことになっているのか、という本心を隠すための、ただのポーズ。


 八谷は赤石に返信する。

 ほどなくして、赤石から連絡が返って来る。

 

『トラブルはないけど、ちょっとスマホ見れない状況だった。おやすみ』


 八谷はニヤニヤと笑う。

 赤石の文面から、まず、赤石の身が脅かされるような何かがあったわけではない、ということが分かる。

 そしてスマホを見れない何かしら忙しい状況だったことも分かる。

 最後に、おやすみ、とついていることから、赤石は今家に一人でおり、自分が赤石にとっての最後の話し相手だということも、読み取れた。


「~~~~~~~~~~~!」


 八谷は布団の中でじたばたと暴れた。

 すぐさま返信を返す。


『そっか、大変だったね。おやすみ』


 もう知りたいことは、全て知れた。

 あえてそっけなく、返してみた。

 今赤石は家で一人、寝ようとしている。


「赤石……」


 再び赤石の名前を呟く。

 スマホを手に、にやにやとしながら画面を眺める。


「今から行こっかな……」


 八谷はベッドから降り、服を着替えようとする。


「いや、普通に迷惑よね……」


 だが正気を取り戻し、再びベッドに戻った。


「はぁ……」


 ため息ばかりが出る。


「赤石……」


 何度も。

 何度も何度も何度も、名前を呼びたくなる。


「好き」


 八谷は、そう呟いた。

 そして頬を染め、手で顔を隠す。

 羞恥に耐え切れなくなる。


「赤石、赤石、赤石……」


 誰に言うでもなく、八谷はそっと、赤石の名前を呼び続けた。



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― 新着の感想 ―
八谷と高梨のメンタルも熟成されていきそうで怖い 櫻井より闇深いハーレム気分味わって、最後は櫻井と心の友END見えてきた
利苗先生は読者の胃を痛めつける天才だよ…… どうか八谷に幸せな未来が訪れますように
幸せになってほしい人が多すぎて読むのが辛い…
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