第507話 初めての下宿先はお好きですか? 11
「お」
暮石が、赤石の家のテレビ台に入れられているゲーム機に気付く。
「良い物あるじゃ~ん」
暮石がテレビ台の中から、ゲーム機を取り出してきた。
「ちょっとゲームしよ?」
「ああ」
暮石が赤石にコントローラーを渡し、ゲームの電源を付けた。
「このゲーム機、新作出るらしいね」
「そうらしいな」
「買う?」
「抽選は申し込んでおいたよ」
「お金持ち~」
いぇ~い、と暮石は赤石とハイタッチする。
そして暮石は再び赤石の前に座り、赤石の腕に包まれた。
「二人で出来るゲームやろ~?」
「分かった」
赤石は皆でプレイ可能なファミリー用のゲームを開始した。
「新作ゲーム出たら、また二人で一緒にしようね?」
「ああ」
「大学で出来た友達とか呼んでやっちゃう?」
「いや、どうだろうな……」
赤石は少し悩む。
「二人がいっか?」
「恋人って知ってる奴らと一緒にゲームする側も結構気遣うだろ」
「お」
暮石が顔を上げ、赤石を見た。
「彼氏の自覚ついてきたじゃ~ん」
暮石が赤石の頬を撫でる。
「ペット扱いするな」
「彼氏ってペットみたいなものだから」
「ペットではない」
赤石と暮石はゲームを始めた。
「大学入ったら、やっぱりバイトする?」
「しないとちょっと金がな……」
「やっぱりか~」
暮石はコントローラーをポチポチと触りながら言う。
「一緒のところでバイトする?」
「あ~……」
赤石はしばらく考える。
「どうだろうな。恋人同士のバイトとか、なんかバイト舐めてないか?」
「え~、そんなことないよ~。世間には夫婦で切り盛りしてるお食事処とかあるのに、カップルだと仕事舐めてるとかなるのは世間の悪い所だよね~」
「そうとも言えない気がするけどな」
「一緒にカラオケとかでバイトしない?」
「嫌だよ、そんな軟派なバイト」
「頑固じじいめ」
「誰がだ、誰が」
ぶう、と暮石が唇を尖らせる。
二人はゲームを続ける。
「あ~」
暮石が敗北する。
「また負けた」
「弱いな、お前」
「なんで赤石君そんなにゲーム上手いの? どのミニゲームも上手いよね? 経験者?」
「いや、皆でやる用のゲームだからほとんどやったことないな」
「じゃあなんでそんなに上手いの?」
「昔からゲームやってたから、ゲームの神経繋がってるんだよ。ゲーム、っていうコンテンツ自体が全般的に多分得意なんだろうな」
「私も昔からゲームやっとけば良かったな~」
もう一戦、と暮石が赤石に申し込む。
暮石は再びゲームを始めた。
「えい、とりゃ!」
暮石は声を上げながら赤石と戦う。
「弱いなあ、凡人は」
赤石は暮石を軽く捻る。
「ちょっと!」
ゲーム中に暮石が振り返った。
「今おっぱい触った!」
「仕方ないだろ、抱いてんだから。嫌なら出ろよ」
「おっぱい魔人」
「違うわ」
暮石は敗北した。
「もう、つまんない~~!」
暮石は足をバタバタとさせる。
「これあれだわ。コントローラーが悪い。多分私の壊れてる」
「バカはすぐ物のせいにする」
「赤石君交換して」
暮石は赤石とコントローラーを交換した。
「ついでに、場所も悪い。私が赤石君の後ろにさせてよ」
「好きにしてくれ」
赤石に抱かれていた暮石は赤石の腕の中から脱出し、赤石の背後に座った。
「じゃ~ん」
暮石が赤石を抱き、赤石が暮石に寄りかかる。
「あ~……」
暮石が赤石の頭を嗅ぐ。
「あ~、良い匂い」
「おい!」
赤石が振り向く。
「頭皮の匂いがする」
「さすがにキモすぎる」
「なんで!? 彼女なら普通じゃん!」
「お前本当変態だな」
「良いから早く定位置に戻ってよ」
「……」
赤石は渋々ながら、再び暮石に寄りかかる。
「早く俺のものになれよ、暮石。俺の言うことが聞けねぇのか?」
「変な声でアテレコするな」
「にゃははははは」
暮石は声を低くして、赤石の物真似をする。
暮石は赤石に再戦を挑み、再び敗北した。
「にゃーーーーん! もう~~~~!」
おかしいおかしい、と暮石は赤石の肩をぽかぽかと殴る。
「弱者は奪われるだけだ。お前は一生負け犬のまま惨めに地面でも這いつくばってろ。帰ってママのおっぱいでも吸ってな、お嬢ちゃん」
「むかつく~~~~~」
暮石は赤石を睨みつけた。そして、ふ、と壁に掛けられた時計を見る。
「もう夜も遅いね」
時計の短針は十二を指し、日をまたごうとしていた。
「お風呂入る?」
「そうだな」
ゲームを切り、立とうとする赤石を、暮石が止める。
「どうした?」
「ちょっと待ってね」
暮石が赤石の首元に顔を近づけ、
「べ」
赤石の首筋を、舐めた。
「っ……!」
赤石は肩を跳ねさせる。
「私が舐めて、綺麗にしたげる」
恍惚な表情で、うっとりと、暮石が赤石を見た。
「汚い!」
赤石は首筋を拭く。
「汚くない! 女の子の唾液は美しい!」
「お前も人の首なんて舐めて、汚いだろ。一日中外にいたんだぞ」
「赤石君は綺麗だもん!」
「そんなわけないだろ」
ほら見て、と暮石は赤石に舌をべ、と出して見せた。
「舐めて綺麗にしたげるから待っててね」
「風呂に入るから解放してくれ」
「や~だ」
暮石は赤石にしがみついたまま、離さない。
「分かった、後で。あとで良いから、とりあえず入らせてくれ」
「む~……」
暮石は頬を膨らませて、不機嫌な顔をした。
「わ~かった。じゃあ仕方ないから入らせたげる」
「全く……」
赤石は暮石を半眼で見下げながら、風呂へと向かった。
「いや、でも俺の部屋にお前一人にしてちょっと不安だな……」
赤石は心配になって来た。
「な~んで」
「金目の物とか取られるかも」
「はぁ!? なんでそんなこというわけ!? 彼女が信用できないの!?」
「まだ昨日の今日だし」
暮石は目を丸くして、赤石を叱る。
「あのねぇ、赤石君。私これでも彼女なんだよ? そんなこと絶対しません! カップルってお互いに信じあうべきでしょ? 赤石君が人のこと信用できないのは知ってるけど、私彼女なのにそんな風に疑われたら、もう何も出来ません! 赤石君はまず、彼女を信用するところから始めてください!」
「……」
赤石は苦悩する。
「そう、だな。分かった。ごめん」
「分かればよろしい」
ふんす、と暮石は顔をしかめながら、赤石を見送った。
「……」
赤石は若干の不安を感じながら、入浴した。
「上がったぞ」
入浴を終え、寝巻に着替えた赤石はリビングへと戻って来た。
「暮石……?」
暮石の姿が、見えない。
「……」
赤石は辺りを見渡すが、暮石の姿が見えない。
「……」
そして、暮石の荷物も、消えていた。
「……」
机の上に視線を落とす。
机の上には、一枚の紙が置いてあった。
『ごめんね』
暮石の筆跡で、一筆書かれていた。
大きな紙に小さく書かれたそれを見て、赤石は硬直した。
「……え」
赤石は机の上に置いてあった財布を開いた。
卒業旅行に、と多めに金を入れた財布のはずが、妙に軽い。
帰る頃には五万円と少しの金額が残っていたはずだが、
「……」
財布を開けると、カード類を除いて現金だけがすっかりと消えていた。
「……」
赤石は場で立ち止まったまま、硬直した。。
「は……?」
赤石は中身のなくなった財布を持ったまま、ただただその場でたたずむことしか、出来なかった。




