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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第504話 初めての下宿先はお好きですか? 8



 赤石の家の前で、八谷は壁を背にして隠れた。


「……」


 息を潜める。

 階段を上がる音が、聞こえてくる。

 靴音がゆっくりと、赤石の部屋へ向かう。


「……」


 コツコツと靴音が響き、人の影が見えたあたりで、八谷は勢いよく飛び出した。


「遅いじゃない! どこで何して、た……」

「……え」


 八谷の前には、見知らぬ女が、いた。

 大学生と思しき女は八谷に突如声をかけられ、硬直する。

 小さなハンドバッグを持ち、ばっちりとメイクを整えた美形の女は、八谷をじろじろと見る。


「あ……」


 露出の多い服装で整えた女は、不審な目で八谷と対峙する。


「ご、ごめんなさい……。人間違まちがいで……」

「……」


 女は八谷にぺこり、と会釈すると、横を通り抜けて、赤石の向かいの部屋に入った。


「……」


 八谷はうつむいたまま、またトボトボと赤石の家の前へ戻った。






「はぁ……」


 結局、赤石は帰って来なかった。

 いつまでも家の前にいては隣人の迷惑にもなり良くないな、と反省した八谷は階段を下りる。

 実家に帰って連絡できない可能性もあるため、これ以上の長居は無用と判断した。


「……」


 八谷はトボトボと、家への帰路を歩く。


「わ……」


 近くにある運動公園のバスケコートで、一組のカップルがキスをしていた。

 袖をまくる男と、男の口元に顔を寄せている女が、いた。

 夜も深く、顔も姿も詳しく見えないが、カップルがキスをしているであろうことは分かった。


「ヤなの見ちゃったな……」


 八谷はすぐさまキスをするカップルから目を逸らし、前を向いた。


「はぁ……」


 八谷は何度も何度も、ため息を吐いていた。







「危ないな」

「駄目なの~?」


 バスケットコートで暮石が赤石にキスを迫っていた。

 赤石は手で暮石の口元を抑え、キスを何とか防いでいた。


「恋人なのに?」

「外でこんなことしたくない」


 赤石は暮石の肩を持ち、姿勢よく立たせた。


「外でやるからスリルあるのにぃ!」

「誰かに見られてたらどうするんだよ」


 暮石はきょろきょろと辺りを見渡す。


「大丈夫、誰も見てないから!」


 暮石は親指を上げた。


「今見てないだけで、誰か来るかもしれないだろ」

「いいじゃん、見せつけちゃえ!」

「外でそういうことはしたくない」


 赤石は帰るため、地面に置いたカバンを持った。


「ケチ! けちんぼ赤石君! ケチケチケチ!」

「けちんぼで結構」

「じゃあいいよ!」


 暮石はぷりぷりと怒りながら、カバンを持った。


「全く……」


 赤石はため息を吐く。


「お前はエロいことしか考えてないのか?」

「考えてない」

「性欲モンスターめ」

「はいはい、私は所詮性欲モンスターです~」


 暮石は唇をぶるぶると震わせ、抗議する。


「困った女だな……」

「……」


 赤石が軽く体操する。

 暮石は赤石の隙を見て、背伸びをした。


「赤石君?」

「ん」


 暮石が赤石の首筋に、キスをした。


「……」

「……っ」


 赤石は赤い顔で暮石を睨みつける。


「何さ何さ、これくらいなら良いじゃないか! はんっ、そんな悪い顔しちゃってさ! 彼女特権だ! 私には彼氏にキスをする権利がある! 彼氏に体を好きにする権利がある! 彼氏は彼女の要求に全て答えるべき!」


 顔を赤くして怒る赤石に、暮石がぷりぷりと反論する。


「海外じゃ挨拶だよ、このくらい!」

「ディスイズジャパン」

「これがヘルジャパン……」

「違います」

「私彼女なのにな~……」


 暮石は赤石と手をつなぎ、赤石の家へと向かった。






「このマンション?」


 二人は赤石の家へとたどり着いた。


「ああ」

「メモしとかなきゃ」


 暮石がスマホに赤石の自宅をメモする。


「聞いてくれたらいつでも教えるよ。行くぞ」

「おっけ~」


 赤石は自分の部屋まで、階段を上がった。


「……ん?」

「なになに?」


 赤石が自分の部屋に到着したところで、立ち止まる。


「なんだこれ?」

「なにこれ?」


 赤石のドアノブに、ナイロン袋が引っかけられていた。

 袋には、料理の入ったタッパーが複数入れられていた。


「赤石君の?」

「いや、こんなことしてない」

「捨てちゃえば?」


 暮石が、ドアノブにかけてある袋を取った。


「お~」


 暮石がタッパーを確認し、納得する。


「恭子ちゃんからだ」

「八谷から?」


 暮石は赤石にタッパーを見せた。

 タッパーには、八谷の名前が書いてあった。


「律義な女だな」

「ね~」


 赤石は胸を撫で下ろし、家のドアを開けるため鍵を取り出す。


「ちょっと待っててくれ。人来ると思ってなかったから、家の中片付けてくる」

「おっけーまるなのだ!」


 暮石はビシッ、と敬礼する。


「袋、もらっとくよ」

「あ、私持っとくよ。掃除するのに邪魔でしょ?」

「そうか。分かった。じゃあ待っててくれ」

「了解のすけ男爵!」


 暮石はにこにこ笑顔で赤石に微笑みかける。

 赤石は家の中に入り、片付けを始めた。

 

「……」


 赤石が家の中に入ったことを確認し、暮石は冷たい目で袋の中身を確認する。

 袋の中にはタッパーと、そして手紙が入っていた。


『赤石へ。突然こんなことをしてごめんなさい。赤石がいつこれに気付くか分からないけれど、赤石に料理を食べて欲しくて作りました。一生懸命作ったので、食べてもらえたら嬉しいです。今日卒業旅行が終わったばかりで急いで作ったので、もしこれに気付くのが遅くなったら、捨ててもらっても構いません。前からずっと料理が下手クソって馬鹿にされてたけど、私なりに頑張りました。また下手くそって言われちゃうかもしれないけれど、食べてくれたら嬉しいな笑。私なりに赤石のことを考えて作ったので、もし嫌いなものがあったら教えてください。あと、また今度赤石の好物を教えてください。教えてくれたら、次は赤石の好きな物をいっぱい食べさせてあげたいです』


 八谷からの手紙が三枚にわたり、入っていた。

 暮石は八谷からの手紙を流し見する。


『料理を楽しんでもらえたら幸いです。八谷より』


 三枚目に、一、二枚目の手紙の内容を総括してそう締められていた。


「……」


 暮石は八谷の書いた一、二枚目の手紙をぐしゃぐしゃに丸め、自身のカバンの中に入れた。料理をタッパーに入れたから時間が経ったため、タッパーの中の食材から水気が出ており、袋の中に汁がこぼれていた。


「……」


 暮石はタッパーのふたを開け、袋の中に汁をこぼした。


「……」


 袋の底が、料理の汁でべちゃべちゃになる。


 暮石は三枚目の手紙の一部を、袋の中の汁に浸す。

 手紙がぐちゃぐちゃによれ、文字の大部分が読めなくなる。


「おまたせ」


 しばらく家の掃除をした後、赤石は扉を開けた。


「ううん、全然待ってないよ。今来たところ」


 暮石はにこにこしながら、赤石に顔を近づけた。


「知ってるよ」


 赤石は暮石を家の中へと招いた。


「恭子ちゃんが、お料理美味しくできたからついおすそ分けに来ちゃった、だって~」


 暮石は赤石に、袋を渡した。


「そうか」


 赤石は暮石から袋を受け取る。


「わ……」


 赤石は袋の底を見た。


「よく見たら滅茶苦茶こぼれてんじゃねぇか」

「ね~」


 暮石は赤石に手紙を渡す。


「なんか汁すごいこぼれてて色々べちゃべちゃになってたんだけど、手紙入ってた」

「手紙?」

「うん、美味しくできたから家近い赤石君におすそわけ~、って」

「おお」


 暮石は赤石に手紙を渡す。


「あ~……」


 手紙はタッパーの中にこぼれた汁を吸い、ふやけていた。


「読めねぇ……」


 赤石は手紙を広げるが、汁で紙がふやけ、大部分の文字が見えない。


「ごめんね赤石君、何とかしたかったんだけど……」


 暮石はうつむきながら、申し訳なさそうに言う。


「お前は何も悪くないよ。ありがとう」


 赤石は暮石の頭をポンポンとする。


「でへへ……」


 暮石は頬を染め、赤石の手を両手で優しく触る。


「タッパーである以上、料理から出た水分がこぼれるのは仕方ないよな」

「うんうん、仕方ないよね」

「あいつはまだ料理したことないから、そういうの分からないのかもしれないな」


 相変わらずの料理スキルに、赤石は苦笑する。


「恭子ちゃんお料理苦手なんだ~」

「まだ苦手みたいだな」


 汁でべちゃべちゃになった袋から、赤石はタッパーを取り出す。

 タッパーにも汁がつき、汚くなっていた。


「わ~……」


 赤石はタッパーを拭く。


「味とかちょっと混ざっちゃってるかもな」


 そしてタッパーを冷蔵庫の中に入れた。


「ま、誰でも失敗くらいあるよ! 恭子ちゃんは何も悪くない!!」

「人間は失敗を繰り返して成長する生き物だからな」

「私も手伝うね~」


 暮石もタッパーについた汁を拭き、冷蔵庫に入れるのを手伝った。




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― 新着の感想 ―
いずれ二人が付き合ってることは知れ渡るだろうし、その時にどんな言動をとるのかワクワクさん
次は【八虐】か
まぁ本気なんだろうなぁと……妨害もしゃーないか
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