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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第502話 初めての下宿先はお好きですか? 6



「お、おう……」


 櫻井が暮石に挨拶をし、軽く手を上げた。


「う、うん」


 暮石は櫻井から視線を外す。


「……」

「……」


 以前の件もあり、櫻井と暮石は気まずい雰囲気の中、対峙する。


「なんでこんな所に……?」


 しばらくの沈黙の後、暮石が櫻井に問いかけた。


「あぁ、妹と来てて」


 櫻井が後方を振り返った。


「もう、お兄~。勝手に先行かないでよ~」


 櫻井の妹、櫻井菜摘がトコトコとやって来た。


「あ、お兄の友達?」

「あぁ、同級生の……」

「あ、そうなんだ~! いつも兄がお世話になってます~」


 菜摘が暮石に頭を下げる。


「あぁ、こちらこそ……」


 暮石が菜摘に頭を下げる。


「じゃあ私もうちょっと見とくね~」


 兄の同級生と聞き、菜摘はその場を離れた。


「気、遣われたね」

「ああ」

「……」

「……」


 暮石は赤石の様子が気になり、振り返った。


「誰かと来てるのか?」

「あぁ~……」


 櫻井が背伸びをし、暮石の視線の先に誰がいるのかを突き止めようとする。


「あ、別になんでも……」


 暮石が櫻井の視線を遮るように立ち回る。


「……は?」


 女性用の下着売り場のその先で、赤石がバッグを物色していた。


「遠いけど……」


 櫻井は目を凝らす。


「もしかして、あれ――」

「あ~~~!」


 櫻井が言い終わる前に、暮石が割って入る。

 櫻井の視界を遮った。

 

「本当にさっき、たまたま友達とそこで出会って~!」


 暮石は聞かれてもいないことを話し始める。


「同級生の男の子で~、本当にたまたまさっき出会って~、なんかついて来られてるって感じで~」

「それ……」


 櫻井が鼻白む。


「そんなの許せねぇだろ! 俺がガツンと言ってやる!」


 櫻井はぐいぐいと先に進んだ。


「いや、本当に良いから!」

「いや、でも……」


 暮石が櫻井の進行方法に立ちふさがる。


「ここがどこだか分かってんのかよ!? こんな所までついて来るようなやつ、お前が許しても俺が許せねぇよ! 女の子に迷惑かけて平気な顔してるような奴、許せるわけねぇだろ!」

「本当にいいから!」


 暮石は声を荒らげる。


「いちいち人のプライベートにまで、ずかずか入って来ないでよ」

「……でも」

「お節介なんだよ、櫻井君」

「……」


 櫻井は押し黙る。


「確かに、俺はお節介かもしれない。お前からしたら、俺はただのお節介焼きなのかもしれない。でも、俺はお前に何を言われても、お前にどう思われても、お前が今後被害に遭うようなことを見過ごす方が、よっぽど苦しいんだよ……!」


 櫻井は胸を抑える。


「お前が変な男につけられてるのに、俺は見て見ぬふりなんて出来ねぇんだよ……! 俺の自分本位でも良い。俺の勘違いなら、それで良いんだよ。だから……だから、俺……!」


 櫻井は暮石の横をすり抜けて、女性用下着コーナーを突き進もうとする。


「だから、良いって言ってるじゃん!」

「……」


 暮石の一喝に、櫻井は立ち止まった。


「いちいちいちいち、本当に櫻井君は鬱陶しいんだよ。お節介だし、自分本位な優しさはただの害悪でしかないって、言ってんじゃん。なんで櫻井君には何回同じことを言っても、何も伝わらないの? 赤ちゃんでもちゃんと学習してくれるよね?」


 暮石は不機嫌な態度を隠そうともしないまま、櫻井に詰め寄る。


「迷惑なんだよ、お前」

「……」


 暮石は眉を顰め、櫻井を見上げる。


「あの子の方が、櫻井君なんかよりもよっぽど、ずっとずっとずっとずっと大事な人だから。大切で、私の好きな人だから。私は好き好んであの子と一緒にいるの。それを可哀想だとかつけ回してるとかさ、失礼だと思わないの? 私が良いって言ってるのに、なんで櫻井君にはちゃんと伝わらないの?」

「……」

「なんで櫻井君は私の意志より自分の意志を優先するの? 良いって言ってるんだから、もう放っといてよ」

「……」


 櫻井は暮石からの直接の暴言に、面食らう。


「自分よがりな正義なんて迷惑以外の何物でもないから」

「……」

「もう私のことは放っといて。早く妹ちゃんの所行きなよ」

「……ああ、分かったよ」


 櫻井は引き返した。


「もう二度と私たちのこと邪魔しないで」

「……」


 櫻井は暮石の言葉を背中で聞きながら、妹の下へと引き返した。








「赤石君~」


 下着を買い終えた暮石が、赤石の下へと帰って来た。


「おまた~」

「ああ」


 バッグを物色し、赤石は奥へ奥へと入り込んでいた。


「あ、お股とかいっちゃった。あせあせ」


 暮石は自身の下半身を手で隠す。


「そうか」

「相変わらず冷たいなぁ……。全く」


 暮石は不満そうに頬を膨らませた。


「見て見て」


 暮石は頬を膨らませて、赤石に見せる。


「かわいい?」

「膨らむことでしか抵抗できない無力なフグみたいでかわいいよ」

「棘ある~!」

「棘があるのはフグのお前だろ」

「き~~~~! 何よ、この男! むかつく~~!」


 暮石はぶんぶんと腕を振る。


「おパンツ買ってこれたよ」

「偉いな」

「良い子良い子して?」

「……」


 赤石は恐る恐る、暮石の頭を撫でる。


「そんな怖がらなくても……」

「刺されるかと思って」

「まだフグネタ終わってなかったの!?」


 再び暮石は頬を膨らませ、抗議の意思を見せる。


「おパンツ見たい?」

「別に」

「ふふふ」


 暮石は上機嫌で赤石に近寄った。


「夜のお楽しみね」


 そして赤石に、そう耳打ちする。

 ぞく、と鳥肌が立つ。


「いちいち耳元で言うな」

「赤石君の性感帯見っけ~」

「性感帯と言うか……なんかゾワッとするんだよ」

「それを性感帯って言うんだよ?」

「違う違う、なんか黒板を爪でひっかいたみたいなゾワッて感じがするんだよ」

「それも性癖なんじゃない?」

「絶対違うと思う」

 

 暮石の買い物も終わり、二人は店を出た。


「じゃあ帰りますか、赤石訓練兵」

「なんで俺訓練兵なんだよ」

「上官の言うことは聞くように! 良いね、赤石訓練兵」

「良くない」


 赤石を先頭にして、歩き始めた。


「なんか縦に並んでるとゲームみたいだね」

「結構昔の、な」


 暮石は赤石の横に並んだ。


「バスももうないから、歩きで家に帰るぞ」

「らーじゃ!」

「結構遠いけど、我慢してくれ」

「いんよ~」


 ニコニコとしながら、暮石が赤石と手をつないだ。


「これだけ寒くても、二人で歩けばあったかいね」


 暮石は赤石に体を寄せる。


「結婚式の惹句みたいだ」

「惹句って何? 豆の木?」

「結婚式の広告のキャッチコピーみたいだな」

「結婚する?」


 暮石が赤石を上目遣いで、見た。


「さすがにまだお前のことよく知らないから、もっと先の話だな」

「そっか」


 二人は手をつなぎながら、寒空の下、自宅へと向かった。



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― 新着の感想 ―
暮石のすげぇところこれなんだよなぁ 櫻井を真っ向から返り討ちにできる。 八谷に足りていないのこれなんだよね。 あとこれが出来そうなのは高梨だったんだけどあいつは自分から全部ぶち壊してしまったので……
道端でいきなり人を噛みつくような変な人より、八谷の方が気になる。これじゃ、もう避けられないだろう…
先生、あなたは本当に素晴らしいです!!!!早く次の話をアップしてくださいね。
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