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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第496話 平田家はお好きですか? 2



「夕食はお鍋でも良いですか?」


 洋子は赤石たちに尋ねる。


「あ、別に何でも」


 同様にカバンを下ろした暮石は、赤石の隣にちょこん、と座った。


「狭いって」


 ソファーに平田、赤石、暮石の三人が座っている。


「そうだな。朋美、お前は床に座れ」

「なんで私の家なのに私が一番に外されるわけ!?」

「そうよ朋美、床に座りなさい」

「なんでお母さんはこいつの味方するわけ!?」


 平田が足で赤石を蹴り、赤石はソファーから追い出される。

 赤石は立ちあがり、近くをうろうろとする。


「赤石君も座りな?」


 平田と暮石はソファーに座り、スマホをいじっている。

 その辺りをうろうろとする赤石を見かね、暮石が自身の右隣りの席をポンポン、と叩いた。


「いや、大丈夫」

「ほらほら」


 暮石が赤石の手を掴み、隣に座らせようとする。


「いや、俺は料理手伝って来る」

「あ、私もやった方が良いかも」


 暮石はスマホをしまい、立ち上がった。


「お母さん、お手伝いします」


 暮石と赤石はキッチンへと向かった。


「あらあら、お客さんなんだから大丈夫ですよ」


 洋子が暮石を押しとどめる。


「いえいえ、私がやりたいので。ね、赤石君?」

「はい……」

「じゃあ、お願いしようかしら」


 洋子は暮石と赤石をキッチンに招き入れた。


「許可が出ないと立ち入れないの、吸血鬼みたいだな」

「赤石君は吸血鬼っぽいけどね」

「吸血鬼は陽の当たる場所を嫌うからな。まぁ似たようなもんだ」


 赤石は袖をまくった。


「何作ってるんですか?」


 赤石が鍋を覗く。


「あごだしのお鍋ですけど、苦手な物とかありますか?」

「赤石君は?」

「苦手な物はあるけど、食べれない物は多分ない」

「意外~」


 暮石がぱちぱち、と拍手する。


「赤石君って人の好き嫌い多いから、食べ物の好き嫌いも多いのかと思ってた」

「偏見すぎるだろ」

「悠人くんは人の好き嫌い多いのねぇ」

「お義母さん……」


 赤石がため息を吐きながら洋子を見る。


「お義母さん言うな」


 朋美がキッチンにいる赤石に突っ込みを入れる。


「お母さん以外呼び方ないだろ」

「そうよ、朋美。悠人くんに謝りなさい」

「謝るほどのことじゃないから!」


 平田は足を上げ、返事する。


「テーブル拭くね、私」


 暮石はテーブルを拭きに行った。


「何すれば良いですか?」

「じゃあそこの白菜切っておいてくれる?」

「分かりました」


 赤石は白菜を洗い、包丁で切る。

 洋子は赤石が切る野菜を鍋に敷き詰める。


「お皿どこですか~?」


 テーブルを拭き終えた暮石が皿を探す。


「食器棚の上から二番目」

「なんでお前が知ってるんだよ」


 暮石は食器棚を見に行く。


「ありがとうねぇ、悠人くん」

「何がですか?」


 洋子は料理をしながら、赤石に話しかける。


「朋美と友達になってくれて」

「……いえ」


 赤石は平田を見る。

 平田はソファーで縦型の動画を見ていた。


「よし!」


 洋子は気合を入れる。


「今日は朋美のお友達も来てくれてるし、良いお肉出しちゃおっかな!」


 洋子は冷蔵庫から高級肉を取り出した。


「もう、良いってお母さん! こんなのに良いお肉とか出さなくて」


 平田は母にブーイングする。


「朋美の大切なお友達なんだから、ちょっとはお母さんが良いところ見せるのよ」


 ね、と洋子は赤石とアイコンタクトを取った。


「俺は別に……」


 赤石はたじろいだ。


「本当に、ありがとうね」

「……」


 洋子は赤石に再び、頭を下げた。






「そろそろできますよ」


 洋子は料理を終え、鍋をテーブルへと持って行った。


「お箸どこ?」

「食器棚の一番下」

「だからなんでお前が知ってるんだよ」


 赤石たちは皿や箸などを用意する。


「はい、出来ました~」


 洋子はテーブルの中央に鍋を置いた。


「やっとできた~?」


 平田がのそのそとやって来る。


「え~、なにこれ? 私の嫌いなやつ入ってるんだけど~」


 これとこれ、と平田が指を指す。


「大丈夫だ、俺がお前に食べさせてやるから」


 赤石は平田の皿に鍋をよそう。


「赤ちゃんじゃないから」

「離乳食ってもう卒業しました?」

「赤ちゃんじゃないから」

「市販の普通のドッグフードなんですけど、食べてくれますかね……?」

「金持ちの家で良い物食べてるせいで、安いドッグフードに口付けなくなった犬じゃないから」


 貸して、と平田は自分の皿に鍋をよそった。

 その後、洋子が全員分の鍋をよそう。


「さ、じゃあ皆さん座って」


 洋子がパン、と手を叩いた。

 赤石と洋子が向かい合うように座り、赤石の隣に暮石が、そして暮石と向かい合うようにして平田が座った。


「いただきます」

「「「いただきます」」」


 赤石たちは鍋を食べ始める。


「お茶、ちょっと少ないわねぇ」


 四人のコップにお茶を注ぎ、洋子が少なくなったお茶を見る。


「おい朋美、取って来い」

「なんでお前が指図するわけ? お前が取って来い」


 赤石はお茶を取りに行った。


「ごめんねぇ、お客さんなのに」

「いえいえ」


 赤石はテーブルにお茶を置いた。


「暮石ちゃんは下の名前はなんて言うの?」

「あ、三葉です。暮石三葉」


 まぁ、と洋子が頬に手を当てる。


「三葉ちゃんね」

「はい、はい」


 暮石はぺこぺこと頭を下げる。


「うちの娘とはどういう関係なの?」

「あ、お友達やらせてもらってます。二年生の頃同級生で」

「まぁ、まぁ」


 洋子が暮石と朋美とを交互に見る。


「容疑者みたいだな」

「取り調べじゃないから」

「ふふ」


 洋子は小さく微笑んだ。


「三葉ちゃんと悠人くんとはどういう関係で?」

「……」


 暮石が赤石を取る。


「こっちも、二年の頃の同級生で」


 暮石が赤石を紹介する。


「で、赤石君は二年と三年で朋美の同級生で」

「あら~」


 洋子が嬉しそうに手を合わせた。


「娘がお世話になってます」

「娘をお世話してます」

「されてないわ」


 どうぞ、と洋子が赤石の皿に肉をよそう。


「本当にありがとうね、うちの娘と友達になってくれて」

「いや、もう、そんなの全然!」


 暮石が手を振る。


「面倒くさいでしょう、うちの娘?」

「はい!」


 赤石が元気よく答えた。


「主人が病気で入院してからは、娘ともめっきり話す機会が少なくなってねぇ……」


 洋子は昔を思い出すようにして、語り始めた。


「毎日毎日夜遅くに帰ってきて、友達もガラの悪そうな女の子か、悪い顔の男の子をたまに家に連れてくるくらいで」

「赤石君もそこそこガラ悪いけどね」

「失礼だな、お前」


 赤石が暮石を半眼で見る。


「そのお友達も、たまに家に来たらずっと部屋にこもりきりで、私が話しかけてもほとんど無視されて」

「今はもう関わってないから」


 赤石と暮石は洋子の話を静かに聞く。


「お父さんが入院してからは、私も一人で食事をする機会が増えて」

「……」


 朋美が顔を伏せる。


「でも、こうしてお友達が家に来てくれて、こんなに明るい食卓は久しぶりです」


 目元に深い皺が刻まれている洋子は、くしゃりと笑った。


「そうですか」

「……」


 赤石と暮石は照れくさそうに笑った。


「良かったら、これからもうちの娘と仲良くしてもらえると嬉しいです」

「いや、こちらこそ」


 赤石たちはリビングで団欒し、お互いに同じ鍋をつついた。







「送りましょうか?」


 食事を終え、しばらく歓談した赤石たちは平田の家を出ようとしていた。

 洋子が車の鍵を持って、外に出る。


「いや、もう全然。家近いんで」

「でも危ないでしょう?」

「大丈夫です」

「三葉ちゃんも」

「あ、私お母さんに車で迎えに来てもらうように頼んでて」

「そう……?」


 洋子は残念そうに二人を見送る。


「本当に大丈夫?」

「いや、もう全然!」

「お母さんが迎えに車で待ってても良いのよ?」

「あ、もう待ってもらってて」

「じゃあ一緒に……」

「いや、もうそんな、大丈夫です!」


 暮石は洋子の善意を遠慮する。


「じゃあ……また、来てくださいね!」

「おやすみなさいませ」

「ありがとうございました~!」


 赤石たちは平田の家から出る。


「ほら、あなたも!」

「お、おやすみ~……」


 朋美は恥ずかしそうに頬を赤らめ、赤石たちに手を振った。


「……」


 赤石たちは平田の家を出て、道路を歩く。


「楽しかったね」

「そうだな」


 夜も遅いため、真っ暗になった道を、二人で、歩く。


「……ね」

「どうした?」


 暮石は赤石の手を握った。


「手、つなごっか」


 暮石はニコニコとしながら、赤石に顔を近づける。


「あんまり外でこんなことしたくないんだよな……」


 赤石は困惑する。


「良いじゃん良いじゃん、誰も見てないんだから」

「誰も見てないかどうかは分からないだろ」

「彼女の言うことが聞けないわけ?」

「いや、別に嫌とは言ってないだろ」

「じゃあ良いじゃん」

「ん~……」

「大丈夫だって。ほら、先っちょだけ、先っちょだけだから!」

「何の先っちょだよ」


 暮石は赤石の手を握りしめる。

 じっとりと、手に汗をかいていた。


「やば」


 暮石はハンカチを取り出し、手を拭く。


「緊張して汗かいちゃった」


 あはは、と暮石は苦笑する。


「汚いよね」

「いや、別に良いけど……」


 暮石は再び赤石の手を握り、体を寄せた。


「二人っきりだね」

「結構色んな家とかあるけどな」


 向かいから、人が歩いて来る。

 赤石は暮石の手をぱっと離した。


「……」


 横を通り過ぎたことを確認し、暮石は再び赤石と手をつなぐ。


「なんか悪いことしてるみたいだね」


 ふふふ、と暮石は嫣然と微笑んだ。


「悪いことなんじゃないか、じゃあ?」

「赤石君のえっち」


 暮石は胸元をパタパタとあおいだ。


「ね」

「……?」


 暮石は赤石の耳を引っ張った。


「今日、私帰りたくないの」


 暮石は赤石の耳元で、そっと囁いた。




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― 新着の感想 ―
暮石さんは裏表しかないステキな女性です!
暮石さんはまさに竜巻のような女性ですね!
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