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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第490話 平田清はお好きですか? 1




 卒業旅行が終わり、赤石たち一団は蜘蛛の子を散らしたように、次々と帰途につく。


「赤石」

「赤石さん」


 花波、上麦、鳥飼が、赤石の下にやって来る。


「帰る」

「元気でな」


 赤石は上麦たちに手を振る。


「三葉、帰ろ?」


 上麦が暮石を見る。


「あ~、ごめん。私これから用事あるから二人で帰ってて?」

「……りょーかい」


 上麦と鳥飼は顔を見合わせる。


「大学入ってからも、たまに遊ぼ」

「ああ」


 上麦は赤石と拳を合わせ、帰って行った。


「悠、か~えろ」

「悠~」


 須田と三千路が赤石たちの下にやって来る。


「ごめん、今日は用事があるから二人で帰っててくれ」

「あらあら。お盛んなこと」


 三千路が口元に手を当て、ぷぷぷ、と笑う。


「散れ散れ。ハウス」

「は~い。帰ろ、統」

「おう。また大学で、悠!」

「あぁ、大学に入ってからも頼むぞ」

「おう!」


 須田と三千路は赤石に手をあげ、帰る。


「じゃ、また」

「また大学で~」


 京極と新井が赤石たちに手を振る。


「悠人、また、一緒に……」

「ああ」


 卒業旅行も終わり、まだ受験の合格発表を控えている船頭は、浮かない顔で赤石たちに手を振り、帰る。


「赤石君、映研で待ってるからね!」


 それから、未市、三矢、佐藤と、卒業旅行に来ていた班員は次々とその場を後にした。


「……」

「結構減ったねぇ」


 その場に残るは、赤石、暮石、平田、高梨、八谷、那須となった。


「……」


 高梨は次々と去っていく友人たちを見送りながら、一人腕を組んで、壁に背中を預けていた。


「お嬢様」


 高梨の横で控えていた那須が、高梨に声をかける。


「お帰りになりませんか?」

「……」


 高梨は那須をギロ、と睨みつける。


「まだ帰らない」

「……承知いたしました」


 那須は高梨の一喝を受け、再び無言で高梨を待つ。


「赤石」


 八谷は赤石が一人になる機会を伺い、ずっと待っていた。

 だが、いつになっても赤石が暮石、平田と共にいるため、痺れを切らし、赤石に話しかけた。


「どうした」


 赤石が八谷を見る。


「まだ時間、あるわよね」


 旅行が終わったとはいえ、まだ日の出ている時間帯である。

 八谷はちら、と腕時計に視線を落とす。


「良かったらこれからどこか遊び行ったり……」

「あぁ、ごめん。無理だ」

「……」


 赤石は八谷からの誘いを袖にする。

 八谷は心配そうな表情で、赤石と暮石を見る。


「これからちょっと予定あるから無理そうだ。ごめんな」


 赤石は平田と暮石を見た。


「そ、そっか……」

「ああ」


 これからようやく赤石と二人の時間が取れると思っていた八谷は、がっくりと肩を落とした。


「じゃ、私、帰る……」

「ああ。車とか気を付けて帰れよ。またな、八谷」

「ありがと」


 八谷は踵を返し、とぼとぼと歩く。


「じゃ、私たちも帰るね~。皆~、気を付けて帰ってね~」


 後方から、暮石の声が聞こえる。

 赤石は暮石と横になって歩き、八谷とは別方向から空港を出る。


「あ……」


 八谷はようやく思いいたる。

 赤石は暮石と交際することになったんだ、と。

 段々と遠ざかっていく赤石と暮石の背中を、目に焼き付ける。


「赤石……」


 赤石と暮石は交際することになった。


「……」


 そう思っていたが、暮石と赤石の前に、平田がいた。

 平田を先頭にして、赤石、暮石が後方についていた。


「平田さん……?」


 気のせいか、と思い悩むことを止めた。

 本当に交際をしているのなら、平田が間にいるわけがない。

 八谷はほっと胸を撫で下ろし、空港を出た。


「お嬢様」

「……」

「……帰りましょうか」

「……ええ」


 那須と高梨は静かに、帰ることにした。








「バス使うから」

「分かった」

「道案内よろしくね~」


 空港を出て、平田は赤石と暮石を先導していた。

 赤石と暮石は平田について行く。


「何しに行くの?」

「何か平田が見せたいものがある、って」

「スーパーコンピューターとかかな?」

「なんでスーパーコンピューター見に行かないといけないんだよ」


 平田がカードをタッチし、バスに乗る。

 赤石、暮石も続いてバスに乗る。


「ドアが閉まります。ご注意ください」


 平田が席に座り、暮石は平田の隣に座った。

 赤石は平田の後方の席に座る。


「……」


 バスが発進し、走り始めた。

 その時、赤石のスマホが震えた。


「……」


 赤石は薄い目でスマホを見る。

 バスの中でスマホを見続けると乗り物酔いが激しくなるため、通知だけ見た。


『今、どこ行ってるの?』


 八谷からチャットが来ていた。

 赤石は八谷に連絡を返す。


『平田が見せたいものがあるらしいから、連れて行ってもらってる』


 赤石は八谷に連絡を返した。


『そっか。楽しんできてね』

『楽しめる内容なら良いけどな』


 赤石は八谷にそう連絡を返し、スマホをカバンの中にしまった。

 乗り物酔いを防ぐため、窓の外を見る。


「結構遠いんだな」


 赤石は前の席の平田に声をかける。


「着く時は言う。空港の近くだから、あんまり時間はかからない」

「そうか」


 平田は後ろを振り返り、赤石にそう教えた。

 一体どこに連れていかれるんだろう、と悶々としながら、赤石は外の景色を見ていた。




 しばらくバスが走り、いくつかの停留所を通った。


「ドアが閉まります、ご注意ください」


 停留所でバスに人を乗せた後、平田が後方にいる赤石に振り返った。


「次、降りるよ」

「結構遠かったな」

「文句言うな」


 平田は暮石にも声をかける。

 次の停留所で、赤石たちはバスを降りた。


「……」


 赤石は目の前の建物を、細目で見た。


「病院……?」


 暮石が赤石をちら、と見る。

 赤石たちの眼前には、山で囲まれた大きな病院がそびえていた。


「行くよ」

「あ、ああ」


 平田は赤石たちに声をかけ、病院に入って行く。

 病院で受付を終わらせ、平田は病室へと向かった。


「お見舞い……?」

「みたいだな」


 赤石と暮石は緊張した面持ちで、平田の後を追う。

 平田は指定された病室へと、入った。


「……」


 ドアを開け、平田が病室に入る。

 平田の向かう先には、やせ細った一人の老人が、ベッドで寝ころんでいた。


「散々、だった、なぁ……」


 老人は窓の外を眺めながら、何かぼやいていた。

 赤石と暮石は平田の後方から、距離を取りながらゆっくりと病室へと入った。


「なんで、だろう、なぁ……」


 ぼそぼそと、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、老人はそうぼやく。


「お父さん」


 平田は老人に、そう声をかけた。


「あぁ……」


 平田の声掛けにも気付かず、老人はぼんやりと寝ている。


「お父さん!」

「……あ、あぁ」


 平田の声に気が付いた老人は、平田の顔を見た。


「と、朋美、か……」

「お父さん……」


 老人はくしゃくしゃの顔をさらにくしゃくしゃにして、平田にそっと笑いかけた。

 老人のように老いている男は、平田の父、平田清ひらたきよしであった。


 およそ健康とは思えない様にやせ細った体をした清は、老い先が長くないように思えた。

 手足に肉がなく、骨ばっていてあまりにも細い。

 頬はこけ、目は爛々と輝いている。

 目の焦点があっておらず、どこを見つめているのかよく分からない。


 赤石と暮石は、平田の後ろにそっとついた。


「お見舞い、来たよ」

「あぁ……。ありがとう、ありがとう、な」


 平田は道すがら買っていた果物の詰め合わせを、置いた。


「後ろは……?」


 清は赤石と暮石を見る。


「友達、か?」


 清は平田に尋ねる。


「……」


 平田は不安そうな顔で、うつむいた。


「朋美さんの友人です。赤石と言います」


 平田がうつむくや否や、赤石は真っ先にそう答えた。


「あ、と、友達、です。暮石と言います」


 暮石は赤石に遅れ、そう名乗った。


「は、はは……」


 清は赤石と暮石を見やり、破顔する。


「嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」


 満足そうに、自身の胸を撫でる。


「朋美に、こんな、立派な、友達が出来て……。嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」


 清は赤石と暮石を見ながら、小さな声でそう喜んだ。


「朋美……」


 清は細い目をさらに細め、目を弓なりにする。


「立派に、なったなぁ……。嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」

「お父さん……」


 平田は父と見つめ合う。


「今まで、ロクに、友人も、できなかったのに、こんな、立派な友達ができて、嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」

「……言いすぎだよ」


 平田は洟をすする。


「出よう、暮石」

「……うん」


 赤石と暮石は家族水入らずな時間を過ごす平田を気遣い、病室を出た。


「立派に、なったなぁ……」


 清は娘の成長を、心底喜んでいた。



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― 新着の感想 ―
八谷も船頭もいる中でほんとになぜあの告白で押し切られたのか...
那須さんのフォローあると思ったのだが。
どうやらかなり若い人だったみたいですね、そんなに早く重病患者になるなんて。最初は平田の父親って家族に無関心な人なのかと思ってました。どうやら平田が非行少女になったのは母親の過保護が原因なのかも?でも彼…
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