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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第489話 三田雫はお好きですか? 2



 水城一同の中から一人出て来た三田は、赤石たちに向かって小走りでやって来る。


「知り合い?」

「誰の?」

「三田ちゃんじゃない?」

「誰の友達?」


 面識はあるが誰への用か分からないため、赤石たちに動揺が広がる。

 三田は無言で赤石一同の中に突っ込んだ。


「三田ちゃん?」


 先頭にいた暮石が、三田に声をかける。


「おはよ」

「え、あ、おはよう……」


 三田は暮石を瞥見し、そのまま人をかき分け、一点突破する。


「戦国武将みたいなやつがいるな」

「誰の友達?」


 最後方で三田の様子を見ていた赤石と黒野は、のんびりと雑談する。


「三田?」

「どいて」


 平田の静止も聞かず、三田はどんどんと人をかき分ける。


「なんで中央から突破してんだよあいつ」

「こっち来てない?」


 三田はそのまま人をかき分け、一団を抜け出した。

 一団から離れて最後方で待機していた赤石と黒野は、ギョッとする。


「道開けとこう」


 赤石と黒野は、三田の進行方向から距離を取る。


「……」


 一団を中央突破していた三田は、赤石と黒野が道を譲ると同時に、赤石の下へ突き進む。


「いやいや……」


 三田と全く面識のない赤石は、黒野の背後に隠れる。

 三田は不機嫌そうなまま、黒野の前で立ち止まった。


「え、あ、あ……」


 黒野は恥ずかしそうに頬を染め、前髪をいじりながら目を隠した。

 赤石は黒野の背後に隠れ、その場をやり過ごそうとする。


「後ろ」

「後ろ……」


 黒野は後方を振り返る。

 黒野と同様に、赤石も後方を振り返る。


「何も……。あは、はは……」


 黒野と赤石の後方には、誰もいなかった。


「そいつ」


 背の高い三田は、黒野の背後にいる赤石を指さした。

 黒野はすぐさま、横に飛びのく。


「……」


 黒野が横に飛びのき、赤石の姿があらわになる。

 三田は赤石と対峙した。


「クソ……」


 赤石は舌打ちをする。


「これで勘弁してくれ……」


 赤石は財布から、牧場の採れたてミルクの三十円割引券を三田に差し出した。

 乳搾り体験で乳搾りをした際にもらった割引券だった。


「……」


 三田は赤石が取り出した割引券をパン、とはねのける。


「やっぱりこれじゃ駄目か……」


 赤石は牧場の採れたてミルク、フルーツ味の三十円割引券を三田に差し出した。


「……」


 三田は赤石が取り出した割引券をパン、とはねのけた。


「そうか……」


 赤石はしばらくの間、考える。


「はぁ……」


 赤石はため息を吐いた。


「他の皆には内緒だぞ」


 赤石は紙に、自作のサインを書き始めた。

 サインを書くよりも早く、三田は赤石の紙をパン、とはねのける。


「そんな用じゃない」


 三田は高圧的に、赤石を見る。


「……」

「……」


 赤石と三田はその場で、対峙する。


「私!」


 三田は声を張り上げた。

 髪にボリュームがあり、ゆるい縦ロールをかけたあどけない少女だった。

 黒のシースルーワンピースを着用し、あどけない容姿とは裏腹に大人びた服装をする三田は、男からの支持を受けそうな風体だった。


「私、三田雫みたしずく!」

「ご丁寧にどうも」


 赤石と三田はお互い、軽く会釈する。


「俺は浄堂新一朗じょうどうしんいちろう。キャピタルスタッシュ芸能社が絶賛売り出し中の若手俳優だ、よろしくな」


 赤石は握手のため、手を差し出す。


「赤石、嘘吐かない」


 遠くから見ていた上麦が、横から茶々を入れる。


「……」


 パン、と三田は赤石の手を弾いた。


「さぞかし名のある山の主と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか?」


 赤石は弾かれた手の甲を撫でながら、恨めしそうな表情で三田に抗議した。


「私、三田雫!」

「タイムリープしたのか……?」


 三田は再び大声でそう名乗る。


「三年の頃お前と同じクラスだった!」

「知ってるよ」


 三田は高校三年の頃、赤石と同じクラスだった。

 赤石も、接点こそほぼなかったものの、同じクラスであることは知っていた。平田との一件の最中、平田へのプリントの手渡しに推薦した少女の一人でもある。

 あどけない表情は男子生徒からも人気で、水城ほどでないにしても、隠れたファンも少なくない少女だった。

 高校卒業にあたり、三田は髪にゆるい縦ロールをかけ、大人びた服を着用するようになっていた。高校の制服と真面目なストレートヘアーであどけなかった三田からは、少し印象が変わっていた。

 大学へ入学するにあたり、こうして皆大人になっていくんだなぁ、と赤石は益体もないことを考える。


「お前に言いたいことがある」


 三田は高圧的に、赤石を睨みつける。

 赤石は身構えた。


「……」


 身構えている赤石に向かって、三田は頭を下げた。


「ごめん!」


 三田は頭を下げ、赤石に、謝罪した。

 身構えていた赤石は、呆けた顔をする。


「私、ずっとお前があかねちゃんをいじめてるんだと思ってた」


 三田は赤石に頭を下げながら、謝罪の言葉を口にする。


「……」


 赤石の一団の中から、鳥飼が出て来る。


「まぁ、そういうことだから……」


 鳥飼は赤石の隣に立った。


「お前はあっち側だろ」


 赤石は三田の隣を指さした。


「……」


 鳥飼は渋々ながら、三田の隣に行き、頭を下げようとする。


「いや、もう良いって。終わった話だし」


 赤石は三田と鳥飼にそう語りかける。


「二回も謝るのおかしいしな」

「まぁ、そうだけど……」


 頭を下げようとした鳥飼は開き直り、体勢を直した。


「いや、ちゃんと謝らないと私のジャーナリズムが許さない」

「ジャーナリズムって……。そんな、新聞部じゃないんだから」

「新聞部だったんだけど」

「すんません」


 三田はちら、と赤石を見る。


「あかねちゃんとお前のことを記事にして、ごめん!」

「……」


 赤石は鳥飼を見る。

 鳥飼は、赤石から視線を外した。


「間違ったことを記事にして、お前に迷惑かけてごめん」


 鳥飼との件についてそんな記事が出ていることは、全く知らなかった。

 どこでどのようにしてどの範囲に公開された記事かは分からなかったが、赤石はこれ以上追及することを避けた。


「もういいよ。終わったことは返って来ない。今謝られても、俺の一年は返って来ないし」

「……」


 三田は申し訳なさそうな表情をしながら、頭を上げる。


「それに、そもそも俺嫌われてたし。そんな記事の一枚や二枚、関係ない。虚実入り混じった情報でどうせ皆から弾かれてただろうし、もう良いよ」


 赤石は悲し気な表情でそう言う。


「別にあんなことがなくても、俺は一年間嫌われてたと思うよ。俺も人の多い所が嫌いだから、人避けが出来て良かったと思っておくよ」

「……ごめん」


 三田は伏し目がちに、また謝罪する。

 気を遣って言っているのだろう。本当は楽しい一年間を過ごしたかったのだろう、と三田は赤石に申し訳が立たなかった。


「あかねちゃん」

「……ごめん」


 次は、鳥飼が三田に謝罪する。


「ううん、私のジャーナリズムも足りなかったから……」

「決め言葉か何か?」

「私も三田ちゃんに嘘吐いちゃってごめん……」


 赤石の言葉がスルーされる。


「まぁ、うん。それだけだから。迷惑かけて、直接謝れてないのがすごいムラムラしてたっていうか……」

「モヤモヤな」

「モヤモヤしてたっていうか……うん。まぁ、それだけ」

「そうか」


 三田はすっきりした表情で、微笑んだ。


「うん、気持ち良い。やっとつっかえが取れた感じ」

「そうか」


 三田は軽く伸びをした。


「じゃ、私旅行中だから」

「ばいばい」

「あかねちゃん、ばいばい」


 三田は鳥飼に手を振った。


「あ、あと赤石」

「ついで感すごいな」


 赤石は三田に手を振る。


「私も北秀院だから、もし大学で会う機会あったらまたよろしく」

「……ああ」


 三田は笑顔で二人に手を振り、水城の一団に帰って行った。


「……」


 赤石と鳥飼は再び暮石たちに、合流した。


「ビックリしたね」

「本当にな」


 赤石は暮石の下へと戻る。

 それぞれ帰宅する空気となっていたが、一同が困惑した表情で赤石を見る。


「よし、みんな、解散!」


 パン、と暮石が手を叩き、再び空気をリセットした。


「ビックリした」

「ね~」


 一同は帰りの挨拶をしながら、それぞれ帰途につく。


「斬り殺されるかと思った」

「斬り捨てごめん、ってやつだ」


 赤石と暮石は二人、感想会を始める。


「でも、これで卒業旅行も終わりだねぇ」

「そうだな」


 赤石と暮石は二人、感傷に浸っていた。



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― 新着の感想 ―
この小説、ほんと終着点が読めんな
まあ、今さら彼女が幸せならそれでいい。これ以上何を求められようか?
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